2011 Fiscal Year Research-status Report
偏光による複屈折を用いた維管束組織の検出及び定量法の開発
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23580463
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Research Institution | Japan International Research Center for Agricultural Sciences |
Principal Investigator |
村田 善則 独立行政法人国際農林水産業研究センター, その他部局等, 研究員 (40322664)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小杉 昭彦 独立行政法人国際農林水産業研究センター, その他部局等, 研究員 (70425544)
安部 久 独立行政法人森林総合研究所, その他部局等, 研究員 (80343812)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | オイルパームトランク / セルロース / 維管束 / 柔組織 / 偏光 / 複屈折 |
Research Abstract |
パーム油はマレーシア、インドネシアを中心に年間約3,300万トン生産され、大豆油の生産量を抜いて世界最大の植物油脂資源である。オイルパームには経済的な寿命があり油脂生産の維持のため25-30年ごとに伐採され、このとき大量のトランク(幹)が廃棄される。オイルパームトランクは70%以上の水分を含み、構造が脆弱で建築用材としては不向きであるため使用されずプランテーション内に放置されているのが現状である。廃棄されるオイルパームトランクの柔組織は、高い吸水性を有することから新たな機能性素材としての開発が見込まれている。このため高品質の柔組織が必要とされるが、柔組織の純度について正確に評価できる方法はない。我々はパーム維管束繊維に偏光を複屈折する性質があることを見出した。偏光の屈折と画像解析との組み合わせにより柔組織中に混在する維管束を正確かつ迅速に検出・定量することができる。本研究ではこの知見に基づいた簡便な維管束の検出法を開発するため、オイルパームトランクより柔組織と維管束をお互いに混合しないように注意深く分別し、高純度の柔組織および維管束組織サンプルを調整した。これらを一定の重量比で混合し、柔組織と維管束を一定の割合で含んだ標準サンプルを作成し、偏光による複屈折の強度から維管束組織を定量できるように標準曲線の作成に取り組んだ。維管束組織は導管、師管、繊維からなる構造を有することから、偏光による複屈折は柔組織にはなく維管束組織で強く特異的に生じる。標準サンプルにおいては、サンプル中の維管束組織の量に比例して偏光による複屈折が強くなる傾向が見られた。これより、標準サンプル中の維管束の量と偏光強度の間に直線の関係があることが明らかになり、標準曲線としてサンプル中の維管束の定量に用いることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでマレーシアからサンプルの調達および調達したパームトランクからの柔組織および維管束の高純度サンプルの調整を行い、維管束と柔組織を一定の割合で混合した標準サンプルの調整とそれの偏光顕微鏡による観察を行い、維管束の量と偏光による複屈折の強度の直線関係から標準曲線を作成し、維管束の定量に使用するなどほぼ順調に研究が進んでいる。現在は、オイルパームトランク内のどの成分が偏光強度に由来するのかを明らかにするため、柔組織および維管束の中の化学成分(αセルロース、ホロセルロース、リグニン)の分析を始めている。 偏光の複屈折を用いた維管束の定量法の確立は、維管束を直接定量することができることにメリットがある。これにより維管束組織の含量を重量としてとらえることができる。これまでは重量比ではなく、顕微鏡切片に占める柔組織と維管束の割合から、ボリューム比でトランクにおける柔組織と維管束の分布の割合が比較されてきた。我々の方法は、サンプルを乾燥することにより、その中の維管束を直接定量することができるため、維管束と柔組織の割合を重量ベースで比較することができる。そのため、柔組織に含まれるデンプンなどの貯蔵型炭水化物の量も柔組織の重量当たりの含量として見積もることができるので、バイオマスとしての量をカウントしやすいというところに利点がある。これまでの成果として、偏光による複屈折と維管束の定量法に関する学会発表を行うことができた。また論文を作成し、現在ジャーナルによる審査中である。
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Strategy for Future Research Activity |
オイルパームトランクの維管束は繊維、導管および師管によって構成されるため柔組織よりも構造的に硬い。そのため偏光の複屈折は維管束の構造に由来することが考えられる。より簡便な方法開発のため、他の方法(近赤外、あるいはX線)による標準サンプルの解析を行い、偏光と同様に近赤外によっても維管束組織を定量することができるのか調べる。偏光による複屈折が維管束を構成するどの成分に由来するのかまだ明らかにされていない。そこで、維管束と柔組織を一定の割合で混合した標準サンプル中のセルロースやリグニンなどの化学成分の割合について分析を行い、各成分と偏光による複屈折の関連性について明らかにする。赤外についても同様に関連性の高い化学成分の特定を試みる。 オイルパーム幹に含まれるデンプンは柔組織にデンプン顆粒が見られることから、柔組織に特定的に分布し、そこで蓄積される。これまでの研究により、幹の下部より調整した柔組織にはデンプンは含まれていない。これはトランクの部位によって柔組織と維管束の分布に違いがあり、柔組織に含有されるデンプン量がトランクの各部位で異なることが考えられる。これは将来、バイオエタノールの原料としてオイルパームトランクのデンプンを見積もるためにも重要であるため、オイルパームトランクの各部位における維管束と柔組織の分布について偏光を用いて調べる。それを従来の方法切片による観察と比較を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度オイルパーム維管束には偏光による複屈折があるが、それがどの成分に由来するのか分からない。そこで、オイルパームトランクの標準サンプル中の各化学成分(有機溶媒抽出物、ホロセルロース、αセルロース、ヘミセルロース、デンプン)の分析を行い、サンプル間での構成成分の量について明らかにするとともに、偏光による複屈折と強い相関をもつ成分を決定する。また、偏光以外の方法(例:近赤外)を用いた維管束組織と柔組織の比を重量ベースで見積もることを試み、近赤外のデータと強く相関する成分を決定する。平成25年目オイルパームでは維管束と柔組織が約半分の割合で存在し、柔組織はデンプンをはじめ炭水化物を蓄積する。本法は維管束を直接観察することができるため、トランク内の維管束と柔組織の分布について重量ベースで評価することができる。そこで、トランクの上、中、下およびトランク真ん中、外側の部位について本法を用いた維管束および柔組織の分布の違いについて明らかにする。トランク部位の切片による維管束と柔組織の分布の比較を行い、重量と体積の双方の面で維管束および柔組織の分布の違いについて述べる。
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