2012 Fiscal Year Research-status Report
アミノグリコシド腎毒性を導く初発分子の同定とそれを標的とした腎毒性防御法の最適化
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23590182
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
永井 純也 広島大学, 医歯薬保健学研究院(薬), 准教授 (20301301)
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Keywords | アミノグリコシド系抗生物質 / ゲンタマイシン / カチオンチャネル / 腎近位尿細管上皮細胞 / HK-2細胞 |
Research Abstract |
本年度は、昨年度において見出されたヒト腎近位尿細管上皮細胞株HK-2における[3H]gentamicin (GM)のエンドサイトーシス非依存的な取り込み機構について解析を進めた。 内耳有毛細胞においてtransient receptor potential カチオンチャネル(TRPチャネル)がgentamicinの細胞内移行に関与する報告がなされていることから、HK-2細胞における[3H] GM取り込みに対するカチオンチャネルの関与について解析した。まず、非選択的カチオンチャネル阻害剤であり、種々のTRPチャネルを阻害するruthenium red (RR)の影響について検討した結果、[3H] GM取り込みはRRの共存によって有意に阻害された。 次に、TRPV1アゴニストcapsaicinおよびresiniferatoxinの影響について検討した結果、[3H] GM取り込みはいずれのTRPV1アゴニストによっても影響されなかった。さらに、TRPV2アゴニストprobenecid、TRPV3アゴニストcarvacrolおよび6-tert-butyl-m-cresol (TBMC)の影響についても検討した結果、probenecidは[3H] GM取り込みには影響しなかったが、carvacrolおよびTBMCは[3H] GM取り込みを上昇させた。また、TRPVチャネルモジュレーターgadoliniumの影響を調べた結果、0.3 mM gadoliniumは比較的早い取り込み時間から[3H] GM取り込みを上昇させた。 HK-2細胞におけるTRPチャネル機能を確認するため、細胞内カルシウム濃度変化について検討した結果、carvacrol、TBMCおよびgadoliniumはいずれも細胞内カルシウム濃度を上昇させることが認められ、[3H] GM取り込みに対する影響と相関した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度では、HK-2細胞で認められた[3H] gentamicin(GM)のエンドサイトーシス非依存的な取り込み特性を明確にすることを目的に解析を進めた。 その結果、transient receptor potential (TRP)カチオンチャネルに作用するいくつかのアゴニストやアンタゴニストによって、HK-2細胞における[3H]GMの細胞内取り込み活性が変化することが示された。 また、TRPVチャネルモジュレーターgadoliniumによる[3H]GM取り込みの上昇効果は、HK-2細胞のみならず別の腎近位尿細管細胞株であるOK細胞においても認められた。OK細胞では通常の条件では、[3H] GMはメガリンを介したエンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれることから、OK細胞においてはgadolinium添加時にエンドサイトーシスとカチオンチャネルの2つの経路を介して[3H] GMが細胞内に取り込まれていることが推察された。 これらの結果は、これまでレセプターを介したエンドサイトーシスによって説明されてきたアミノグリコシド系抗生物質の腎蓄積にカチオンチャネルを介する新たな経路が関与する可能性を示唆するものである。 腎とともにGM投与による毒性発現部位として知られる内耳細胞において、GMがTRPチャネルを介して取り込まれることが報告されており、TRPチャネルがGMの細胞内移行、ひいては細胞毒性発現に重要な役割を果たしている可能性があると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる次年度は、[3H] gentamicin(GM)の細胞内取り込みに関与するカチオンチャネル分子をより明確にし、その分子と以前より主要な分子標的としているエンドサイトーシスレセプター・メガリンの両者をターゲットとすることによって、より有効なアミノグリコシド腎毒性防御法の開発を進めていく予定である。 我々は既に、HK-2細胞においてTRPV1、TRPV2、TRPV3、TRPV4のmRNAが発現していることを認めていることから、これらの発現レベルを変化させることによる[3H]GM取り込み活性への影響について調べることを予定している。 また、臨床においてアミノグリコシド系抗生物質はループ利尿薬と併用投与すると腎毒性が増強されることが知られているが、その相互作用のメカニズムについては不明である。最近、フロセミドが腎尿細管におけるTRPV5やTRPV6の発現を上昇させることが報告されており、この薬物相互作用にTRPVが関与している可能性があるのではないかと考えている。この点について明らかにするため、実験動物にフロセミドをアルベカシンと併用投与し、TRPVの発現変動とアルベカシンの腎蓄積変化について解析する実験などを考えている。 最終的には、本研究課題によって得られた実験結果を総合的に捉えることで、より最適なアミノグリコシド腎毒性防御のための方法論を提唱していきたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上述した研究計画に基づいて、次年度の研究費を以下のように計画する。 「物品費」は主に各種試薬、[3H]gentamicinなどのアイソトープ、実験動物(マウスあるいはラット)、試薬類およびプラスチック・ガラス器具類の購入にあてる。 「旅費」は、日本薬剤学会第28年会や日本薬物動態学会第28回年会などに参加する際の旅費にあてる。 「人件費・謝金」には、論文投稿時の英文校正に対する費用などに使用する。 「その他」は、論文投稿時および論文掲載時に必要な費用などの支払いにあてる。
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Research Products
(8 results)