2013 Fiscal Year Research-status Report
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23590049
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Research Institution | Teikyo Heisei University |
Principal Investigator |
西村 千秋 帝京平成大学, 薬学部, 教授 (70218197)
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Keywords | 蛋白質 / 生体分子 / 超分子化学 / ウイルス / 分子認識 / 薬学 / 核酸 / 感染症 |
Research Abstract |
HIV-1のGag polyproteinにおいて、連続に合成され最終段階でプロテアーゼによって切断されるp17とp24蛋白質が存在する。この2つのウイルスの形とパッケージに関連する蛋白質を用いて動的な構造解析を行った。 p24-NTD(N端ドメイン)はアミノ酸配列より、天然変性部位が存在する可能性が考えられた。生理的な条件下においても尿素などの変性剤を用いると、蛋白質を変性させることはできるが、そのような非特異的な結合によって変性させる変性剤の使用とは異なる方法として、柔軟に動くことが可能な延長させたタグ配列をN端やC端に残すことによって、生理的な条件下での蛋白質の変性と不安定化を試みた。C端に12残基のタグを付けると、へリックス6や3-4ループに揺らぎ構造がさらに生じた。またN端に27残基のタグを付けると、今述べたへリックス6と3-4ループの柔軟性増加に加えて、新たにへリックス4での柔軟な運動が観測された。この蛋白質はX線結晶構造解析やNMRによっても、通常の球状蛋白質のように構造決定されてはいるが、実際にはとても柔軟になってしまう構造を含んでいた。特に野生株でも柔軟な構造を呈する4-5ループ領域は分子の中心領域であるにも関わらず、かなり柔軟な構造をしていた。 p17蛋白質も同様に、アミノ酸配列から天然変性部位が存在すると考えられるが、p24と比較して明らかに実際の構造がしっかりとしていた。そこで球状蛋白質構造を仮定し、緩和実験の結果から、オーダーパラメータを計算して求め、揺らぎ構造部分を評価した。最もC端のへリックス5と3-4ループの領域にやや柔軟な構造が存在した。このようにこれら二つの蛋白質が協奏して、HIV-1の人体への感染力を高めるための蛋白質の柔軟性が機能していると結論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
二つの蛋白質の殻形成という機能に関連する揺らぎ構造を、NMRを用いて解析できた。特にp24蛋白質の振る舞いはユニークであり、異なる端に結合させたタグによって、分子内の同じ共通部位に揺らぎ構造を観測することができた。このことよりこの蛋白質の階層的な柔軟化が示唆された。この点で本研究は、蛋白質の構造形成という観点からもおもしろいと思われる。最終的には、これらの揺らぎ運動と機能の関係をダイレクトに証明していかなければならないが、本研究はNMRならではの研究であり、今後に発展できる大きな可能性を持っている。 このように、HIV-1ウイルスが実際に人体に感染する際にも、このような柔軟な殻を形成する構造蛋白質の構造変化が、感染の効率を上げている可能性が考えられた。この柔軟な構造部位はアミノ酸の配列だけからも、ある程度は予測されると結論した。できれば、創薬の開発にも繋げていきたい。 一方、方法論的な開発であるが、溶媒への露出度を正確に観測できるCLEANEX-PMの応用使用を念頭に置き、pHなどを変化させて正確な値を得る方法を、天然変性蛋白質であるアルファ―シヌクレインを用いて開発してきた。EX2の反応領域で、pHの異なる条件での回帰曲線フィッテイングを行い、さらに計算上で外挿値を求めることにより、今までノイズに埋もれていた残存構造を、明らかに導き出していく方法である。この方法も用いて、p17とp24のHIV-1ウイルス蛋白質の揺らぎ構造をさらに正確に求めていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
p24-NTDとp17の変異体を作成し、アミノ酸変異によって動的な揺らぎ構造がどのように変化していくかをまず調べる予定にしている。いくつかの変異体をすでに樹立し、緩和実験をすでに測定しているが、同時にシグナル帰属も行っていく。また実際の機能と結びつく相互作用の活性と、アミノ酸置換の関連も調べる予定である。最終的にできれば、アミノ酸置換による揺らぎ構造の変化と、生物活性の変化を定量的に結び付けて考えていきたい。 蛋白質の材料的には、より天然変性度の高い天然変性蛋白質のNMR解析を今後は行いたいと考えている。その理由は天然変性蛋白質は、強力に作用するよい薬のターゲットとなりうるからである。反面、解析の難しさから、天然変性蛋白質の動的揺らぎ構造は、あまり解析されていない。蛋白質の合成には、無細胞システムで推進しておこなっていきたい。材料費的にも、その方が経済的である場合も多い。特に13Cラベルには都合がいいと思われる。 また方法論的な解析にはCLEANEX-PM法とHD交換法を今後は併用していきたいと考えている。さらに発展として、NMR的に主鎖の15Nに限定するのだけではなく、ユニホームラベル体を用いた側鎖の13Cシグナルの解析もおこなっていきたい。さらなる緩和実験と化学シフト値の解析法を行い、新しい解析法樹立を目指していきたい。NMRによって揺らぎ運動をさらにグローバルに解析していきたいと思っている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23-24年度に蛋白質の多形構造解析を集中的に行い、よい研究成果が出たので平成25年度は2つの原著論文を集中的にまず作成し投稿し、採択され、研究成果で公表した。さらにもう一つ原著論文を投稿中である。論文の投稿準備や投稿の際の審査員とのやりとり、さらにデータ解析を発展させて行ったことにより時間がかかった。データをまとめ上げてから、次の実験に発展させる必要があったため、未使用額が発生した。 予算を持ち越す26年度は、これまでの蛋白質の多形構造解析をさらに発展させるために、新しいNMR測定のための安定同位体標識された種々の蛋白質の合成にかかる費用、新しい測定方法開発と新しいサンプル測定のための高磁場NMR装置の使用料、さらにピペット、チューブやNMRサンプルチューブ、蛋白質濃縮カートリッジなど生化学的な消耗品類を使用使途として考えている。また、論文投稿料などの情報公開発表に関わる費用も含む。
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Research Products
(6 results)
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[Journal Article] Flexible and rigid structures in HIV-1 p17 matrix protein monitored by relaxation and amide proton exchange using NMR2014
Author(s)
Ohori, Y., Okazaki, H., Watanabe, S., Tochio, N., Arai, M., Kigawa, T., and Nishimura, C.*
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Journal Title
Biochimica et Biophysica Acta
Volume: 1844
Pages: 520-526
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Remaining structures at the N- and C-terminal regions of alpha-synuclein accurately elucidated by amide-proton exchange NMR with fitting2013
Author(s)
Okazaki, H., Ohori, Y., Komoto, M., Lee, Y-H, Goto, Y., Tochio, N., and Nishimura, C.*
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Journal Title
FEBS Letters
Volume: 587
Pages: 3709-3714
DOI
Peer Reviewed
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