2011 Fiscal Year Research-status Report
木質バイオマス生産を支える樹木冬芽の越冬機構の解明
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23580453
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
荒川 圭太 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (00241381)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 冬芽 / 越冬機構 / 器官外凍結 / 凍結抵抗性 |
Research Abstract |
樹木の冬芽は、翌春の成長および生殖器官である葉や花を展開するための器官である。そのため、樹木の成長や種の繁栄に不可欠な冬芽の環境応答機構、なかでも耐寒性(凍結適応機構)、は越冬するために必要不可欠な生理機能である。これは木質バイオマスの持続的な供給を求める我々にとっても非常に重要な形質であるが、未解明な課題が多く残されている。そこで本研究では、冬芽の凍結抵抗性機構を詳しく分析することで冬芽の越冬機構の理解に努めることを目的とした。その第一段階として、複数樹種の冬芽の凍結様式を精査し、特定の冬芽でのみ見出されるユニークな器官外凍結を中心に、冬芽の凍結挙動のメカニズムを細胞レベルで解析し、凍結適応機構の解明を目指す。 まずは、いくつかの樹種の冬芽を用い、示差熱分析や光学顕微鏡観察、低温走査型電子顕微鏡(cryo-SEM)観察などによって検証し、それらの凍結挙動を分類した。すると、カラマツのほか、カツラの冬芽でも器官外凍結することが明らかになった。一方、シラカンバの冬芽は細胞外凍結することが明らかになった。次に、器官外凍結のメカニズムを調べるため、カラマツ冬芽を構成するいくつかの組織細胞の凍結挙動をcryo-SEMで比較した。すると、無傷の冬芽を氷点下温度にさらした場合、原基の細胞は部分脱水しながらも細胞内に残存する水は過冷却して、細胞内凍結を回避していることが明らかになった。一方、芽鱗の細胞では細胞外凍結によって脱水することで細胞内凍結を防いでいることが明らかになった。また、厚壁なクラウン組織の細胞群の下側の空隙や芽鱗の間の空間に細胞外氷晶が蓄積するという、器官外凍結の典型的な様子が確認できた。組織毎に細胞は異なる凍結挙動を示したが、冬芽全体でシステマティックに器官外凍結を維持していることが明確になった。今後、さらに実験を重ねて器官外凍結のメカニズムを明らかにしていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の目標に掲げたように、器官外凍結するカラマツ冬芽について、冬芽を構成する各組織の細胞の凍結挙動を明らかにし、組織によって氷点下温度に対する応答性が異なることを見出せた。これによって、細胞単位で応答する細胞外凍結や深過冷却とは異なり、器官外凍結が冬芽全体でシステマティックに機能することを特徴づけることができた。以上のような状況のため、初年度の研究の進み具合としてはおおむね順調に進んでいるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
器官外凍結において各組織がどのように連携して原基細胞の細胞内凍結を回避するかという課題については、依然として明確な説明ができない状況である。なかでも、氷点下温度での水の動態と局所的な氷の析出のメカニズムは不明である。さらに、組織ごとに異なる凍結過程での細胞の脱水様式や、細胞の微細構造変化など、不明な点が多々残されている状況である。できる限りこれらの課題を解明すべく、計画に掲げた実験を元に着実にデータを積み重ねていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
基本的に、実験試薬や器具などの消耗品の購入をはじめ、研究成果の公表や情報収集のための学会参加、研究論文の投稿などが主たる使用目的と考えている。また、適宜、実験補助などにも研究費を利用することを考慮する。 なお、次年度使用額(340,680円)は、平成23年度内に実施したカラマツ冬芽の越冬機構の解明に関する研究にかかった消耗品等の支払いに使用する。
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