2012 Fiscal Year Research-status Report
牛精漿中に含まれる子宮機能調節蛋白の同定とその作用経路の解析
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23580446
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Research Institution | Rakuno Gakuen University |
Principal Investigator |
片桐 成二 酪農学園大学, 獣医学群, 教授 (00292061)
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Keywords | 精漿 / 上皮成長因子 / 子宮 / 腟 / 乳牛 / サイトカイン |
Research Abstract |
本研究では牛の精漿が雌生殖器の機能調節に及ぼす効果とその機序を明らかにするため、以下の2点について検討した。 1.子宮でのEGF発現増強効果を示す精漿蛋白質の同定:精漿蛋白質を分画し、子宮での上皮成長因子発現(EGF)に及ぼす効果を指標として子宮機能調節に及ぼす効果を評価した。その結果、EGF発現を増強する蛋白質を、蛋白質スポットとして4-8個が含まれる分画に絞り込むことができた。現在これらの蛋白質スポットを個別に切り出し、飛行時間型質量分析装置を用いてフィンガープリント解析により同定する準備を進めている。 2.精漿蛋白質の作用機序の検討:まず精漿が子宮およびリンパ節でのサイトカイン発現に及ぼす効果を検討した。その結果、発情期の雌牛の腟内に精漿を投与すると、対照群と比べて4時間後には炎症系サイトカインの発現が増加し、3および7日後にはTh1/Th2サイトカイン発現比の低下することが示唆された。リンパ節についても精漿を投与することによりサイトカイン発現の変化することが確認され、かつ影響を受けるリンパ節は精漿を投与する腟の部位によって異なることが分かった。また、腟深部あるいは子宮腟部の比較的狭い領域内で場所を変えて活性炭および染色液を投与し、投与した物質が輸送される経路および到達するリンパ節を検索したところ、サイトカイン発現の変化と一致する分布が確認された。これらの結果は、精漿を希釈し、腟のより広い領域を刺激することにより子宮への効果が高まるという現象につながる知見であり、広範囲のリンパ節を感作することにより確実に子宮に対する精漿の効果が伝達されることが示唆された。また、本研究の過程で現在の教科書的なリンパ節の分類は生殖器機能を調べるためには不適切であることが示されており、腟および子宮との関係を基にリンパ節の分類基準を作成する必要性が明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「9.研究実績の概要」に示した2項目のうち、「1.子宮でのEGF発現増強効果を示す精漿蛋白質の同定」については予定通りの進展である。一方、「2.精漿蛋白質の作用機序の検討」については、本研究を進める過程でリンパ節の解剖学上の個体差が大きく、しばしば教科書に記載されている代表的なリンパ節でさえ解剖時に発見できない、あるいは解剖学の専門家を擁しても同定が困難であることが明らかになった。このため、データのとりまとめに際しては教科書的なリンパ節の特定から離れて、腟および子宮との関連をもとに新たな基準でリンパ節の分類を行う必要が生じている。この検索には多くの動物を使用する必要があり、その確保と検索に時間を要していることが理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
子宮でのEGF発現増強効果を示す精漿蛋白質は、現在実施している飛行時間型質量分析装置を用いたフィンガープリント解析により同定する。精漿が子宮に及ぼす効果については、左右一側の腟粘膜への投与により一側性にリンパ節および子宮角サイトカイン発現を制御する実験系を用いて、正常および低受胎牛における精漿投与後の子宮でのサイトカイン発現の変化を詳細に比較検討する。また、腟と子宮を結ぶリンパ系の詳細を明らかにするため、腟内に活性炭あるいは色素を投与した試験牛をと殺し、リンパ節への分布を調べる試験を継続する。この試験を通して、生殖器の機能調節を指標としてリンパ節群を再分類する基準を確立する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費は、主にサイトカイン測定用の機材、消耗品の購入、実験牛の購入・飼育費用に充てる。とくに、新たに生じたリンパ節分類の問題(11.現在までの達成度)に対応するため、予定より多くの牛を購入あるいは譲り受ける必要があり、その購入費および搬送費が必要となる。精漿蛋白質の同定には学内共同研究施設あるいは学外施設の機材を使用するため、その使用料およびオペレーターの人件費を支払う。また、本研究は海外の研究者と研究手法および情報を共有する国際研究コンソーシアムの枠組みで実施しているものであり、その成果発表および情報交換会(8月にスイス、フランスで開催予定)への旅費を支出する。最終年度である本年は、学会および論文投稿による成果発表を行うため旅費および投稿料の支払いにも使用する。
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