2012 Fiscal Year Research-status Report
マウス体細胞核移植胚の新規発生促進技術の開発とその促進機構の解明
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23580390
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山田 雅保 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (10243073)
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Keywords | マウス / 体細胞核移植 / 脱イオン化BSA / 胚盤胞 / ヒストンアセチル化 / Oct4発現 / H3K27me3発現 / 着床後発生 |
Research Abstract |
マウス体細胞核移植胚の細胞質に脱イオン化BSA(d-BSA)を前核形成前に注入すると、その胚盤胞への発生が促進されることを申請者は初めて明らかにしている。今年度は、このようなd-BSAの促進効果について、1)ヒストンH3K9およびH4K12のアセチル化に及ぼすd-BSA注入時期の影響を検討した。2) d-BSA注入核移植胚(d-BSA-NT胚)から発生した胚盤胞の特性を、d-BSAを注入しない対照区核移植胚(Ctr-NT胚)由来胚盤胞と比較検討した。3) d-BSA-NT胚の着床後の発生をCtr-NT胚と比較検討した。得られた成果を以下に挙げる。 1) d-BSA-NT胚のH3K9およびH4K12のアセチル化はCtr-NT胚に比べて有為に増強された。しかし、発生促進効果のない前核期NT胚へのd-BSAの注入では、それらのヒストンのアセチル化は促進されなかった。従って、d-BSA注入による核移植胚の発生促進効果は、ヒストンアセチル化の促進によるエピジェネティックな調節を介することによって発揮されることが示唆された。 2) d-BSA-NT胚から発生した胚盤胞(d-BSA胚盤胞)の細胞数をCtr-NT胚由来胚盤胞(Ctr胚盤胞)と比較した結果、Oct4陽性細胞数が有意に多いことがわかった。また、X染色体の不活化調節に関与するトリメチル化ヒストンH3K27(H3K27me3)が、Ctr胚盤胞に比べてd-BSA胚盤胞においてより正常なパターンで発現することがわかった。 3) 着床後の発生に及ぼすd-BSA注入の効果について検討した結果、Ctr-NT胚からは、産仔は得られなかったが、d-BSA-NT胚から産仔が得られ、その割合は、TSA処理胚と同程度であった(2.7%, 2.9%)ことから、前核形成前のd-BSA注入により、体細胞核移植胚の着床後の発生が促進されることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マウス体細胞核移植胚の発生に及ぼすd-BSA注入の促進効果について、今年度は、1) 前核形成前の核移植胚へのd-BSA注入による核移植胚の発生促進効果がヒストンのアセチル化の促進と強く関連すること、2) d-BSA注入核移植胚から発生した胚盤胞は、対照区(d-BSA未注入)胚盤胞と比べてOct4陽性細胞数およびX染色体の不活化調節に関与するヒストンH3K27me3の発現が、受精胚に近似するようになること、さらに、3) d-BSA注入核移植胚の着床後の発生が、対照区核移植胚と比べて顕著に促進されることを明らかにすることができた。従って、平成24年度以降の計画内容の多くの計画を遂行し、成果を得ることができたと判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
1) 前核形成前の核移植胚にd-BSAを注入することによって、産仔への発生が促進されることから、核移植胚の初期化がd-BSA注入によってより効率に誘導されることが明らかとなった。そこで、卵細胞質による体細胞核の初期化にd-BSAがどのように関与しているのかを、特に前核形成前の卵細胞質内に存在するd-BSAの標的分子を同定することによって明らかにする。2)ドナー体細胞にd-BSAを導入することによって、その核にどのような変化が引き起こされるのか、そして予めd-BSAを導入した体細胞の核を用いて核移植胚を作製し、その胚の初期化と発生について検討する。さらに、3) d-BSA注入の効果が、ICR系やC57BL系などのクローン効率の非常に低い系統マウスにおいて発揮されるのか、検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度、d-BSA注入によるマウス体細胞核移植胚の初期化促進機構を分子レベルで解明する研究を計画したことから、その研究を遂行するのにかかる費用を確保するために、24年度の研究費の一部を繰り越した。その繰越金を含めた研究費を上記推進方策に従った研究に必要となる試薬、器材そしてマウスなどの消耗品の購入、学会や誌上での研究成果発表に使用する
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Research Products
(10 results)