2012 Fiscal Year Research-status Report
ハイブリッド型人工皮膚モデルの構築とそれを用いたタクロリムスの皮膚内動態の解析
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23590197
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Research Institution | Josai University |
Principal Investigator |
関 俊暢 城西大学, 薬学部, 教授 (60196946)
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Keywords | タクロリムス / 経皮吸収 / 人工皮膚モデル / 炎症皮膚 |
Research Abstract |
タクロリムスのラットにおける体内動態を静注試験により調査し、その後軟膏剤を適用して吸収動態を評価した。その結果、タクロリムスの経皮吸収は、角質層が存在する場合には低いが、角質層を除去することで増加し、アトピー性皮膚炎患者のように角質のバリア機能が低下した患者においてはある程度の量が吸収されるが、その量は、皮膚の病態の状況に大きく影響されることが示された。 ラット皮下に起炎剤を投与し、炎症(浮腫)が生じた場合の経皮吸収の変化を評価した。その結果、炎症を有する皮膚の場合タクロリムスの皮膚適用後の全身への移行に遅れが生じることが示された。これは、皮膚組織内に漏出した血漿タンパク質にタクロリムスが結合して、皮膚組織内に滞留したことが理由であると考えられた。そこで、マイクロダイアリシス法を用いて、漏出したタンパク質を分析したところ、タクロリムスと強く結合することが知られているα1-酸性糖タンパク質の存在が確認された。 人工皮膚モデルを用いてα1-酸性糖タンパク質の存在によるタクロリムスの膜透過速度に及ぼす影響を評価した結果、α1-酸性糖タンパク質にタクロリムスの透過を遅らせる作用があることが確認された。ラット皮膚適用時も同じ機構で全身吸収の遅れが生じたものと考えられる。これらの一連の研究結果については、日本薬学会第133年会(横浜)にて発表している。 ハイブリット型人工皮膚モデルの確立に向けて、ケラチノサイトを培養し、分化を誘導して、角質層形成過程におけるタクロリムスの透過性の変化を評価した。その結果、角質層の形成とタクロリムスの透過性の低下は対応しており、これは、アトピー性皮膚炎患者における角質層形成不全とタクロリムス透過性との関係の評価につなげていけるものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
タクロリムスの血中濃度測定法について、改善が行われ、高感度低濃度まで分析することが可能となった。その結果、炎症を有する皮膚におけるタクロリムスの吸収動態の違いを詳細に調査可能となり、角質層のバリア機能の変化と吸収の関係の調査も可能となっている。また、炎症時皮膚内に漏出するタンパク質についてもマイクロダイアリシス法の改善により分析可能となり、これらの点については順調なペースでデータが得られている。 一方、ハイブリット型の人工膜皮膚モデルについては、培養細胞を用いた透過実験が可能なレベルになっているものの、人工血管などを組み合わせたハイブリット化にはまだ十分対応しきれていない。 これらのことを総合し、おおむね順調であると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
ラットを用いたタクロリムスの経皮吸収実験の結果を薬物動態解析法を用いて定量的に評価し、その結果と人工皮膚モデルを用いて行った結果について定量的な関係を評価していく。また、皮膚の状態とタクロリムスの経皮吸収の関係を定量的に理解するため、経表皮水分蒸散の値や炎症状態の評価判定を組み合わせた多角的検証を実施する。 炎症部に漏出したタンパク質へのタクロリムスの結合とそれに伴う局所濃度の上昇について評価する。合わせて、マイクロダイアリシスの手技を利用し、遊離形のタクロリムスの濃度も同時に評価し、局所でのタクロリムスの動きを明らかにしていく。 ケラチノサイトを培養して得た人工表皮と人工物から作成する人工真皮の組み合わせによるハイブリッド形人工皮膚モデルについて、その実験材料としての有効性を、タクロリムスの皮膚透過性とこれまでの研究で明らかとなったそれに及ぼす影響要因の関係をより詳細に評価していくことで実証していく。これらの研究成果は、タクロリムスの皮膚適用によるアトピー性皮膚炎の治療をより適正なものにしていくために役立つとともに、薬物の経皮吸収を詳細に研究する新しい実験法として、実験動物の使用数削減などにも貢献するものと考える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
培養細胞の購入費用、およびそれに関連する消耗品の購入に研究費を使用する。また、ヘアレスラットの購入にも研究費を使用する。さらに、皮膚組織中に漏出するタンパク質の分析に用いる電気泳動のための費用としても使用する。加えて、成果を発表するための旅費などのにも支出する予定である。
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Research Products
(1 results)