2012 Fiscal Year Research-status Report
日本における水産物の多様性に関する研究ーフードシステム論からの接近ー
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23580295
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Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
工藤 貴史 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 准教授 (00293093)
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Keywords | 水産物の多様性 / 漁業センサス分析 / 漁業者の高齢化 / 流通条件不利 |
Research Abstract |
昨年度は、統計分析により「日本の水産物の多様性が低下している可能性が高い」という仮設を実証した。そこで本年度はなぜ日本の水産物の多様性が低下しているのか、その要因を検討することを主たる課題とした。 日本漁業は、漁業を家業・生業とする漁家を中心的な担い手としており、水産物の多様性も彼らが地域に根ざし生きていくために地域の自然的個性=生物多様性を最大限に活かすべく自然を資源化してきたことで維持されてきたと言える。上記のように日本の水産物の多様性が低下しているのであれば、生産の局面において漁家の多様性が損なわれている可能性も高い。 そこで本年度は、漁業センサスを用いて漁家の世代構成と年齢構成について分析した。なお、2008年漁業センサスの個票データを組み替え集計する機会に恵まれたので、本年度はこの分析に力を注ぐこととした。分析の主たる結果は以下の通りである。1)個人経営体の漁業従事世帯員のうち65 歳以上の者は全体の44.8%を占めている、2)個人経営体の海上作業従事者の延べ海上作業日数は23385698 日のうち65 歳以上の日数の占める割合は38.9%である、3)個人経営体において漁業従事世帯員の組み合わせを見ると「経営主男のみ」が最も多く、次いで「経営主男+女」となっており、これらを合わせると全体の8 割を占めている、4)「経営主男のみ」と「経営主男+女」の経営体は、65 歳以上の経営体が半数を占め、世帯員2 人以下が半数を占めている。 以上のことから日本漁業の中心的担い手である漁家において、世帯員が2 名以下で65才以上の高齢単世代漁家が典型的な形態として厚く存在していることが分かった。今後、これらが順次引退していくに従い、日本全体の漁家の数も大幅に減少していくことが不可避であるが、それだけでなく高齢漁業者の減少によって水産物の多様性はさらに低下していくことが予想された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の成果として雑誌論文が2件(うち査読付きが1件)、図書が1件公表されており、当初の計画通りに成果発表が出来ている。 本年度は、計画では現地調査を実施する予定であったが、漁業センサスの個票データを組み替え集計する機会を得たので、日本漁業の生産構造と就業構造の多様性把握に力点を置くこととなった。この組み替え集計によって、これまで明らかにすることが出来なかった高齢漁業者の就業実態と生産力的な役割を詳細に把握することが出来ることから、当初の計画を上回る成果を挙げることができた。この成果については、漁業経済学会のシンポジウムで報告することになっており、同学会誌に投稿する予定である。それ以外にもこの組み替え集計を用いた分析結果を雑誌、図書において公表する予定である。 なお、この統計解析に時間がかかったことから現地調査は進んでいないが、この統計資料によって特徴的な漁村を選定することが可能になったので、むしろ次年度から効率的に現地調査を実施することができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度までに、課題1の「日本における水産物の多様性の特徴とその変化について把握する」ことについてはほぼ達成することが出来た。課題2の「日本におけるマイナーな水産物のフードシステムとその変化を明らかにする」については生産サイドの変化についてはほぼ達成しているが、市場サイドの変化についてはまだ不十分であるので現地調査から把握することとする。扱量、消費量が減少している要因について明らかにする。そして、課題3「マイナーな水産物の利用促進の取り組みとその課題について明らかにする」については、地域の事例を取り上げ、マイナーな魚種が水産物として持続的に利用されるための条件とそれが実現するためのフードシステムについて考察することとし、次年度の中心的課題としたい。そして、次年度は最終年度であるため、上記の3つの課題の結果を踏まえて、課題4の「水産物の多様性が維持されるためのフードシステムについて明らかにする」について結論を考察することとする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費の使用計画は、上記の研究推進方策に従い、課題2の「日本におけるマイナーな水産物のフードシステムとその変化を明らかにする」と課題3「マイナーな水産物の利用促進の取り組みとその課題について明らかにする」ことを目的に現地調査を予定しており、その国内旅費が主として利用する研究費となる。具体的には課題2については瀬戸内海沿岸の産地市場と九州地区の量販店への現地調査を計画しており、課題3については山口県の取り組みについて調査する予定である。旅費以外は、統計資料、関連文献、消耗品、論文別刷印刷に研究費を使用する予定である。
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Research Products
(4 results)