2011 Fiscal Year Research-status Report
多剤耐性菌出現リスクを回避するための溶血性連鎖球菌専用抗生剤の開発
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23590147
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
田中 幸枝 福井大学, 医学部, 助教 (10197486)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤井 豊 福井大学, 医学部, 教授 (80211522)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | NADase / SNI |
Research Abstract |
A群β溶血性連鎖球菌(Group A β-hemolytic Streptococcus:GAS)は、経気道あるいは接触性にヒト‐ヒト感染する。最も一般的には学童期の咽頭炎であるが、蜂巣炎などの化膿性疾患や敗血症、外毒素性の猩紅熱、続発症と呼ばれる急性糸球体腎炎やリウマチ熱など病像は多彩である。また軟部組織壊死を伴い、敗血症性ショックを来す劇症型溶血性連鎖球菌感染症は経過が速く重篤なためその対策が急がれる。GASに特異性が高くかつ効果のある治療法の開発は大変重要な課題である。 本研究では、耐性菌出現頻度が低く長期間使用可能な治療法の開発のために、GASが持つ分泌毒素NADaseを標的とする抗菌薬の開発を試みた。NADaseは、GASのもう一つの分泌毒素であるSLO(Streptolysin O)の働きにより宿主細胞内に輸送され、宿主細胞のNAD+を分解し細胞障害を誘導する。これに対し、GAS自身は菌体内でSNI(Streptococcal NADase Inhibitor)と複合体を形成しNADase活性が抑制され細胞障害を免れる。そこでSNIとの複合体を解消すれば、NADase活性が得られGASの自殺が誘導できると考えた。 上記目的のために、平成23年度は(1)siRNAによるSNIの発現抑制、(2)SNI decoyによる競合阻害、(3)NADase decoyによるSNIの競合阻害、の3項目を計画した。定法に従い様々な変異体を計画したが、ごく最近、X線解析によってSNIとNADaseの相互作用に重要な領域及びアミノ酸が推定された。これを参考に、相互作用に重要と思われるSNIのループ領域の点置換体あるいはN末端、C末端および中間領域の欠失体を作製し計画(2)を実施した。NADaseについても相互作用に重要と推定されたアミノ酸の点置換体の作製によって計画(3)を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初計画していた変異体のデザイン(計画(2)、計画(3)に記載)を、NADaseのX線構造解析データ(Craig L. Smith et al. Structure 19,192-202,2011)を参考に変更したため計画したタイムスケジュール通りには進んでいない。Craig L. Smithらは、SNI(Streptococcal NADase Inhibitor)がNADase活性を中和するためのSNI-NADase間相互作用に重要なアミノ酸を推定した。その相互作用にはSNIの持つ2箇所のループ領域の8個のアミノ酸が重要であり、さらにそれらと相互作用するのはNADase上の11個のアミノ酸であることを推定した。そこで、SNI-NADase間相互作用に重要と推定されたアミノ酸あるいはそれらの近傍のアミノ酸に欠失および点置換(主にアラニン置換)を施し、競合阻害効果によってSNIのNADase中和活性に影響を与えることが期待されるdominantnegative変異体の作製を行った。現在のところ、点置換変異体の作製が煩雑であることと複数個の作製に追われているため予想外の時間を要している。さらに予備実験結果から、作製した変異体の中には易分解性のものが存在すること、中和抑制のスクリーニング法の効率が悪いこと、中和抑制効果が予想より低いことから、研究計画は当初予定していたより遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、SNI-NADase間相互作用に重要と推定されたアミノ酸あるいは近傍のアミノ酸に変異を施し、それら変異体のdominant negative効果によってSNIのNADase中和活性を抑制しようとするものである。現在までに複数個の変異体を作製したが、計画変更のため作製し切れていない変異体を引き続き作製する。予備実験結果から計画した変異体の中には易分解性のものが存在するため、作製した変異体の分解安定性をウェスタンブロット法にて検定し安定性の高い変異体を選別する。また、中和抑制効果の判定方法を簡便かつ高効率に改善することによって、より多くの変異体のスクリーニングが行えるようにする。以上の実験によって作製した変異体の中から、中和抑制効果の高い変異体を選別する。以上のスクリーニングで得られた候補の中和抑制効果が、実際に生菌中で抗菌効果として発揮されるかを検討する。易分解性、抑制効果が低いという現在までの予備実験結果によれば、計画した変異体では期待通りの成果が得られない可能性がある。そこで、現在迄に行った点置換(主にアラニン置換)以外に相互作用に影響を与える可能性の高い置換(ヒスチジン置換)の導入実験を考案中である。さらに、考案中のsiRNA(計画(1)に記載)を作製しNADase阻害活性も検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1)siRNA実験のための遺伝子導入試薬、(2)(3)変異体作製のための遺伝子クローニング用試薬、制限酵素、シーケンシング用試薬、バッファー類、ゲルなどの消耗品、および、タンパク質発現実験のためのベクター、培地類、特異的抗体、精製用カラム、検出試薬など、および(1)~(3)研究全般に必要なプラスチック器具類の消耗品費に研究費を使用する計画である。
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