2011 Fiscal Year Research-status Report
異物代謝能の個人差を考慮した化学物質のリスク評価法の開発研究
Project/Area Number |
23590148
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
埴岡 伸光 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (70228518)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
成松 鎮雄 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (20113037)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 異物代謝酵素 / シトクロムP450(CYP) / UDP-グルクロン酸転移酵素(UGT) / ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞) |
Research Abstract |
生体異物を解毒・活性化する「異物代謝酵素」の機能の個人差に着目し、ヒトを取り巻く化学物質のリスク評価法の開発を目指す。(1)ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)や哺乳動物由来の不死化細胞における異物代謝酵素の環境的要因による変動メカニズムを分子レベル(mRNA及びタンパク質発現レベル並びに酵素活性)で解明する。(2)メタボロミクス手法を用いて異物代謝酵素の補因子の生合成経路に関与する生体内物質の化学物質による量的変動を網羅的に解析する。(3)モデル化学物質にビスフェノールA(内分泌化学物質)などを用いてそのin vitro代謝の遺伝的要因に基づく異物代謝酵素の機能変動を多角的に解析・整理して各個人の体質を考慮した化学物質のリスク評価法を開発する。 本年度は、ヒトiPS細胞253G1及びDotcom株を用いて、肝細胞様細胞に分化し、UDP-グルクロン酸転移酵素(UGT)のmRNA及びタンパク質発現プロファイル、並びにシトクロムP450(CYP)の異物代謝酵素誘導能について検討した。その結果、253G1細胞株由来の肝細胞様細胞において、成人肝で発現している6種類のUGT分子種mRNA発現が確認された。Dotcom細胞株由来の肝細胞様細胞では、253G1細胞株由来のもので発現しているUGT分子種に加えてUGT1A1、UGT1A5及びUGT2B17のmRNA発現が確認された。また、3-メチルコラントレン(3-MC)によりCYP1A1及びCYP1B1、並びにUGT1A1 mRNA発現が誘導されたことから、生体肝の特性である異物代謝酵素誘導能を有していることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者は、これまでにヒトiPS細胞253G1細胞株について、アルカリフォスファターゼ染色により未分化能を維持していること、アクチビンA、DMSO、肝細胞増殖因子、オンコスタチンM及びデキサメタゾンを利用する生体肝発生を模倣した分化誘導によりiPS細胞が肝細胞様構造を獲得できることを明らかにした。また、分化誘導肝臓細胞にUGT (UGT1A4、UGT1A5、UGT1A9及びUGT2B4)mRNAが発現し、さらに3-メチルコラントレン処置によりCYP1A1及びCYP1B1 mRNA発現が増加することを確認している。これらの成果を踏まえて、本年度は、より検出感度のリアルタイムRT-PCRを利用したmRNA発現解析、並びにウエスタンブロット分析を利用したUGTタンパク質発現解析を行った。リアルタイムRT-PCRでは、3-MCに加えて新たに2種類の薬物代謝酵素誘導剤フェノバルビタール及びリファンピシンの処置を行った。ウエスタンブロット分析ではDMSO及び3-MC処置を行った253G1由来の肝細胞様細胞についてUGTタンパク質発現解析を行った。これらの検討は、ヒトiPS細胞由来肝細胞様細胞において初めて網羅的にUGT mRNAの発現解析であることを示すものであり、また、生体肝の特性である薬物代謝酵素誘導能を有していることを確認した。これらのことより、本年度の検討及びそれらの成果は、本課題の当初の計画を概ね達成したものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
1)昨年度に引き続き、化学物質の毒性発現及び代謝の標的臓器として肝臓を想定し、HepG2における異物代謝酵素の発現解析を本年度と同様の方法で検討を行う。2)本年度作製したiPS細胞由来の肝細胞様細胞及びHepG2細胞に対象化学物質を種々の濃度で添加し、異物代謝酵素のmRNA及びタンパク質の発現レベル並びにそれぞれの異物代謝酵素分子種に特異的な基質を用いて酵素活性を測定する。3)化学物質の代謝の個人差を明らかにするために、(1)個人ヒト肝ミクロゾーム及び肝臓に発現異物代謝酵素リコンビナント酵素を用いて対象化学物質のCYPあるいはUGT並びにCYP/UGTのin vitro代謝試験系を構成し、酵素反応を行う。(2)肝臓における代謝プロファイル(経路及び生成物)の個人差を整理し、その規則性を解析する。4)化学物質の毒性発現及び代謝の標的臓器として小腸を想定し、iPS細胞を腸管に分化させた細胞及びCaco-2細胞における異物代謝酵素の発現解析並びに対象化学物質による異物代謝酵素の変動をmRNA、タンパク質及び酵素機能の観点から多角的に解析する。5)化学物質の代謝の個人差を明らかにするために、(1)個人小腸ミクロゾーム(市販;すくなともそれぞれ5例以上)を及び小腸発現異物代謝酵素のリコンビナント酵素を用いて対象化学物質のin vitro代謝試験系を構成し、酵素反応を行う。(2)小腸における代謝プロファイル(経路及び生成物)の個人差を整理し、その規則性を解析する。6)異物代謝酵素の補酵素(NADH及びUDPGA)の生合成に及ぼす対象化学物質の影響についてメタボローム解析を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当研究室には細胞培養のための設備並びに異物代謝酵素の発現解析(mRNA及びタンパク質)のための装置などは所有している。一方では、細胞培養及びリコンビナント酵素の作製などの試薬や器具、並びに個人肝・小腸ミクロゾームを十分量必要とする。そのため、平成24年度の研究費のほとんどは消耗品に充てる。研究成果は学会や国際誌に発表する予定であり、旅費(学会参加のための旅費)やその他(英文校正料)にもそれぞれ5万円以下ずつ充てることを検討している。
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