2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23580319
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Research Institution | Osaka University of Economics |
Principal Investigator |
藤本 高志 大阪経済大学, 経済学部, 教授 (40340583)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
徳永 光俊 大阪経済大学, 経済学部, 教授 (30180136)
渡邉 正英 大阪経済大学, 経済学部, 准教授 (50434783)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 地域産業連関表 / ケインズ型GDP決定モデル / 貯蓄投資バランス / 財政移転と移出 / GDP誘発係数 / 共同入会放牧権 / 牧畑景観 / フォン・チューネン |
Research Abstract |
隠岐諸島島前地域(海士町、西ノ島町、知夫村)を対象に、離島経済維持のための農林水産業の役割を歴史的・経済的に評価した。 自給自足経済から商品・貨幣経済への移行に伴い、農林水産業が、自給自足のための耕種農業から、移出商品を生産する和牛繁殖や漁業へと比重を移し、移出の拡大が地域経済の成長をもたらした。しかし、その後、農林水産業に代わり、財政移転が地域経済の成長の担い手となる。地域のGDPの規定要因を2005年ベースで計量分析すれば、財政移転で説明できる部分が、海士町69%、西ノ島町51%、知夫村59%であった。それに対して、移出で説明できる部分は、海士町23%、西ノ島町43%、知夫村31%であった。財政移転の削減が進むなかで、地域経済を維持するためには、移出を拡大する必要がある。 移出がもたらすGDPを産業別に分解すれば、農林水産業、商業・運輸、観光により大部分を説明でき、それぞれ、海士町では38%、33%、22%、西ノ島町では63%、33%、9%、知夫村では43%、51%、6%であった。ただし、放牧がはぐくむ牧畑景観が重要な観光資源となっており、商業・運輸の移出の少なくない部分が農林水産業や観光によって誘発されている。さらに、移出1単位が誘発するGDPを産業間で比較すれば、和牛繁殖、林業、漁業、すなわち自然資源をベースとする産業において大きかった。以上の分析は、離島経済を維持するためには、農林水産業をベースとする産業振興が重要であることを物語っている。 また、鹿児島県与論町、沖縄県久米島町を対象に、農業の変遷と地域経済の成長について、調査を行った。水稲やイモなど自給作物を中心とする農業から、経済成長期、サトウキビ、和牛繁殖、野菜、花きなど移出品目を生産する商業的農業へと比重が移り、建設業や観光業の衰退が進むなかで、地域経済の農業への依存度が高まっていることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
離島経済が置かれた社会経済的環境の変化と農林水産業の変遷については、先行研究のサーベィや農協・町村への聞き取りの範囲内において調査できた。 離島の農林水産業やそれに関わる観光が地域内GDPや雇用に及ぼす影響については、地域産業連関表を生成することで、計量分析した。また、離島を対象とするケインズ型GDP決定モデルを考案し、産業連関表を利用することで、地域経済を維持するための財政移転や移出の役割を計量的に示すことができた。離島の貯蓄バランスの分析では、域際収支の赤字と財政移転の関係を示すことができた。 離島の農林水産業の多面的機能の整理とその発現メカニズムの解明に関しては、牧畑景観が、共同入会放牧権が現代に引き継がれることではぐくまれたこと、繁殖牛の頭数の増加による牧畑景観の維持・発展が期待できること、を明らかにした。しかし、牧畑景観の価値の経済評価については、実施することができなかった。 さらに、フォン・チューネンのモデルを援用し、離島において、地域資源がレントを持つための条件が、(1)交通インフラの改善や鮮度保持輸送技術の改善による、輸送費あるいは旅行費の縮小、(2)耕作放棄地の放牧への活用など、土地資源と合成資本財の代替であることを明らかにした。 隠岐諸島島前地域(海士町、西ノ島町、知夫村)を対象とする平成23年度の研究では、牧畑景観の価値の経済評価が実施できなかったという問題はあるが、離島を対象とするケインズ型GDP決定モデルの考案や、離島における地域資源がレントを持つ条件の明示など、研究計画を越える知見を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、長崎県五島列島を対象に、漁業を中心に、離島における農林水産業の価値を評価する。平成25年度は、沖縄県の離島を対象に、農業を中心に、離島における農林水産業の価値を評価する。 調査内容は、平成23年度の隠岐諸島島前地域と同様、離島経済が置かれた社会経済的環境の変化と農林水産業の変遷の歴史の解明、離島の農林水産業やそれに関わる観光が域内GDPや雇用に及ぼす影響の解明、離島の貯蓄投資バランスの分析、離島の農林水産業の多面的機能の整理とその発現メカニズムの解明、である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
調査に関わる費用として、旅費(大阪-五島、2泊3日×4回) 325千円とレンタカー借上料100千円の合計425千円を使用する。 その他、図書・資料代60千円、記録用媒体・資料整理ファイル代40千円、研究補助15千円を使用する。
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Research Products
(6 results)