2012 Fiscal Year Research-status Report
近代日本農村における土地担保の展開と地主制に関する研究
Project/Area Number |
23580291
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
大栗 行昭 宇都宮大学, 農学部, 教授 (50160461)
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Keywords | 農業経済学 / 農業史 |
Research Abstract |
明治期には新しい土地担保制度が整備され,質権・抵当権・買戻などの新たな担保が登場する一方,質地請戻し慣行など近世的な担保慣行も残っていた.新しい土地担保,特に買戻の慣行はいかにして成立したのか,新旧の土地担保は互いにどのような関係をもち,その関係は資本主義の進展や農村をとりまく諸状況の変化とともにどう変化したのか.これらの担保は地主制の成立や後退にどうかかわったのか.本研究は,各地に保存されている一次資料を利用して,近世から近代に至る土地担保の構造と変化の過程を地主制の動向とかかわらせて考察することを目的とする. 昨年度は,明治前期における新旧担保の混在,質地請戻し慣行から買戻慣行への転化の事実を明らかにした.そこで今年度は,明治期に制度化された書入(のち抵当権)の展開を明らかにしようとした.従来の研究では近世の田畑質,近代の質入が地主制の形成要因として専ら注目され,書入は非占有担保としての利便性から質入を上回って利用されたと指摘されるにすぎないためである. 資料の収集と分析により,次の事実が明らかとなった.①同じ担保に対して書入で借用できる金額は質入の半額程度,期間も半分以下と短く,書入は軽便で弁済しやすい担保であった.②通説では書入が弁済不能になった場合は書入地の競売代金をもって弁済すると理解されているが,しばしば質入に移行し,あるいは流地売渡になった.後者では買戻契約が付くこともあった.したがって書入→質入→売渡(→買戻)という土地担保金融の流れが存在した.③明治10年代後半には書入から質入・売渡への移行が激しかったが,20年代以降は弁済される書入が多かった.農民にとって書入は,松方デフレ期には資産・経営状況を悪化させる一因であったが,その後は金融の手段として大いに活用されたとみられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画に従って資料の収集を継続し,23年度計画分と合わせた収集資料の3分の2ほどを分析し,上述の結果を得た.
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Strategy for Future Research Activity |
17万円の未使用額があるが,これに関しては3月に実施した資料収集・調査(旅費)で相当分を支出している.したがって,今後も当初の研究計画どおりに研究を推進する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
資料収集および調査を基軸とし,文献資料の購入と合わせて研究計画に沿って支出したい.
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Research Products
(1 results)