2012 Fiscal Year Research-status Report
免疫機能調節における液胞型プロトンポンプとコリン作動系の相互作用に関する研究
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23590121
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Research Institution | Doshisha Women's College of Liberal Arts |
Principal Investigator |
藤井 健志 同志社女子大学, 薬学部, 教授 (80255380)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高鳥 悠記 同志社女子大学, 薬学部, 助教 (90411090)
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Keywords | Acetylcholine / vacuolar ATPase / T cell / mediatophore / nicotinic receptor / phytohemagglutinin |
Research Abstract |
免疫機能調節におけるコリン作動系の役割を解明していく目的で,液胞型プロトンポンプ(V-ATPase)に着目してリンパ球コリン作動系活性調節メカニズムを検討した。 1.ヒト白血病細胞株における各種V-ATPaseサブユニットの遺伝子発現の検討:Tリンパ球のモデルとして用いたヒトT細胞系株白血病細胞株MOLT-3およびCCRF-CEM細胞における各種V-ATPaseサブユニットの遺伝子発現を確認した。膜貫通部位を構成しているV0 a,b,c,d,e各サブユニットが発現していた。現在、ウェスタンブロティング法によりタンパク質の発現を確認している。これらのサブユニットの遺伝子発現量は、mediatophoreと比較して少ないものと考えられた。すなわち、Tリンパ球からのアセチルコリン(ACh)遊離には、mediatophoreが主として関与している可能性が考えられた。 2.T細胞活性化による各種V-ATPaseサブユニット遺伝子発現へ及ぼす影響の検討:MOLT-3およびCCRF-CEM細胞のフィトヘマアグルチニン(PHA)による活性化に伴い、各種V-ATPaseサブユニットの遺伝子発現は若干増大した。しかしながら、その増大はごくわずかのものであった。siRNAによる各種V-ATPaseサブユニット遺伝子のノックダウンのMOLT-3およびCCRF-CEM細胞の生存率および増殖に及ぼす影響を検討する必要があると考えられた。また、α7型ニコチン受容体の新規アロステリックリガンドSLURP-1がTリンパ球ACh遊離を増大させることが明らかになったことから、α7型ニコチン受容体との相互連関の可能性の検討を進めたい。 以上のことから、Tリンパ球には各種のV-ATPaseサブユニットが発現していること、Tリンパ球活性化に伴い、V-ATPaseサブユニットの機能亢進も重要である可能性が明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、液胞型プロトンポンプ(V-ATPase)の各サブユニットのうち膜貫通領域のすべてのサブユニットの存在することが判明した。昨年度はmediatophore(V-ATPaseのcサブユニット類似の分子)がTリンパ球からアセチルコリン(ACh)の遊離に重要であることを初めて明らかにした。PCR効率の違いがあるので単純な比較はできないが、遺伝子発現量は圧倒的にmediatophoreが多いことが明らかになった。神経系ではAChのシナプス小胞への輸送にV-ATPaseが関与していることからも、形質膜におけるV-ATPaseの存在を示す重要な知見であることが考えられ、V-ATPaseの免疫系における役割の解明に向けて今後のさらなる進展が期待できる。 前年度(平成23年度)の終了時期間際にAChの測定に用いているラジオイムノアッセイの測定感度が低下してしまったが、連携研究者の川島紘一郎博士(元武蔵野大学・客員教授、現北里大学客員教授)より新たに抗ACh抗体の供与を受けることができ、この問題はすでに解決することができた。ACh産生量および遊離量の検討にも今後は問題がない。 研究成果については、欧文論文および国際学会(米国神経科学会)において、最新の研究成果として発表することができた。また、今年度、すでに国際シンポジウムにおいて共同研究者として発表することが決定している。他方、種々のサイトカイン遺伝子の発現調節変化や細胞内シグナル伝達系への影響などの検討は十分に実施することができなかったので、平成25年度はこれらの解析を中心に進めたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
アセチルコリン(ACh)は、リンパ球やマクロファージなどの免疫系細胞の機能に対してACh受容体(AChR)を介して促進的あるいは抑制的に調節していることが明らかなことから、これまで以上に研究を推進することは新たな作用メカニズムをもつ免疫調節薬の創薬や免疫疾患の治療戦略の構築には大変重要である。特に、ニコチン受容体が免疫機能の調節に関与していることの重要性は我々の研究で明らかになりつつある。 研究に従事する研究者の人員の確保は研究のさらなる推進に重要であるが、平成25年度は、共同研究者・高鳥悠記博士(同志社女子大学)、連携研究者・川島紘一郎博士(北里大学)に加えて、4名(4年次生3名,6年次生1名)の卒業研究生との研究が可能になった。3年次生も若干名が10月ごろから研究に加わる見込みである。現在、総研究着手時間も十分に確保され、新たな結果が随時得られていることから、平成25年度はさらに研究の進捗状況が向上することが期待できる。 昨年度は、薬学部内に共通機器として新たに最新の共焦点レーザー顕微鏡が設置されたため、これを利用することにより、計画立案時とは違った新たな手法を用いた研究推進も可能になった。したがって、今年度の後半には着手できるように研究計画に追加したいと考えている。 現在はリンパ球のモデル系(ヒト白血病細胞株)を用いて検討を行っているが、最終年度は、免疫異常マウスより調製した末梢血リンパ球やヒト末梢血単核白血球(倫理的な問題をクリアしたものを購入する)を用いて、液胞型プロトンポンプ(V-ATPase)とリンパ球コリン作動系活性の関連を検討する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究課題を遂行するために必要な最新の設備・備品などは基本的にすべて整備されている.昨年度は、新たに最新型の共焦点レーザー顕微鏡が薬学部共通機器として導入され、新たな手法での研究も可能になった。また、大学研究予算により、マイクロチューブ用遠心機、自動細胞計数装置および遺伝子・タンパク質定量装置を購入することができ、より効率のより研究の準備が整ってきている。したがって、平成25年度についても、研究費は試薬および消耗品の購入、成果発表(学会発表、英文投稿論文の校閲代などを含む)に係る経費のためにのみ使用する。 顕微鏡観察や細胞培養で必要なチップ、遠沈管や培養ディッシュ・フラスコ、フローサイトメトリー解析で必要なプラスチック器具類などの消耗品の費用は「プラスチック製消耗器具類(消耗品費)」に計上する。実験に用いる動物代は「実験動物(消耗品費)」に計上する。実験に用いるピペット、ビーカーやフラスコなどのガラス器具類の消耗品の費用は「ガラス製消耗器具類(消耗品費)」に計上する。 ラジオイムノアッセイ、RT-PCR、ウェスタンブロティング解析、ローサイトメトリー解析などの各実験で必要な酵素・試薬類については「薬品類(消耗品費)」に計上する.必要に応じて倫理的な問題についてクリアしているヒト末梢血単核白血球(主としてKAC社より入手)を購入する。siRNAおよびPCRプライマーの受託合成費は「消耗品費」に入れる。
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