2012 Fiscal Year Research-status Report
ゲーム理論による農民参加型灌漑管理組織の持続可能性条件の解明
Project/Area Number |
23580287
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
近藤 巧 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (40178413)
|
Keywords | 灌漑 / 換金作物 / 水利組織 |
Research Abstract |
昨年同様、ネパールカトマンズ盆地のサク村の農村調査を実施した。2012年にこの村の水路が壊れ、改修が行われた。この改修の担い手は、村のボランティアであった。サク村には、農業水利組合が存在しないため、農民の水路改修への出役義務はない。水路改修への出役農民の特徴は以下のとおりであった。(1)農業への生計への依存度が高い農家である。(2)水路の中流部ないしは下流部に農地を保有している農家が主流を占める。(3)数十年前より、確固としたリーダーの役割を果たす農民が存在する。(4)農村開発委員会から補助を受けている。補助金は、農業水路を改修に必要な資材費に充当されている。 こうした事例から、灌漑水の配分は上流優位、水路の維持管理は、最も水を必要として農民が自発的に担っていることが明らかになった。さらに、フォーマルな制度や組織がなくても、自発的な農民の努力がなされ、外部からの補助が存在しているうちは、かろうじて水利施設の維持か可能であるといえる。組織そのものの維持に要する管理費用は皆無に等しいが、将来的には、リーダーの不在や維持管理資金の不足などが予測されるため、水利施設の維持管理は安泰とはいえない。総受益者協力型のフォーマルな水利組合と自発型のインフーマルな水利組織の長所と短所が明らかになった。また、下流部においては、収益性の高いトマトの栽培が拡大していた。農家の記録からトマト栽培の収益性の高さとともにリスクの高さが明らかになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
サク村における農民の協力関係の形成という枠組みに関する論点が明確になった。一律に水利組合の形成といってもその中身は、いろいろなレベルやタイプが存在することが明らかになった。水利施設の維持管理や水配分を担う組織はインフォーマルなのか、それとも、フォーマルなのか、また、農民の自発的地域公共財の供給機能に多くを依存しているか否かによって、ゲーム理論の適用条件が異なることが明確になった。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの、調査結果を踏まえて、(1)上流農家と下流農家との間の相互依存関係の存在を仮定したモデル、(2)中流・下流農家による自発的地域公共財供給型のモデル、を念頭に置きながら農民の協力関係を分析する。さらに、農家・農村調査によって農業水利資本ストックの維持管理活動の実態を明らかにする。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ネパールを中心に、さまざまな水利組織の調査を通じて、農民の協力関係の構築原理を明らかにしてゆく。昨年度は、パキスタンのシンド州の灌漑システムの維持管理に関する調査、データの収集をカウンターパートに依頼していたが、治安状態等をはじめ諸般の事情により実施できず、謝金を繰り越した。未使用額の研究費は、農村調査やデータの収集に当てる予定である。研究費は農民の協力関係の構築原理を明らかにするそのための調査旅費、現地カウンターパートや通訳への謝金、消耗品、論文の校閲料金などとして支出する予定である。
|