2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23580333
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
多田 明夫 神戸大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (00263400)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 水質モニタリング / 濁度 / 負荷量 / 区間推定 / TOPMODEL |
Research Abstract |
平成23年度は,奈良県に位置する山林流域において,水量と水質のモニタリングとモデルによる解析を実施した. 水質モニタリングに関して,8月に現地に自動採水機を設置しテストを行い,10月より正式に,2日おきの定時サンプリングと降雨出水時の試料のサンプリングを行い,これらの試料の溶存イオン濃度,溶存ケイ酸濃度,懸濁物質濃度,電気伝導度の値を測定している.オンサイト濁度計では10分おきに観測を続けており,またFIP自動水質モニタリングシステムによりカリウム,塩化物イオン,ナトリウムイオンの10分間観測値を得ている.FIPシステムに関しては平成23年度はシステムの老朽化の手当などのため,例年より観測値の欠測率が高い状況であった.また溶存ケイ酸の土壌との接触時間と濃度変化に関する実験も実施した. 水文・水質モデルに関しては,詳細な水文モデルをもとにしたTOPMODELをベースに水質変動を再現するべく,流出解析を実施した.これにGodseyらの濃度-流量モデルを統合し,かつ濃度と流量間のヒステリシスを構造的にモデル中に取り込めるよう,改造を行っているところである. 流量・負荷量モデルに関しては,区間推定法の確立に向けて研究を展開した.溶存イオンと懸濁物質濃度に関して,確率的サンプリング法であるSALT法と定期サンプリングの組み合わせを検討し,負荷量計算には種々のレーティングカーブ法とバイアス修正法を検討し,あわせて区間推定法にこれも様々なbootstrap法を検討して評価した.この結果,(1)バイアス修正をより向上させるためにはノンパラメトリックな負荷量計算方法の導入が必要であろう事,(2)適切な負荷量の区間推定実現のためには,サンプリング手法だけでなく必要なサンプルサイズの検討も必要であることが示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究には2つの柱である現地水文・水質モニタリングデータの収集と,水質変動解析(シミュレーション),水質濃度と流量の関係の検討状況を報告する. 水文・水質モニタリングの収集に関して,水文データについては問題なく雨量と水量の観測が継続できている.水質データに関しては,平成23年度はFIPによる10分間隔の水質データでカリウムが8割欠測,塩化物イオンとナトリウムイオンで4割方欠測となった.これは装置とセンサの老朽化が主な理由で,平成23年度終わりまでにほぼ問題を解消した.濁度は平成23年度中に大出水によるセンサの転倒などのため,1ヶ月弱の欠測を生じた.自動採水機による採水は,降雨時の増水時採水を目的として一定降雨強度もしくは一定の水位増加速度を超えた場合採水を開始するよう設定しており,これに加えて定期的に2日おきに採水をさせている.洪水時採水の設定は過去の水域録をもとにシミュレーションで決定した.これらの試料に関して懸濁物質濃度,溶存イオン濃度(アニオン・カチオン)と溶存ケイ酸濃度,電気伝導度を観測している.室内実験に関しては,土水比と温度を変えつつ,接触時間と溶存ケイ酸濃度の変化についての室内実験を実施してデータを得た.データ数は少ないためか,試料土の採取深さ(土層)の接触時間-濃度関係への影響は見いだせなかった. 水文・水質モデルについては,当該流域においてTOPMODELを適用して解析を実施した.現在,Godseyらの濃度-流量モデルを統合し,ヒステリシスを生じることのできるようモデルの改造を行っているところである. 上記に述べたように,モニタリングでの問題点解決に多少時間を割かれたため,モデル開発が予定より若干遅れている.
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度以降も水質モニタリングとモデル解析の両者をバランスを取りつつ実施する計画である. 水質モニタリングに関しては,更に積分球式濁度計を現地山林流域に設置することで,懸濁物質の観測値の推定精度を向上させる.この濁度計をもとにした懸濁物質のデータと溶存態のデータの両者を継続して観測していく計画である. モデル解析に関しては,計画で挙げていた一般的な時系列解析データの応用については次年度の検討を見送ることとする.これは平成23年度の水質モニタリングの観測データの欠測率の高さがその理由である.しかしながら,データの絶対量はある程度確保されているので,Nearest Neighbor法などのニューラルネットワーク手法の適用は実施する計画である. より詳細な流出応答(流量変動)と水質濃度変動を表現できるTOPMODELをベースとしたモデル開発を継続して進め,平成23年度に実施した溶存ケイ酸の土壌接触時間-濃度の室内実験の結果も参考にしながら,主に土壌水分貯留と流量の間のヒステリシスを構造的に表現できるようモデルを改良し,これにGodseyの考え型に基づいて濃度-流量モデルを組み合わせて解析を実施する予定である.これは平成24年度中に完成する予定である. 負荷量の区間推定に関しては,ノンパラメトリックな回帰手法などを導入して,よりバイアスの小さな推定値を得るよう改善を図り,区間推定法の確立を図る計画である.またここでの負荷量の区間推定法の方法論を,TOPMODELをベースとした水質モデル出力に適用し,モデル出力結果に信頼性の区間を出力させるよう改良を加える計画である. 平成25年度中に,成果が得られ次第,ホームページを整備して,少なくとも負荷量の区間推定についてはバイナリコードを公開することとしたい.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は,現在の後方散乱式濁度計に加えて,積分球式の濁度計(東建エンジニアリング・RT530-T型積分球式濁度計)を現地山林流域に追加し,濁度の観測値を得る計画である.積分球式の濁度計の利点は懸濁物質との相関・線形性が散乱式のものよりも高いことである.また導入を予定している濁度計は現行のものよりも検出下限が低いため,より低濃度の値を観測でき,このため濁度未検出値である「打ち切りデータ」の量を減らすことが可能である.この観測値と,現地で自動採水機にて観測している懸濁物質濃度,および低流量時におけるカリウム濃度の三者のデータを用いて,濁度計の検出下限以下の時間帯における懸濁物質濃度の補間を実行する.こうして得られた,「打ち切りデータ」比率が十分に低いデータセットと,これまでと同様に得られる溶存イオンデータをもとに流量・負荷量のモデル開発と区間推定の確率に向けた研究を引き続き行う予定である.また自動採水機で採取された試料の観測水質データ(溶存イオン,溶存ケイ酸)もあわせて,TOPMODELを改良した水質モデルの解析に供する予定である.このため,現地観測のための大容量バッテリとイオン分析計などの実験消耗品に残りの物品費をあてる計画である. 当該年度の研究費のうち濁度計の経費の占める割合が高いが,溶存態と並んで懸濁態の観測データの精度と妥当性の向上のために,また打ち切りデータの軽減のためにも,この機器が研究遂行上必須の物品であると考えている.
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Research Products
(3 results)