2011 Fiscal Year Research-status Report
日本における水産物の多様性に関する研究ーフードシステム論からの接近ー
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23580295
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Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
工藤 貴史 東京海洋大学, 海洋科学部, 准教授 (00293093)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 水産物の多様性 / 離島漁業 / 流通条件不利 |
Research Abstract |
本年度は、研究計画に基づき、本研究の問題意識の根幹である課題1「日本における水産物の多様性の特徴とその変化」について、統計資料から多様性を示す指標としてShannon-Wienerの多様度指数(H’ )を用いて分析した。その結果、世界全体の漁獲量と漁獲物の多様性は1950年代より上昇傾向にあり前者は1995年から後者は2000年からほぼ横ばいに推移している一方、日本は2000年代より漁獲量・漁獲物の多様性とも低下する傾向が見られた。また、日本は水産物市場および家庭消費においても水産物の多様性が低下する傾向が見られ、研究計画において立てた「日本の水産物の多様性が低下している可能性が高い」という仮説について以上の統計分析から実証された。 本年度は以上の結果を踏まえ、課題2「日本におけるマイナーな水産物のフードシステムとその変化」を明らかにするために漁獲物の多様度が低下している可能性の高い地域において実態調査を実施した。当初の計画では、岡山県笠岡諸島、兵庫県坊勢島、静岡県下田を候補地としていたが、前2者については生産規模が零細で一般性に欠けることと、既存の統計資料からは漁獲物の多様性について把握することができなかったため新潟県佐渡と島根県隠岐諸島に変更した。また、静岡県下田地区はテングサ漁業について分析する予定であったが、別途研究プロジェクトでテングサ主産地の東京都神津島を調査したことから今年度は調査しなかった。佐渡および隠岐諸島では、本土への出荷経費が多くかかることから価格の安いマイナーな水産物は本土へは出荷されず、それに漁業者の高齢化による漁業生産力の低下も相まって、これらの水産物の資源利用が低くなり、結果として地域の漁獲物の多様性が低下していることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は「日本の水産物の多様性が低下している」という問題意識を根幹にしている。この事象は、状況証拠から推察された仮説に過ぎなかったが、本年度実施した統計分析によってその実態を実証することが出来たことから今年度の達成目標はクリアーすることが出来たと判断する。さらに、その結果を踏まえて実施された現地調査では、水産資源の利用低下の実態とその要因について明らかにすることが出来たことから、概ね順調に進展していると判断することが出来ると思われる。なお、本年度の成果のうち、統計分析については一橋大学の研究プロジェクト「自然資源経済研究会」において報告し、その内容は2012年に「自然資源経済論入門3」という図書に所収されることとなっている。また、現地調査の成果については地域漁業学会において報告し、その内容を含む論文を同学会誌に投稿し、2012年刊行号に掲載されることになっている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、課題2「日本におけるマイナーな水産物のフードシステムとその変化」についての事例分析を深めつつ、課題3「マイナーな水産物の利用促進の取り組みとその課題」について実態調査を実施し、課題4「水産物の多様性が維持されるためのフードシステム」について考察を深めていくこととする。本年度の統計分析によって、上記課題を検討するのに適した漁業地域と漁業種類について把握することが出来たので、より効率的に調査が進められることになった。また、成果を研究会・学会等で報告したところ研究者から貴重なコメントを頂いたので、それを今後の研究に活かして結論を深めていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、現地調査および成果報告にかかわる旅費の他に、統計資料、関連文献、論文別刷印刷費に研究費を使用する。研究計画では次年度において福島県相馬原釜地区を調査する予定であったが、東日本大震災の影響によって現在の漁業が再開していないため中止することとした。次年度は、本年度調査予定であった岡山県笠岡諸島を調査する他に、静岡県下田地区をはじめとするテングサ産地と寒天加工業について調査する予定である。また、課題3「マイナーな水産物の利用促進の取り組みとその課題」を明らかにするために東京都八丈島の事例調査を実施する予定である。
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Research Products
(1 results)