2012 Fiscal Year Research-status Report
環地中海における農業生産と「地中海連合」域内の食料貿易に関する研究
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23580300
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
末原 達郎 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (00179102)
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Keywords | 環地中海 / 食料貿易 / ジャスミン革命 / 食料生産 / 食料価格高騰 / チュニジア / イタリア / フランス |
Research Abstract |
本年度は、環地中海貿易と食料生産について、チュニジアを中心に調査を実施した。北アフリカ側の対象国としては、前年度のモロッコに続く研究である。ポルトガルで行なわれた第13回世界農村社会学会で、食料貿易の自由化がもたらす影響と結び付けて、日本農業と比較した研究発表を行ない、環地中海諸国の研究者と討論を行なった。 チュニジアでの実態調査は、末原と坂梨により、三つの側面から行なった。第一は、チュニジアでの食料品を中心とした物価の変動、農業生産の変動、食料品の輸出入の変動に関する基本統計情報と資料の収集、およびその分析である。第二は、チュニジア全土を対象としたエクステンシブな農業調査により、気候、植生の関係と、農業生産との関係を明らかにした。チュニジアは、地中海性気候、ステップ気候、砂漠気候と大きく分かれており、それぞれの気候の違いが植生や農業生産にも影響を及ぼしている。エクステンシブな調査により、自然環境の農業生産に与えている影響が明らかになった。さらに独立以降の時代に基づき、どのような変化が起こってきたかを記録した。第三は、食料生産と食料貿易との関係が、近年どのように変化してきているかを、市場と農業生産現場への聞き取りと文献調査から行なった。北部チュニジアでは、小麦と野菜の生産が行なわれているが、小麦の生産は一定程度に限られ、そのために小麦の輸入量は増大していた。一方、北部やボン岬では、野菜の生産が拡大していた。野菜生産の増加は都市住民の食料に対して、栄養学的にも極めて重要な役割を果たしていることが明らかになった。一方、中部ではオリーブ農業が拡大しており、オリーブ油の加工品の輸出が増大し、これによって小麦の食料輸入額を補てんしていることが明らかになった。さらに南部のデーツも、広く食用となる一方で、最近は海外への輸出品となって外貨を稼いでいることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
最初に想定していた北アフリカの2国の両方での調査を2年にわたって行ない、そのデータと分析を行なっており、研究は予定以上に進展していると考えられる。特に、ジャスミン革命が起こって以降のチュニジアにおける食料生産と食料供給の実情を明らかにでき、研究報告できたことは大きな成果であった。一方で、ジャスミン革命後も経済情勢の回復は見られず、都市部における食料品の上昇は継続しており、チュニジアの都市生活者に多くの不満と問題が継続していることも明らかになった。 また、チュニジアの小麦の輸入に関しては、環地中海という枠組みを超えて、世界を単位とした貿易が、2002年以降行なわれていることが明らかになった。しかし、オリーブ・オイルの輸出に関しては、依然として地中海貿易、特にイタリアへの輸出に依存していた。ここには、単なる食品貿易という枠組みを超えて、食品のブランド力や海外展開力、質的差異の問題が残されているように考えられる。この点に関しては、次年以降の研究の中心的な課題となる。 ヨーロッパ諸国における北アフリカとの食料貿易に関する研究は、北アフリカ諸国の研究の進行状況に比べると、まだ研究蓄積が少ない。特に、イタリア、スペインに関する分析と資料収集は、最終年度の研究調査の中心的な課題であると考える。 全体として評価した場合、北アフリカにおける研究は想定された以上に研究目標を達成していると考えられ、地中海のヨーロッパ側諸国の食料貿易に関する研究は、当初の想定の範囲内であるが、さらに研究の追加が必要であると考える。本研究の目的である地中海を中心とした最近の食料貿易の構造に関しては、予定通り研究は進展し、最終段階に進んでいると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年の調査は、イタリア、フランス、スペインを中心に実施する予定である。 昨年のアルジェリアでの人質事件以来、北アフリカの治安情勢はやや悪化しており、改善がみられない。事態の変化によっては、次年はチュニジアを調査できない場合も想定しているが、問題がなければ、チュニジアでの調査を続行する。次年度の調査は、末原が中心になるが、本年研究補助を行なった坂梨が、調査の一部もしくは分析作業の一部を分担する予定である。 ヨーロッパ諸国での調査を遂行すると同時に、北アフリカ諸国と環地中海のヨーロッパ諸国との関係性を調査し、収集した資料から分析を進めていく予定である。 また、最終的に、環日本海、環太平洋の食料貿易とそれに伴う食料生産の変化についての比較研究も本研究の課題の一つであり、これに関する調査と分析も、今後進める予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究目的を実行するためには、次年も海外調査の実行と研究報告のための海外旅費が必要であり、調査旅費としての支出を想定している。 次年度には最終的な研究報告書を出版する予定であり、そのための作成費を想定している。
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Research Products
(5 results)