2013 Fiscal Year Research-status Report
イヌ炎症性腸疾患の免疫学的アプローチによる病態解明と新規治療ターゲットの探索
Project/Area Number |
23580444
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
藤本 由香 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (40405361)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
東 泰孝 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (50298816)
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Keywords | 消化管免疫 / 炎症性腸疾患 / イヌ / 獣医学 / 免疫 |
Research Abstract |
イヌの炎症性腸疾患(IBD)は,原因不明の慢性腸炎であり,治療に対するエビデンスも少ない。そこで,消化管免疫機構の観点から,病態の解明,新規の治療ターゲット因子の探索,予後予測に有用な成果を得ることを目指し,本研究に着手した。前年度は,イヌ小腸組織において,ヒトIBDで発現増強をみとめ,中和抗体を用いた治療効果も報告されている腫瘍壊死因子(TNF)αに着目し,in situ hybridization法によるTNFα mRNA発現を,健常群, IBD群で比較した。IBD群では健常群よりもTNFα mRNAの発現低下を観察したことから,イヌの小腸では炎症性サイトカインであるTNFαに炎症の保護作用を有する可能性が示唆された。そこで平成25年度は,健常な消化管組織におけるTNFα mRNAの発現を詳細に解析することで,イヌの腸管免疫機構の特徴を見いだすことを目的とした。 健康なイヌの胃,十二指腸,空腸,回腸,結腸組織におけるTNFα mRNAの発現を市販の試薬キットを用いたin situ hybridization法で解析を進めていたが,検出されるシグナルが,推奨される陽性シグナルと比べて弱いことが判明した。既存の機器では十分な反応条件(温度と湿度)を得ることができないことがわかり,機器の新規導入の検討が望まれるという結論を得た。 また,TNFα mRNAのリアルタイムPCR法による定量解析も開始し,消化管粘膜組織でのTNFα mRNA発現は,十二指腸で最も多く,次に空腸で多く認められ,回腸,結腸では発現量が少ないことがこれまでに観察され,イヌの消化管の部位でのTNFα mRNAの発現の違いは,イヌの消化管免疫機構の解明,またIBDの病態解明に通ずると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
イヌIBDでみられる免疫反応について解析することを目的とし,ヒトIBDの病態への関与が示唆されている免疫因子であるTNFαの発現について,市販抗体を用いた免疫組織化学染色法を実施したが,特異性の評価が困難であった。そこで,H24年度にTNFαのmRNA発現量だけではなく,組織における発現の局在,または発現細胞についての解析を進めるために,in situ hybridization法を導入し,健常群とIBD群の比較をおこなった。炎症性サイトカインであるTNFαのmRNA発現は,IBD群で健常群より低く観察されたことで,イヌでは,他の動物種と異なる腸管免疫機構を有する可能性が示唆され,H25年度は健常なイヌの消化管における免疫反応の理解を深めるために,TNFα mRNA発現を胃,十二指腸,空腸,回腸,結腸間で比較することを試みた。しかしながら,in situ hybridization法で得られるシグナルが,推奨陽性シグナルよりも弱いことが判明し,解析条件の検討に多くの時間を費やし,研究の進捗を遅らせる結果となった。 TNFα mRNA発現のin situ hybridization法の条件検討に平行してリアルタイムPCR法による定量解析も進め,これまでに消化管組織間における発現量の違いが観察された。TNFα のmRNA発現は,消化管の部位で定量的に違いがあることが観察されたことにより,in situ hybridization法での発現局在の観察は非常に意義があるという裏付けを得ることができた。 研究の達成度としては,遅れが生じたが,TNFα mRNAのin situ hybridization法による発現解析の意義が高まり,また,解析を進展させる糸口がみつかったことはひとつの成果であり,正常な免疫機構を明らかにすることがイヌIBDの病態の解明に通じると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
H26年度は,健康なイヌの消化管におけるTNFα mRNA発現量の解析(リアルタイムPCR法)の例数を増やし,H25年度に得られた結果を検証し,消化管組織におけるTNFα mRNA発現量の相違の有無について結論を得ることとする。消化管部位(胃,十二指腸,空腸,回腸,結腸)におけるTNFα mRNA発現量の特徴を確認した上で,in situ hybridization法により,組織における発現の局在について解析を進めていく。これらのデータを合わせることで,消化管組織におけるTNFα mRNAの発現変動を定量的,または局在性の2面から捉えることができ,イヌの腸管免疫機構の理解が深まると考える。 TNFαに加え,他の免疫因子についても同様に解析を進める予定であるが,着目因子を1つずつ解析するのではなく,網羅的にサイトカインの定量が可能となる,マルチプレックス アッセイシステムを活用することを検討していくこととする。これにより発現量の変動に特徴のあるサイトカインを探索し,その因子のmRNA発現についてTNFαと同様に,in situ hybridization法による発現量と発現局在の解析を進めていく。 健常なイヌの消化管免疫機構の特徴を捉えることに加え,H26年度は,IBD,またはIBD以外の慢性腸炎,または消化管型リンパ腫の症例より得られた消化管組織での免疫因子の発現変動の比較も行なうこととする。健常群と疾患群の比較により,正常な免疫機構のどこに障害が生じると病態をくのか,また,病状の悪化に関わる免疫反応について検討し,イヌIBDの病態の解明を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は,試薬のキットを用いてin situ hybridization法での解析を進めていたが,推奨されるシグナルと比べて,検出されたシグナルが弱いことが判明し,条件検討に多くの時間を費やしたために,研究の進展が得られずに,次年度への繰越助成金が生じた。 平成25年度に種々の条件検討を試みた結果,既存の機器の使用では,RNAプローブの理想的な反応条件を得られないことが判明した。 平成25年度の条件検討により,RNAプローブの理想的な反応条件が得られる機器を新規に購入し,解析を進めることで,研究の進捗の遅れを取り戻す計画である。 また,その他の因子についても定量的な解析と発現局在の解析を効率よく進めるために,マルチプレックス アッセイシステムを活用し,イヌ用の測定キットを用いて多項目のサイトカインを同時に定量することを試みる予定である。これにより変動を有する因子の網羅的な探索が可能となり,特徴的な変動を示す免疫因子にターゲットをしぼり,その因子のmRNA発現量や発現局在(in situ hybridization法)の解析を進めることが可能となる。in situ hybridization解析試薬やマルチ解析が可能な測定キットは非常に高額であるが,有益な情報を効率よく得られることが期待され,研究が進展すると考える。
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