2012 Fiscal Year Research-status Report
亜熱帯域に生息する有毒甲殻類に含まれる高機能性新規構造多糖類に関する研究
Project/Area Number |
23580280
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
浅川 学 広島大学, 生物圏科学研究科, 准教授 (60243606)
|
Keywords | 構造多糖類 |
Research Abstract |
亜熱帯域に生息する有毒甲殻類の甲殻を研究対象としてキチンなどの新規機能性構造多糖類を探索する過程で、食中毒原因種であるオカヤドカリ科ヤシガニBirgus latro甲殻にズワイガニ甲殻に主成分として含まれるキチンとはその諸性状が異なる構造多糖類の存在することを認めた。本研究では、1)ヤシガニ甲殻由来の機能性構造多糖類(I)の性状解明、2)(I)より精製されるキトサン(II)の性状解明、3) (I)より調製される機能性ゲルの諸性状とその微細構造の解明、並びに4)上記3点を総括する高次有効利用法の検討を目的としている。研究計画2年目となる平成24年度は、まず、初年度に確立したカニ類甲殻からの(I)の精製法を用いて、石垣島で入手したヤシガニ甲殻から(I)の大量精製を試みた。これにより洗浄したヤシガニ甲殻(乾燥物重量 4.5㎏)より(I)を627g得ることができた(収率は14%)。一方、昨年度採取した石垣島産の麻痺性貝毒を著量含むスベスベマンジュウガニ甲殻からのキチンの精製も行い(I)を50g得ることができた。さらに、得られた(I)の化学構造に関する情報を得る目的で、それぞれの赤外線吸収(IR)スペクトルの測定をATR法により行った。(I)におけるNHCOCH3のうち、C=Oの伸縮に起因するamideIの特徴的な吸収(1661cm-1)、N-Hの変角に起因するamideIIの特徴的な吸収(1558cm-1)が共通して認められたが、キチン標品の吸収パターンと比較すると標品に認められない大きな吸収帯(3000~3500 cm-1)がヤシガニより精製した構造多糖類(I)において認められ、構造の違いが示唆された。ヤシガニ甲殻より多量の(I)が精製されたことはこれまでに例がなく、多方面への研究展開が期待できる。現在、電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)による詳細な元素分析を実施している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、1)ヤシガニ甲殻由来の機能性構造多糖類(I)の性状解明、2)(I)より精製されるキトサン(II)の性状解明、3) (I)より調製される機能性ゲルの諸性状とその微細構造の解明、並びに4)上記3点を総括する高次有効利用法の検討を目的としている。研究計画2年目となる平成24年度は、初年度に確立したカニ類甲殻からの(I)の精製法を用いて、石垣島で入手したヤシガニ甲殻から(I)の大量精製を試み、そのIRスペクトルから機能性構造多糖類(I)の構造について検討を加えた。その後、(I)の化学構造について検討したが、大量精製に時間を要し、化学構造の詳細は解明できなかったが既知物質との構造上の違いを大筋で明らかにすることができた。また、同様に調製した(I)の誘導体キトサンについても既知物質との構造上の違いを明らかにすることができた。なお、引き続き、化学構造の検討を行っている。一方、本法により精製されるヤシガニ甲殻構造多糖類(I)は、同じ方法でスベスベマンジュウガニ甲殻より精製されるキチンと明らかに強度の点で明瞭な差があり、特に、FE-SEMによるキチンの表面構造に明瞭な際が認められた。すなわち、ヤシガニ甲殻由来キチンでは、表面が多くの板(面)による層状構造であるのに対して、スベスベマンジュウガニ甲殻由来の(I)は、多くの繊維状の組織が観察され、このような構造上の差異が組織強度に反映しているものと考えられた。引き続き、想定される高次機能(貝毒やフグ毒の吸着能など)についての検討を行っている。おおむね目標は達成されたものと考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、本研究計画の最終年度にあたり、平成23、24年度に得られた結果を基にして、さらに、構造多糖類の詳細な構造解析も含めながら主として、高次有効利用法を念頭におき研究を推進する予定である。① 精製したヤシガニ由来構造多糖類(I)の化学構造について、比較対象として用いるズワイガニ由来のキチン標品などの機器分析データとも照らし合わせて考察する。また、構造多糖類(I)より得られるキトサンを回収し、二枚貝毒化原因種である渦鞭毛藻の殺藻効果と麻痺性貝毒成分の吸着回収能の評価を行う。また、脱アセチル化度の異なるキトサン様物質(II)を調製し、上記効果の違いを検討する。一方、可能な限りオウギガニ科有毒カニ類を採取し、本種における構造多糖類(I)の含有量や分布についても調査・検討する。② 精製した(II)をホルムアルデヒドでN-アリリデン化することにより、“保水性”に優れたゲルを調製する。なお、保水性の評価は、十分に乾燥させたゲルに水を添加することによるゲルの乾燥時の体積に対する膨潤後の体積比として求める。また、ゲル強度をレオメーターにより測定する。一方、上記、ホルムアルデヒドゲルの自然乾燥および凍結乾燥薄膜を調製した後、両者の微細構造を走査型・透過型電子顕微鏡により観察する。このキトサンホルムアルデヒドゲルの保水性について、キチン標品(ズワイガニ甲殻由来)より調製されるゲルの保水性および薄膜の微細構造と比較しながら検討を加える。構造多糖類(I)のバイオマテリアルとしての可能性・応用上の問題点を3年間のデータを整理・総括しながら総合的に考察するとともに、得られた結果を取りまとめ、可能な限り国際会議での成果発表を行う。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、本研究課題実施により平成23、24年度に確立された構造多糖類(I)の精製法をヤシガニ以外の南西諸島産オウギガニ科有毒ガニ(ウモレオウギガニ、スベスベマンジュウガニなど)甲殻にも応用し、由来の異なる構造多糖類(I)の大量精製を試みる。また、ヤシガニ由来の構造多糖類(I)の他、調製されるヤシガニ以外の生物種由来の各種構造多糖類についても、可能な限り、性状の解明に努める。一方、今年度は、さらに、上述のようにして調製した各種構造多糖類およびそれらから誘導されるキトサンの麻痺性貝毒産生能を有する藻類の駆除や麻痺性貝毒吸着能の検討を行う。併せて、同様の活性を持つフグ毒テトロドトキシンについても吸着能の検討を行う。以上が、平成25年度の研究計画の概略であるが、本計画達成のため、平成25年度に措置される研究費を主として有毒甲殻類からの構造多糖類(I)の精製および諸性状を解明する際に必要となる機器分析用の試薬および有毒カニ類の毒性評価に使用する実験動物の購入に主として使用する予定である。また、研究費の一部は、沖縄県石垣島における資料収集及び国内外の学会における研究発表や情報収集のための旅費として使用する。
|