2012 Fiscal Year Research-status Report
低品位硫化鉱石からの金属資源回収技術の高効率化に関する研究
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23580458
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
上村 一雄 岡山大学, 環境生命科学研究科, 教授 (80294445)
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Keywords | 鉄酸化細菌 / 硫黄酸化 / チオ硫酸デヒドロゲナーゼ / バクテリアリーチング |
Research Abstract |
Acidithiobacillus ferrooxidansは、二価鉄および還元型無機硫黄化合物を酸化できるため、低品位の硫化鉱石から銅などを回収する技術であるバクテリアリーチングに利用されている。この技術には鉄酸化活性と硫黄酸化活性が同時に必要である。本菌の鉄酸化酵素系と硫黄酸化酵素系は全く異なり、生育基質の違いによって代謝経路を切換えていることが明らかにされている。この切換え機構の解明によって,バクテリアリーチング能の改良が期待される。そこで,本年度は、硫黄代謝に関与する新たなタンパク質を明らかにするために、チオ硫酸デヒドロゲナーゼ活性を指標にタンパク質の精製を行った。テトラチオン酸を生育基質として培養したA. ferrooxidansの無細胞抽出液でTsd活性を測定したところ、本酵素は、活性発現に硫酸イオン要求性を示した。活性は、テトラチオン酸あるいは元素硫黄を生育基質として用いた場合の細胞で検出されたが、二価鉄を生育基質として用いた細胞には検出されず、tsd遺伝子は硫黄化合物存在下で特異的に発現していた。可溶性画分から精製された酵素の最適pHと最適温度はそれぞれ、2.5と70℃であり、SDS-PAGE解析の結果、分子量は25 kDaであった。タンパク質のN末端アミノ酸配列を決定し、A. ferrooxidans ATCC 23270の全ゲノムデータを使ってBLAST検索を行った結果、タンパク質をコードする遺伝子(tsd)は、硫黄代謝に関連した遺伝子とクラスターを形成していた。相同性解析の結果、いくつかの硫黄酸化細菌や好酸性細菌などにTsdのホモログ遺伝子が存在することが分かり、同時にその近傍に硫酸結合タンパク質のホモログ遺伝子(sbp)を持つことも明らかとなった。従って、TsdはSbpと結合して存在し、Sbpが酵素活性に硫酸イオン要求性を付与することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
A. ferrooxidansの硫黄代謝経路として我々はこれまでとは異なった経路を提案している。この経路のうち、ユビキノール酸化酵素、テトラチオン酸加水分解酵素、硫化水素キノン還元酵素は我々が初めて精製した。また、プロテオーム解析によって、硫黄化合物で増殖させた細胞でロダネース様タンパク質(チオ硫酸を硫黄と亜硫酸に分解する反応を触媒する)が増加することを見出した。その他にも硫黄を硫化水素と亜硫酸に分解する酵素やチオ硫酸の酸化に関与する酵素が存在すると考えられるが、その正体は明らかにされていない。本年度は、硫黄代謝に関連する新規な酵素タンパク質の探索を中心に研究を行った。その結果、新規なチオ硫酸デヒドロゲナーゼの精製に成功した。また、遺伝子(tsd)を同定した結果、A. ferrooxidansを硫黄で生育させた時に顕著に発現する遺伝であることが明らかとなり、上述のロダネース様タンパク質をコードする遺伝子のすぐ上流に存在することが明らかとなった。加えて、チオ硫酸デヒドロゲナーゼが、硫酸やチオ硫酸結合能をもつと推定されていたタンパク質(Sbp)と複合体を形成しており、酵素の硫酸イオン要求性を担っていることが示唆された。新たに発見されたSbpは、当初は予想していなかったものであるため、計画以上に進展したと評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
新たに検出されたチオ硫酸デヒドロゲナーゼと複合体を形成するタンパク質が、硫黄代謝にどのように関与しているかを検討する。そのため、大腸菌で発現させたチオ硫酸デヒドロゲナーゼ(Tsd)と同じく大腸菌で発現させた硫酸結合タンパク質(Sbp)を用いて、チオ硫酸デヒドロゲナーゼ活性を評価する。また、昨年度同定した遺伝子の近傍には、チオ硫酸代謝に関与すると考えられる酵素(ロダネース様タンパク質)をコードしている遺伝子が存在してしる。この遺伝子も硫黄やテトラチオン酸で生育すると顕著に発現することが明らかになったので、それらのタンパク質の機能を解析する。また、細胞のチトクローム成分の解析によって、チオ硫酸の酸化には、電子の受容体として働くチトクロームcと未知のチトクロームc酸化酵素が関与していると推定された。A. ferrooxidansのゲノム情報からは、チトクロームc酸化酵素は一つしか検出されていないが、別の酵素として同定されているタンパク質がチトクロムcの酸化に関与していることが考えられるので、未知のチトクロームc酸化酵素の検出と精製を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記の今後の推進方策に述べたように、次年度は大腸菌発現タンパク質を用いて、チオ硫酸デヒドロゲナーゼ(Tsd)と硫酸結合タンパク質(Sbp)の相互作用を解析する。タンパク質の合成と精製のためには、遺伝子の誘導発現用の試薬や精製用のカラムが必要である。また、新たな酵素タンパク質の精製のためには、イオン交換樹脂やゲル濾過剤などの精製用の試薬や機材が必要である。従って、次年度はこれらの研究を遂行するために必要な消耗品を購入するための研究費が必要である。また、最終年度であるので、論文投稿や学会発表によって研究成果の公表を行うための経費も必要である。
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Research Products
(9 results)