2012 Fiscal Year Research-status Report
新規ナノ粒子アジュバンドを利用した犬癌ワクチンの臨床応用
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23580443
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
桃井 康行 鹿児島大学, 獣医学部, 教授 (40303515)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木之下 明日香(瀬戸口明日香) 鹿児島大学, 獣医学部, 准教授 (00396813)
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Keywords | 犬 / 癌ワクチン / アジュバント |
Research Abstract |
本年度はイヌの口腔内メラノーマを対象に研究を行った。免疫治療のターゲットとしてイヌで高率に発現し、ヒトやマウスで標的にされるMelan-A、TRP-2(tyrosinase-related protein 2)を選択した。はじめにイヌの治療用ペプチドワクチンの作製を行った。Melan-A、TRP-2について、免疫用ペプチドをそれぞれ合成した。これら2つのペプチドにKLHを付加し、ウサギおよび老齢犬に投与した。老齢犬への投与の際には、新規に開発された疎水化γ-ポリグルタミン酸ナノ粒子をアジュバントとして用いた。その結果、ウサギおよび老齢犬で投与したペプチドに対する抗体産生が認められたが、細胞性免疫誘導の証拠は認めなかった。有効なペプチドワクチン開発のためには今後改良を重ねる必要がある考えられた。またDNAワクチンの作成を試みた。口腔内メラノーマ組織からcDNAを作製し、EBNA-1を含む発現プラスミドにイヌMelan-A、TRP-2遺伝子を挿入した。遺伝子配列の解析では、Melan-Aは報告されている配列と完全に一致した。イヌTRP-2はイヌ配列は報告されておらず、ヒトのアミノ酸配列と比較してN末端に31残基のアミノ酸が付加される構造であった。Melan-A、TRP-2遺伝子発現プラスミドをHEK293細胞にトランスフェクションしたところ、導入細胞での両蛋白の発現が認められた。また、ウェスタンブロットでは、Melan-Aはヒトと同様に21-23KDa付近にバンドを認め、二量体を形成していると考えられた。一方、イヌTRP-2は70-85KDa付近にバンドを認めた。予測された分子量よりも大きく、糖鎖付加されていることが推測された。今回構築した発現プラスミドは実際にMelan-A, TRP-2を発現し、糖鎖も付加されるため、DNAワクチンとして応用できる可能性があると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題では、犬の癌を対象にした癌ワクチン研究を行っている。3年計画でこれまで2年が経過した。その間、リンパ腫、メラノーマという犬で発症頻度が高く、従来の治療法では治癒が困難な疾患をターゲットとして、抗原ペプチドの同定と合成およびDNAワクチンの作成を行ってきた。これらのうちペプチドワクチンについては、実際に合成を行い、国内で新たに開発された生体吸収型ナノ粒子をアジュバントとして実験動物および実際の症例に投与を行うことができた。研究段階では抗体価の上昇など一定の免疫効果が得られており、治療効果を判定する治験を行う技術的な基盤を整えられたと考えている。この点で本研究は当初の計画どおり順調に進行している。DNAワクチンについてリンパ腫からはCD20、メラノーマからはmelanA, TRP2を標的抗原としてその遺伝子単離と発現プラスミドの構築に成功している。さらに培養細胞を用いた実験ではこれらの組み換えプラスミドによる蛋白の発現を確認している。一方でこれらのプラスミドを用いたDNAワクチンについてはフィールドでの使用について制限(規制)があり臨床試験を行ういたっていない。 これまで当初の目的であった技術的な課題は克服しつつあり、研究の達成度としては概ね順調に進展していると自己評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでのリンパ腫、およびメラノーマについてペプチドの合成とアジュバントを含めたワクチンを製作している。またDNAワクチンについても発現プラスミドの構築を終了している。得られた知見を生かし、ペプチドワクチンについては別のエピトープや他のアジュバントを検索するなどより効果的な免疫誘導法についても検討していく。それに加え本年度は、これまで得られた材料を用いて臨床試験を中心に実施する予定である。リンパ腫、メラノーマ症例で他に治療法がない症例を中心に、オーナーが希望した場合について治療を実施する。以上まとめると本年度は以下の実験を計画している。 ・ペプチドワクチンに用いる抗原ペプチドの改変:ワクチンに使用するペプチドを改変し、その免疫誘導能について、血清中のサイトカイン測定および培養リンパ球からのサイトカイン産生を指標に評価する。またフローサイトメーターやリアルタムPCRを用い、リンパ球サブセットの変化やIL-2レセプターなどの発現などについても評価検討する。 ・効果的に免疫を誘導するアジュバントの検索と使用法の検討:培養リンパ球に対してアジュバントを作用させ、サイトカインの産生、貪食能の増強、リンパ球表面抗原の変化などを指標に評価する。 ・ペプチドワクチンおよび使用承認が得られた場合にはDNAワクチンの自然発症例を対象としたパイロットスタディ:腫瘍の退縮効果、副作用を評価すると共に、免疫誘導能についても抗体価、遅延型過敏反応、フローサイトメトリーを用いたリンパ球サブセットの解析により評価する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度(25年度)は上記推進方策を見据え、以下の項目について研究費を使用する。 ・合成ペプチドとアジュバントを含めたワクチンのin vivoでの免疫学的な評価を行う予定である。フローサイトメーターを用いた免疫細胞の解析、ELISAやPCR法を用いたIFN-gamma, IL-4などのサイトカイン産生、リンパ球の増殖などを指標に評価するため、プラスチック器具や抽出キット、アッセイキットを購入する。(消耗品の購入) ・臨床試験をおこうための消耗品(シリンジ、注射針、リンパ球分離試薬等)を購入すると同時に、免疫誘導を確認するための消耗品、アッセイキットの購入を行う。(消耗品の購入、外注検査等) ・積極的に学会発表、論文発表等を行い研究内容を周知する。(旅費等) ・本年度は本研究の最終年度であり、これまでの成果を報告書としてまとめる。(報告書作成等)
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