2012 Fiscal Year Research-status Report
農業における過剰就業の消滅と所得格差の変化―インドネシアの個票データによる分析
Project/Area Number |
23580303
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
本台 進 神戸大学, 国際協力研究科, 名誉教授 (70138569)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 和敏 長崎県立大学, 経済学部, 准教授 (40304084)
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Keywords | 所得格差 / 過剰就業 / 転換点 / 労働力の限界生産力 / 農業賃金率 / 最低賃金率 / 貧困ライン |
Research Abstract |
本研究では、農業部門の過剰就業が所得格差の拡大を引き起こす重要な要因の一つであると考え、過剰就業が存在している時期には所得格差が拡大し、それが消滅すると所得格差が縮小するという仮説を設定し、過剰就業が所得格差に及ぼす影響を分析することを目的とする。 そのため過剰就業の有無とその大きさを見るため、州別に主要経済指標(農業賃金率、農業労働力の限界生産力、製造業賃金率、業種別貧困世帯分布など)の変化を観察してきた。それらの指標を総合的に判断しそれぞれの州を、過剰就業が既に消滅したと思われる州を第1グループ、消滅していないが農業賃金率が高い州を第2グループ、過剰就業が存在しさらに農業賃金率が低い州を第3グループとして分類した。主要経済指標をグループ別に見ると、第1グループの代表であるバリでは2010年までに既に転換点に到達していることが明らかとなった。第2グループの代表は北スマトラ州で、農業賃金率や労働の限界生産力の大きさは転換点に到達したレベルであるが、農村失業率や貧困世帯割合ではその様になっていない。しかしこれらの推移状況を見ると、まもなく到達する可能性が高い。第3グループではほとんどの指標が転換点到達のかなり以前の状況であり、総合的に見て転換点到達までにまだ時間がかかることが明らかとなった。 次に3グループの所得格差の時系列変化を観察し、それぞれのグループにおける所得格差の動向を比較すると、第1グループが最も小さく、次に第3グループ、最後が第2グループの順で所得格差が大きくなる傾向があることが分かった。したがって、こうした方法でインドネシアの経済発展段階における所得格差の変化とその要因を明らかにし、経済発展と所得格差の関係を解明することが可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
インドネシア国内の32州(農業部門のないジャカルタ州を除く)のうち、州別農業生産データが利用可能な15州について、農業賃金率、製造業賃金率、業種別貧困世帯分布などの主要経済指標の変化に基づきグループ分けすると、次の3グループに分けることができる。第1グループは過剰就業がほぼ消滅したと考えられる州(バリなど)、第2グループはそれが消滅していないがまもなく消滅すると思われる州(北スマトラ、南カリマンタン、スラヴェシーなど)、最後のグループは消滅までにかなりの時間を要すると思われる州(中部ジャワ、東ジャワなど)である。このように州別区分において、2009年の業種別貧困世帯分布の特徴を見ると、次のことが明らかとなった。第1グループでは農業における貧困世帯数が州全体の世帯数の1パーセント程度と著しく低くなっていた。第2グループにおいてはそれが約3パーセント程度であった。最後のグループにおいてはそれが4パーセントを超えた。 さらにそれぞれのグループにおいて農業労働力の限界生産力を計測すると、次のことが明らかになった。第1グループでは2009年時点で農業労働力の限界生産力が農業賃金にほぼ等しく、過剰就業が消滅したことを示唆していた。第2グループにおいてはその限界生産力が農業賃金率の50%から80%の範囲であり、過剰就業がまだ存在するが、限界生産力がかなり高くなっていた。最後のグループにおいては、農業労働力の限界生産力が農業賃金率の50%未満で、非常に低くなっていた。 以上が現在までに明らかになった内容で、当初の研究計画の7割程度まで達成できたと考える。今後は過剰就業の有無が所得格差にどのような影響を及ぼすかをより詳しく明らかにする計画である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに行った州別グループ分けに基づき、1992年以降の所得格差を計測し、所得格差の推移をより詳しく比較分析する。現在の予想では、第1グループでは1992年以降所得格差が拡大したが、過剰就業が著しく減少した2005年頃から縮小に向かったと考えられる。第2グループにおいては所得格差が徐々に拡大し、3グループのうち最も大きくなり、2010年までには縮小傾向に転じる時点が表れないと予想できる。さらに最後のグループにおいては所得格差が今後急速に拡大し、第2グループと同様に2010年までには縮小傾向に転じる時点が表れないと考えられる。 その後、過剰就業以外の要因、すなわち教育レベル、職種、就業セクター、性別、年齢などが所得格差に及ぼす影響を調べ、各要因の所得格差への寄与度を計測し、グループ間における寄与度の変化を分析する。さらに、グループ毎に世帯主の教育レベル、職種、就業セクター、年齢などを独立変数として、1992年~2008年の各年のミンサー型所得関数を推計し、教育投資の収益率を計測し、教育レベル別の各グループの収益率の差を求め、グループ間の差異を時系列的に分析する。 最後に、本研究全体をまとめて著書出版の準備をする。こうした今後の研究において、過剰就業と所得格差の関連は研究代表者(本台)が主に分析を行い、各世帯主属性の所得格差への寄与度の計測と所得関数に関する計測については研究分担者(中村)が主に行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1. 「人口センサス2010年」、「社会経済調査2012年」の調査個票は、元々平成24年度に購入を予定していたが、インドネシア統計庁における整理状況が十分でなかったため入手できなかった。そのため「次年度使用額(B-A)」が発生した。平成25年度においては、これらの個票に加え、「労働力調査2012年」、各種賃金率統計、貧困統計、州別所得統計などを入手する。これら個票データおよび各種統計資料の収集のために、ジャカルタでの現地調査(10泊11日)を1回実施する。 2. 国内での研究打合せと調査のために、次の内容で旅費を支出する。研究分担者との打合せのため、佐世保から東京への出張を1回実施する。関連資料収集のために、アジア経済研究所(千葉市)への出張を25年度に5回実施する。さらに研究成果を発表するため、大阪へ出張1回、名古屋へ出張1回を実施する。 3. 報告書作成する。同時に成果出版の準備として原稿を作成する。 4. 上記の研究活動に関連して必要となる謝金、消耗品の購入や複写費への支出にあてる。
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Research Products
(8 results)