2012 Fiscal Year Research-status Report
卵巣におけるプロゲステロンとエイコサノイドの協調的及び拮抗的相互作用の機序の解明
Project/Area Number |
23580392
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
久留主 志朗 北里大学, 獣医学部, 准教授 (50215076)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
折野 宏一 北里大学, 獣医学部, 准教授 (60214235)
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Keywords | 卵巣 |
Research Abstract |
成熟卵胞からの顆粒層細胞の培養は、技術的にうまくいかず、引き続き卵胞膜・顆粒層の結合した、より生理的なin vivo条件での解析を続けることにした。成熟卵胞で合成されるP4の産生部位として、排卵に選抜される卵胞の顆粒層という定説が支配的であるのに対し、筆者らの少なくとも幼若ラットの誘起排卵モデルでの成績では、排卵に至らない卵胞も含めた卵胞膜に、StARと3b-HSDの強い発現を認めた。すなわちP4の受容する部位は顆粒層であるが、産生部位の主体は卵胞膜であるという説を支持する。また顆粒層でのP4やPG合成に関わる酵素蛋白の誘導には、転写因子であるPPARaとLXRが関与する可能性があることも見出した。これの解析は引き続き平成25年度に展開していく。外生的にP4の産生もしくは受容体阻害薬を投与すると、成熟卵胞のCOX-2発現と組織PGE2含量が有意に低下し、P4の産生と作用の下流にCOX-2/PGE2経路があることを実証した。これを支持する論文2編が、すなわちP4の下流代謝物であるtestosteroneや 17b-estradiolも特異的受容体相互作用を介して媒介することを、国内からごく最近、発表された。 また、ラット黄体のP4が高度に維持される妊娠黄体では、性周期黄体や偽妊娠黄体とは異なり、ステロイド産生細胞のFas発現が全く見られず、定説であるアポトーシス依存的細胞死は主要な機構ではないことを改めて示唆するデータを得た。したがって空胞変性とオートファジーに関わるマーカー蛋白質LC3に関わる研究を開始している。当初の計画であるPLA2の下流のCOXやLOXがどの程度発現し、機能しているかは懐疑的になってきており、アラキドン酸ではないもう一つのPLA2代謝物経路の方にシフトしてきている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本申請研究の当初の計画は、1)P4シグナリングが、COX-2 (Eico合成)、StAR (P4合成)、MMPs (蛋白分解による卵胞壁崩壊)の発現と活性に及ぼす影響、2)COX/LOXの代謝物が、COX-2、StAR、MMPsの発現と活性に及ぼす影響、3)COX-2の代謝物が、20aHSD、apoptosis関連因子、マクロファージ・好中球誘引因子の発現と活性に及ぼす影響、4)GIVA/GVIA PLA2の代謝物が、StAR、20aHSD、apoptosis関連因子の発現と活性に及ぼす影響、の4点であった。 この中で、1)については約80%、2)については約50%の達成度であり、3)と4)については実験手技の技術的困難さによる遂行がままならない状態を余儀なくされている部分もある。しかしこれは仮説を設定し直すことで、他のいかなる動物種にも見られない新たな黄体調節機構の発見とその解明へと発展してきている。すなわちPLA2の下流でlysoPLD活性で作用するautotaxin(ATX)という新たな蛋白質が強く誘導されることを見出した。この発現や活性は、性周期黄体と妊娠黄体で異なり、その機能も前者では退行黄体の組織リモデリングに、後者では妊娠末期のP4合成促進、及び血中への放出を介して、妊娠と分娩の調節に関わる何らかの広範囲な機能に寄与しているようである。断定的な結論を出すには充分なデータではないが、preliminaryながら興味深いデータを得ている。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のように、すなわち研究費申請書提出時の計画とは異なる方向に黄体の方については新たなリン脂質代謝系への広がりを見せており、最終年度である25年度に可能な限りの進展を得たいと考えている。 この酵素蛋白の作り出すリゾホスファチジン酸(LPA)の働きを調べるために、受容体蛋白の包括的な検索を行なう。黄体のP4合成への影響を、in vivo及び in vitroの両方で調べる。Fas・caspase-3などのアポトーシスや、LC3などのオートファジー関連因子の産生と局在の関連について蛋白質及び脂質レベルで解析している。貪食細胞の好中球やマクロファージの浸潤については、マーカー蛋白の組織化学的検索により、間質線維芽細胞系の増殖と走化性への影響についてはBrdUなどの取り込みアッセイやチャンバー法での解析も進めている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度の2万円強の繰り越しについては、適切なキットや抗体を買うに足りる類いの物が無かったからである。 そこで繰り越し分も含めて、今年度の交付金は、当初の計画通り、一般生化学、分子生物学用試薬のために約80万円を、成果発表と関連知見や技術手法に関わる情報収集のための海外出張(11月、フランスを予定)に約35万円を使用予定である。
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