2011 Fiscal Year Research-status Report
がん微小環境におけるTNF-α→TAK1シグナルはなぜ転移を促進するのか
Project/Area Number |
23590071
|
Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
櫻井 宏明 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 教授 (00345571)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | がん転移 / がん微小環境 / 炎症 / TNF-α / TAK1 |
Research Abstract |
がん微小環境における炎症反応は、なぜ浸潤・転移などのがん悪性化を促進するのかを明らかにするため、炎症とがんを結ぶ鍵分子TNF-α、およびその下流キナーゼTAK1に注目した。今年度は、上皮間葉転換(EMT)の制御機構、およびTAK1シグナルによる新しいEGFR機能の解析を行った。(1)EMT誘導に関与する細胞内シグナルの解析肺がん細胞株A549を用いたTGF-βによるEMT誘導に対して、TNF-αが促進作用を示すことを確認した。この時、TNF-αシグナルに重要な役割を果たしているNF-κBも誘導されていることが確認された。また、EGFRの発現が顕著に誘導され、同じ受容体ファミリーに属するErbB3の発現が抑制された。さらに、TAK1阻害剤である5Z-oxozeaenolを添加すると、EMT誘導が抑制された。そこで、EMT誘導時のNF-κB活性化の経時変化を検討した結果、IKK関連キナーゼTBK1の活性化が誘導されていることが分かった。(2)TAK1シグナルによる新しいEGFR機能の解析TAK1はTNF-αなどの炎症性シグナルに加えて、細菌やウイルスの感染によっても活性化される。我々は以前に、TNF-αによるTAK1活性化が、EGFRのリン酸化を誘導することを明らかにしている。そこで、今回は胃がん細胞株を用いてピロリ菌の感染によっても同様にEGFRがリン酸化されるのかを検討した。その結果、ピロリ菌感染に伴い、1時間以内にEGFRのSer/Thr残基のリン酸化が誘導された。これらのリン酸化は、TAK1を介していること、EGFRチロシンキナーゼに非依存的であることがわかった。TAK1の下流キナーゼの役割を解析した結果、ERKおよびp38がそれぞれEGFRのThrおよびSerをリン酸化していた。さらに、ピロリ菌によるEGFRリン酸化は、菌由来発がんタンパク質CagAに依存していた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
がん微小環境における炎症反応は、なぜ浸潤・転移などのがん悪性化を促進するのかを明らかにするため、炎症とがんを結ぶ鍵分子TNF-α、およびその下流キナーゼTAK1に注目している。今年度は、上皮間葉転換(EMT)の制御機構、およびTAK1シグナルによる新しいEGFR機能の解析を行った。EMT誘導に関する研究は、当初の予定していたとおりの達成度である。特に、NF-κB活性化に関与しているTBK1の活性化を見出した点は興味深いと考えている。EGFR機能の解析はピロリ菌感染による結果が得られたことは、EGFRリン酸化が炎症・感染シグナルに共通した現象であることを示すことになり、大変意義深いものだと考えている。一方、がん微小環境に関する研究は、少し遅れてしまった。これは、平成23年8月に富山大学内で異動したため、研究室の立ち上げに時間を要したためである。来年度以降に挽回可能であると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
基本的な全体計画はおおむね順調に進んでいる。したがって、当初設定した研究推進方策については大きく変更する必要はないと考えている。しかし、昨年度の学内での異動に伴う若干の遅れを取り戻すべく、特にがん微小環境に関する研究体制の整備を精力的に進めていく予定である。シグナル伝達系の解析については、前年度に見出したEMT誘導時におけるTBK1の活性化におけるTAK1の関与などについて、より詳細に解析していく予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度の研究実施状況は、学内異動に伴い若干の実施の遅れがあり、残金が発生した。しかし、ほぼ新しい研究室の整備が終わったので、今年度の遅れを挽回すべく研究費を使用していく予定である。特に、細胞株の樹立や組織染色に必要な試薬関係の消耗品へ充当する予定である。また、研究成果を発表するための国内学会への出張費、および論文投稿料の支出を計画している。
|
Research Products
(6 results)