2011 Fiscal Year Research-status Report
胎児GC曝露に及ぼす環境化学物質の影響評価とヒト胎盤HSD11B2の関与
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23590154
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Research Institution | Hoshi University |
Principal Investigator |
大野 修司 星薬科大学, 薬学部, 講師 (20233223)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | HSD11B2 |
Research Abstract |
平成23年度の当初の予定は、ヒト胎盤由来の細胞株(JEG3およびBeWo)を用いたCortisol代謝に及ぼす影響スクリーニング系の構築と最適化である。そこでまずJEG3およびBeWo細胞を購入し、それぞれの安定培養条件確立を行った。本研究のターゲットであるHSD11B2 mRNAが発現していることを確認するため、両細胞からtotal RNAを抽出し、逆転写後にHSD11B2の特異的primerを用いてRT-PCRを行った。その結果、JEG3細胞においてその発現を確認したがBeWo細胞には発現が認められなかった。次に、HSD11B2活性に基づくcortisolの代謝を [4-14C] cortisolをトレーサーとして用いることで検出した。すなわち、24ウェルプレートにJEG3細胞を播種し、培養液中にHSD11B2の基質としてトレーサーを添加して一定時間培養した後、残存基質と代謝物である[4-14C] cortisoneをTLCで分離し、それぞれの放射能をTyphoon 9410システムで画像解析することで、JEG3細胞中のcortisol代謝活性を算出する方法を構築した。この方法により、かなり高感度なcortisol代謝活性を検出することが可能となったが、その活性は相当弱いことが分かった。さらにJEG3細胞は、HSD11B2と逆方向 (cortisone→cortisol) へと代謝するHSD11B1をmRNAレベルでほとんど発現していないことがRT-PCR法で確認され、HSD11B2活性は極めて低いが、JEG3細胞を各種化学物質がHSD11B2へ及ぼす影響のスクリーニングに使用することが可能であると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、子宮内で成長する胎児が母体由来のストレスホルモンであるcortisolに曝露される可能性を想定し、胎児へのcortisol曝露のバリアとして機能し、胎児と母体との接点である胎盤中に発現しているHSD11B2アイソザイムに影響を及ぼす化学物質のスクリーニングとその機序について検討しようというものである。胎盤は母体由来の脱落膜と胎児由来の栄養膜とで構成されており、これまでの多くの報告からHSD11B2は栄養膜に発現していることが知られている。本研究では、胎盤全体または栄養膜を用いた特殊な影響評価系ではなく、一般に入手可能な細胞培養系を用いてこのHSD11B2に対する影響のスクリーニングを行うことを目標にしてきた。これまでにヒト胎盤由来細胞株であるJEG3細胞をスクリーニング系として利用可能である知見を得て、大きく一歩前進したと言える。しかし、発現量が少なく酵素活性が弱いため、このスクリーニング系を用いた場合には当初想定していた簡便なcortisol濃度測定法の適用が困難である。そこで、多少煩雑な方法であるが放射性トレーサーを用いる方法で代用し、高い測定感度を得ることができた。これらからおおよそ初年度の目標を達成できたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
JEG3細胞をスクリーニング系として利用することは重要である。酵素の発現量およびその活性が弱いことが問題点としてあげられるが、スクリーニング系の一つとして有用である。今後このスクリーニング系を用いて化学物質の影響を調べていく予定である。 生体内においてcortisolとcortisone間の相互変換は、これまで互いに補酵素特異性が異なるHSD11B1およびHSD11B2により触媒されていると考えられてきたが、最近になって新たなHSD11B3の存在が示唆されるようになった。このアイソザイムの酵素活性に関する報告は、現在のところ1報のみであるが、補酵素の特異性は異なるがHSD11B2と同じcortisolの酸化反応を触媒する酵素として認識されつつある。HSD11B3 mRNAはヒトの脳 (海馬)に発現しており、このHSD11B3と当初のターゲットであるHSD11B2の大腸菌内発現系を構築し、両者を比較しながら酵素活性レベルでのスクリーニングが出来るようにしたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究は単独で行うものであり、研究に割くことが出来る時間も限られている。そのような中で計画通りの成果を出すためには可能な限り単純な効率の良いスクリーニング系を構築することが重要である。このため前年度は、細胞培養系のcortisol濃度を(1)ELISA/RIAで測定、(2)HPLCによる自動測定、(3)新規に発売された、ルシフェラーゼ活性とリンクさせて簡易定量する方法の3種の中で、最も効率的な方法を検討し選定する予定であった。しかしながら、JEG3細胞におけるHSD11B2活性は極めて弱く、上述のような培養系のcortisol濃度の簡易定量値を用いてその増減を表現するには、感度的に到底及ばないことが判明した。そのため高価な検出キット等を購入する必要が減少し研究費の一部(\107,376)を次年度に使用することとした。本年度は今後の研究の推進方策で述べたように、当初のHSD11B2と平行して生体内で同じくcortisolの代謝を触媒するHSD11B3もターゲットに加え、これら両者を対比させながら、大腸菌内発現体を酵素源としてより信頼性の高い酵素活性レベルでの影響評価系の構築を追加で行う予定でいる。前年度の残予算分はこの目的で使用する予定でいる。
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