2012 Fiscal Year Research-status Report
イオン輸送を伴うトランスポーターの輸送分子機構の解明
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23590062
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
宮内 正二 東邦大学, 薬学部, 教授 (30202352)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
菊川 峰志 北海道大学, 先端生命科学研究科(研究院), 助教 (20281842)
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Keywords | トランスポーター / 分子弁 / オリゴペプチドトランスポーター / 光駆動性イオンポンプ / 水素結合ネットワーク |
Research Abstract |
H+/オリゴペプチド共輸送担体 (PEPT) は,第二膜貫通領域 (TDM2) に存在する輸送活性中心である His57 のプロトン化により輸送活性が調節されている.PEPTsoの結晶構造(バクテリアにおけるPEPT類似輸送担体)を用いたホモロジーモデリングにより,His57と相互作用する可能性が高いSer302を見出した.Ser302をAla, Thr, Valに変化させた変異体をアフリカツメガエル卵母細胞に発現させGly-Sar (典型的なPEPTの基質)の取り込み輸送活性のpH依存性を検討した.Ala, Thrの変異体は野生型hPEPT1に比べて輸送活性は低下したが,輸送活性は保持していた.取り込み輸送活性のpH依存性は,野生型,S302A, S302T変異体もベル型を示したが,これら変異体は,至適pHが野生型に比べてアルカリ側に1.5シフトした. Ser302はHis57のpKaを低下させ,生理的状態(pH5.5~pH6.0) において輸送活性を最大とする役割を果たしていることが明らかになった.S302V変異体についてはHis57が水素結合を形成することが出来ない状態にあり,輸送活性が見られなかった.このことより,Ser302とHis57における水素結合は,基質輸送においても必須であることが明らかになった.更に, Ser修飾試薬, PMSF および AEBSFを用いてSer302およびHis57の相互作用を検討した.Ser302は,細胞外からアクセス可能な部位に位置するにも関わらず,これら修飾試薬により輸送活性は影響を受けなかった.His57のイミダゾ-ル基とSer302の水酸基との間の水素結合はSer水酸基を活性化するほど強くなく,これら相互作用は分子弁としてではなく,His57のpKaの低下および基質認識のための構造保持として機能していることが示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
PEPTのpHによる輸送活性の調節にSer302とHis57との間の水素結合が重要な役割を果たしていることを明らかにした. 更に,Serの水酸基の化学修飾試薬を用いて,Serが化学修飾を受けるほど,His57とSer302の水素結合は強くなく,基質輸送における分子弁として機能しているというよりも,His57のpKaの低下,基質認識のための構造保持に重要な役目を果たしていることを明らかにした. 一方,光駆動性クロライドポンプ(ハロロドプシン (HR))を用いてCl- 輸送に関与するアミノ酸残基とその役割に関して,① HRにおけるCl- 逆流防止の分子弁の作動メカニズムとして,レチナールシッフ塩基とSer130との水素結合が重要であること,更に,②Cl- 輸送に伴ったHRにおけるシッフ塩基のpKa低下は,この分子弁が引き起こしていること,③この分子弁形成により,活性化されたSerの水酸基のエネルギーがCl- 輸送の駆動力へ転換されていることについても明らかにした.現在,Ser修飾試薬を用いて,HR輸送分子機構の研究を引き続き行っている. PEPTに関する研究は,当初,計画した以上に進展している.この研究を進めていく中で,HRにおけるSerの役割を明らかにする手がかり,即ち,活性化されたSerの水酸基をSer修飾試薬により同定する方法を開発することができた.これら全てを総合的に解釈して,本年度の進展状況をおおむね順調に進展したと評価した.
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度において, HRおよびPEPT の輸送分子機構においてSerの水酸基が重要な役割を果たしていることを明らかにした.輸送におけるSer水酸基の役割を解明するために,HRに関しては,①Ser化学修飾薬存在下で (a) 閃光光分解法を用いて,どの過程において化学修飾を受けるか詳細に検討する. (b) 重水存在下におけるFT-IR 解析(北海道大学理学研究院所有)を行い,Ser130 の水素結合の形成中間体を同定する.また,(c)電気生理学的に時間分解能がCl- 輸送を測定し,ここまでで得られた知見に基づき,詳細な分子弁モデルの構築を行う.時間分解能が高い基質輸送による誘起電流を測定するために,ソフトウエアおよびアンプの改良が必要である. 一方,PEPTに関する研究では,②His57 の活性調節機構の更なる解明を行う.PEPT は,H+ の細胞内外の電気化学ポテンシャル差を基質輸送の駆動力として利用しているが,細胞外液のpH 自身により輸送活性の調節を受けている.H+ のアクセプターとして機能するアニオンN3- やHis 残基とキレートを形成するNi2+ による輸送活性の変化を解析し,His 残基が,基質結合部位及び基質輸送経路がどの様に関与するかを考察する.更に,His57と分子弁との関係を考慮して,輸送モデルの構築を行う.③PEPTにおける分子弁に関わるアミノ酸残基の同定を行う.脂溶性基質存在下では PEPT の分子弁が機能しなくなり,PEPT はチャネルとして振る舞うことが明らかにされている.PEPT に存在する基質結合ポケットの分子弁を一時的に開放する脂溶性ジペプチドを用いて,アミノ酸残基を同定する.また,ジペプチド・プローブの合成についても行い,基質認識ポケットの同定も試みる.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
HRに関する研究は,測定装置の開発,北海道大学の施設を利用した共同研究が必須である.この点は,すこし,滞ってしまった.平成24年度は,北海道大学でも電気生理学的実験系を確立し,測定装置の開発が容易になるよう環境を整えた.しかし,平成24年度では,測定機器の改良まで至らず,未使用額(\499,220)が生じた.最終年度でもある平成25年度は,更なる測定装置の改良を行いつつ,研究を推進する予定である.このため,電気生理器具の購入に未使用額(\499,220)を使用する予定である.残りは,当初の申請に従った,消耗品費(mRNA 合成キット,アフリカツメガエル,プローブ合成試薬,Niアガロースゲル,界面活性剤(DDM),変異導入キット,ガラス器具等,一般試薬)および共同研究打ち合わせ旅費,成果発表旅費,印刷料として使用する予定である.
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