2012 Fiscal Year Research-status Report
省エネルギー性と品質を考慮した水産物流通工程の最適化手法の検討
Project/Area Number |
23580278
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Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
渡邊 学 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 准教授 (30277850)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 徹 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 教授 (50206504)
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Keywords | 国際情報交換 |
Research Abstract |
24年度は、実施計画の通り、マグロを対象とした研究を集中的に進めた。本年度はマグロに関して、再現性のあるデータを得るための官能試験の評価手順の開発を行った。サンプルには、取り上げ後の履歴が明確で均質な品質が期待できる養殖クロマグロ(三重県産)を用いた。本試験としては100人の消費者パネルによる官能評価を行った。三重県で取り上げたマグロは航空便で東京に運ばれ、ここで専門業者によりサク取りされ、半分は凍結して大学に運ばれた。凍結されたマグロは、官能試験の前日から氷水で解凍し官能試験に供した。 実験の結果、総合評価スコアが二極化するという結果になったが、主成分分析を行ったところ、好ましさや脂ののりなどの個別評価項目の点数との相関が確認された。このことから、総合評価スコアの二極化は、実際のサンプルの特性と関係していたと言え、すなわち官能試験の手順は適正であったことが示唆された。また生品と凍結-解凍品の間に顕著なスコアの差は見出されなかった。 これと並行して生鮮輸送と冷凍輸送のサンマに関するLCAを行った。震災復興の観点から宮城県女川港で水揚げされたサンマを対象に計算を行った。一次データは、直接利用できるものはなかったため、条件が類似していると考えられるデータを用いた。特に、サンマの船上凍結は実際には国内では実施されていないため、マグロ船のデータを流用した。計算の結果、生鮮輸送は1.32 t-CO2/t-サンマと最も環境負荷が大きくなり、一番環境負荷が小さいのは水揚げ後に陸上で凍結して冷凍コンテナを鉄道で運ぶという方法(0.67 t-CO2/t-サンマ)であることがわかった。この結果と、昨年度測定した生鮮サンマと冷凍サンマのWTP値から環境効率を算出したところ、冷凍サンマの方が高い値となった。これより、環境負荷と品質の両面を勘案しても冷凍サンマの方が優れていることが定量的に示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
24年度は高級魚に属するマグロを対象として研究を進めた。マグロの場合、サンマとは違って、固体差がそのまま測定の再現性に影響してしまうため、今回は、国内の養殖マグロを使った試験を試みた。養殖ならば、飼育環境、期間、エサ、サイズなどが管理されており、取り上げ後の処理もすぐに行われるため、場所とサイズを規定すれば再現性が得られると考えたためである。 ところが養殖マグロは、市場のニーズに合わせて、脂質含量を増やすような飼育がおこなわれており、本来赤身であるはずの部分にまで脂質が入り込み、部位による肉質の違いも天然と変わらず大きかった。今回の実験で得られた総合評価スコアが二極化したのは、これが原因であったと考えられる。データが二極化してしまったためWTPの比較は行わなかったが、そもそも今回の実験の主目的は、マグロにおける官能試験の手順を確立することであった。昨年行った大規模官能試験の反省を踏まえて、今回は100人のパネリストを25人ずつの4グループに分けるなど、幾つもの改善を行い、これにより整然と官能試験を行うことができた。実験の結果、データは二極化したものの、それはサンプルの特性と相関していたことが確認できたため、後は均質なサンプルを入手することができさえすれば、精度よくWTPを測定できると考えられる。 また、LCAの結果が出たことで、昨年度実施した官能試験結果と合わせて、環境効率を計算することができた。この結果より、環境負荷と品質の両方を勘案しても、冷凍輸送の方が生鮮輸送より優れていることを定量的に示すことができた。 以上、マグロのWTPについてはもう少し検討が必要だが、ほぼ計画通りに進行していると言える。ただ、予定していた論文の投稿が遅れている。サンマの大規模官能試験に関しては論文にできるだけの内容と考えられるため、何とか執筆に掛かりたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
前述の通り、ほぼ計画通りに進行していることから、今後も基本的には計画に従って研究を推進してゆく予定である。当面は、マグロのWTPをどうやって出すかということ、また凍結条件や解凍条件を変えた場合に、WTPによってその違いが評価できるのか否か、を試してみる予定である。 また、サンマに関しては、実際に船上凍結されたものと生鮮輸送されたもので、官能試験を行ってみたいと考えているが、先に述べたようにサンマの船上凍結は、現在国内では行われていない。できるならば、サンマの船上凍結を請け負ってくれる漁船を見つけてサンマで行ってみたいが、それが無理な場合は、活魚のアジを調達して、それで比較実験を行うことも考えている。さんまの場合、漁期が限られるため、実施の時期についても予め検討しておくことが必要である。 また計画では、マダイ、ヒラメなどの活魚輸送について、環境負荷を調べることになっている。これも、すでに作業を始めているので、計画通りに遂行可能と考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
25年度に計画している試験は、サンマもしくはアジによる、即殺後即凍結と即殺後氷漬け保存の比較である。サンマの船上凍結実験がもしできるとすれば、それは費用の面まで含めて協力してくれるカウンターパートが見つかった場合なので、その分の費用は考えていない。アジについては、活魚業者から購入した実績があり、もちろん変動はあるが、概ね10万円程度と考えている。官能試験実施用の消耗品は10万円程度かかる見込みであり、以上を物品費から拠出する。また、官能評価に当たってサンプルの最適な取扱いを前もって検討する必要があるが、水産物の取扱いは鈴木教授に協力をお願いすることになっているため、経費も鈴木教授の間接経費で充当する予定である。 官能評価のパネリストは100名を予定しているおり、一人当たり1000円程度に相当する謝金を差し上げる予定である。官能評価で正しい結果を得るためには、パネリストのコンディションとモチベーションが重要であり、何がしかの謝礼は不可欠である。また鮮魚の場合、調理が大変難しく、なおかつ調理の出来栄えが評価に大きく影響するため、調理は専門の調理師に頼むことが不可欠である。また官能試験の専門家の指導を仰ぐ予定であるが、謝金は前年度までの残額もあるので、問題はないと思われる。 旅費は、夏の食品工学会(京都)と国際会議に使用する予定である。その他は、論文投稿や、予備として考えている。
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Research Products
(2 results)