2012 Fiscal Year Research-status Report
pH調節トランスポータNHE1の新規カルシニューリン活性化因子としての意義の解明
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23590105
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Research Institution | National Cardiovascular Center Research Institute |
Principal Investigator |
久光 隆 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究所, 室長 (50327946)
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Keywords | 心肥大 / イオン輸送体 / カルシニューリン / NFAT / pH |
Research Abstract |
脱リン酸化酵素カルシニューリン(CaN)は、Ca依存的に転写因子NFATを活性化し、免疫細胞の賦活化や心臓肥大などの生理的・病態的役割を担う重要分子である。申請者は、Na/H交換輸送体NHE1の新規結合蛋白質としてCaNを発見し、1)野生型NHE1の活性化によりCaN活性が上昇し、2)この活性上昇は、イオン輸送活性は持つがCaNを結合できない変異NHE1では消失し、3)in vitroのCaN活性はアルカリpHで著しく亢進したことから、NHE1が自身の活性化による近傍のアルカリ化により、直接結合したCaNを活性化し、下流の転写因子NFATの転写活性を上昇させるという新たなシグナル伝達機構が存在することを提案した。 これらの結果を基に平成24年度は、実際にこのような経路が病態形成過程で機能するのか、NHE1およびCaNの活性化が病的な肥大化を起こすことが知られる心筋細胞を用いて調べた。野生型NHE1またはCaN結合能を持たない変異NHE1を過剰発現したラット新生児培養心筋細胞を血清刺激した場合で比較すると、肥大化を表す心筋細胞サイズ、心肥大化マーカーANFの発現、CaN活性化の指標となるNFATの核移行程度、CaN活性化を示すRCAN1の発現は、何れも野生型NHE1の場合に亢進していた。何れの細胞応答もCaN阻害剤FK506で抑制された。これらのことは、NHE1によるCaN/NFAT経路の増幅作用が、心肥大シグナリングに含まれることを意味する。また、NHE1・CaN複合体は、ラフトにも局在することを明らかにし、複合体が集積することで効率よい増幅を支持するものと考えられた。 本研究の成果は、心肥大形成における新しいシグナル経路を提案すると共に、NHE1とCaNの結合を阻害することが新しい創薬標的となる可能性を示す。なお本成果はMol. Cell. Biol 2012掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度までに、「研究の目的」の項、「NHE1の発現がどのようにCaNを活性化させるか」、「提案したこの新規シグナル経路が培養心筋細胞の病的肥大過程において機能するか」、を明らかにし、これらの成果は英文雑誌に受理された。 NHE1/CaN/TRPC6の相互作用の詳細な検討が計画通りではないが、ラット成体心臓組織、モデル細胞系などを用いた検討により、TRPC6を含む非選択性陽イオンチャネルの活性がNHE1/CaN経路の活性化に影響するという結果を得ている。CaNのアルカリ化による活性化は、CaNのCa感受性の亢進による事が分かっている。従って、NHE1によるCaN活性の増幅機構にはNHE1活性化と連携するようなCa供給源があり、更なるCaN活性増幅に寄与することが予想され、TRPC6はその候補の一つである。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は、これまでのところ目的の2/3は達成しており、残りを本年度中に解決する予定である。NHE1/CaN複合体とTRPC6との相互作用が心筋細胞に存在し、心肥大形成に寄与するのか検討する。野生型NHE1またはCaN結合能を持たない変異NHE1を過剰発現する培養心筋細胞を用いて、薬理学的、生化学的な手法によりNHE1によるCaN活性増幅作用に対するTRPC6活性の影響を調べる。一方、NHE1によるCaN活性の増幅作用にはCaNのNHE1への結合が必要であることは判明したが、CaNどのようにして下流のNFATを脱リン酸化するのか詳細は分かっていない。NFATのCaNによる脱リン酸化反応には両者の結合が必須であることから、CaNはNHE1に結合して活性化された後に一旦解離してNFATを脱リン酸化するものと予想されるので、これを主に生化学的な手法で検討する。心肥大から心不全に至る機構は完全に明らかになってはおらず、その理解は創薬標的の創出につながると信じている。今年度の課題は、心筋細胞膜局所において発信されるNHE1/CaN/TRPC6複合体による肥大化シグナルのメカニズムを明らかにしようとするものである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費は主に、消耗品、国内旅費、国外旅費、その他に使用予定である。 消耗品は、一般試薬、培養用試薬・器具、などを含む。 国内旅費は、生化学会、生理学会、薬理学会などに参加予定である。海外旅費は、昨年度予定していた北米での学会発表には使用しなかったが、今年度はイギリスの学会に参加予定である。 その他は、論文掲載に充てる予定である。
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Research Products
(8 results)