2011 Fiscal Year Research-status Report
リーリンシグナルと神経栄養因子が関与する疑核ニューロンの腹方移動制御機構の解析
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23590218
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
薛 富義 神戸大学, 医学部, 技術専門職員 (30403231)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | リーリン / Dab1 / 疑核ニューロン / 細胞移動 / マウス |
Research Abstract |
リーリンシグナル系は大脳皮質ニューロン位置決定に重要な役割を果たすが、本研究では、脳幹の運動性脳神経核ニューロン、特に発生段階において特に長い距離を移動する疑核ニューロンの腹方移動・位置決定におけるリーリンシグナル系の機能を明らかとするため、本年度はその第1段階として、リーリンシグナル系変異動物であるリーラーおよびヨタリマウスの顔面神経核および疑核ニューロンの分布様式の違いについて詳細に検証することを目的とした。そのため、ChAT免疫組織化学法および逆行性トレーサであるコレラトキシンサブユニットB(CTB)を顔面筋および腹部食道に注入することにより、それぞれの神経核を構成するニューロンを特異的に標識した。その結果、リーラー顔面神経核では正常マウスに比べ神経核全体が背方に軽度に偏位しており、細胞移動障害の程度はごく軽微であった。一方、Dab1変異ヨタリマウスでは、外側亜核を構成するcheek regionの顔面筋支配ニューロンは移動経路のほぼ全長に沿って異所性に分布し、さらに内側亜核を構成する耳介後方領域の顔面筋支配ニューロンの多くは顔面神経膝の近傍で散在的に分布するなど、リーラーマウスより顕著な移動障害を示したことから、顔面神経核ニューロンの腹方移動にリーリンは必須でないことが示唆された。また、CTBで逆行性に標識される食道腹部を支配する疑核ニューロンの分布をリーラー・ヨタリマウスで比較したところ、両者に明らかな差異を認めることはできなかった。すなわち、移動経路の途中で孤束近傍にとどまる異所性ニューロン集団が多数認められると同時に、正常位置まで腹方移動を完了したと思われるニューロンも少数ながら認められた。以上のことから、疑核ニューロンの移動にリーリンは必須であるが、別のシグナル経路によって調節を受けている可能性も示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
リーリンシグナル系変異動物であるリーラー・ヨタリマウス顔面神経核および疑核ニューロンの生後解析については、過去の予備実験結果ともよく一致し、今回その検証をほぼ終えることができた。しかし、これらニューロンの産生・分化および移動中における発生時系列的な解析については、これまでのところ順調に進行しているとは言い難い。すなわち、異所性ニューロンの誕生日を決定するために、発生の各ステージ(E10.5 からE18.5日)の妊娠動物にブロモデオキシウリジン(BrdU)を腹腔内投与した後、得られた生後離乳期の各遺伝子型マウスに対し、逆行性トレーサであるコレラトキシンサブユニット B(CTB)を食道腹部の筋層に注入し、24~48時間後に動物を灌流固定した後、作成した脳幹の切片に対し、抗BrdU抗体および抗CTB抗体を用いた蛍光二重免疫染色を試みたが、いずれか一方しか標識されない、あるいは術後に予期せず変異動物が死亡した実験例が散見されるなど、当初の予定より解析がやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の次段階である異所性疑核ニューロン誕生日決定のため、BrdUおよび逆行性トレーサを用いた二重標識法を推進するにあたり、前述のような、いずれか一方のみが標識される事態を改善するため、BrdUの投与回数を増やすことにより、ニューロンが安定的に標識されるよう対処する。また、逆行性トレーサを食道腹部に投与した変異動物が術後死亡する場合があるため、複数以上の同腹変異マウスが得られた場合にはトレーサ手術を行わずに、BrdUとChAT抗体による二重標識実験例を設定する。このようにして異所性疑核ニューロンの誕生日を決定した後、その次の段階として、腹方移動時期特異的にこれらニューロンで発現する細胞表面レセプターおよび細胞接着因子等の発現パターンを各発生段階の胎仔脳を用いて発生時空間的に調べる。以上により、顔面神経核および疑核ニューロンの腹方移動時期特異的な調節機構の相違点を明らかとしたい。最終年度においては、脳由来神経栄養因子BDNF等をリーリンシグナル系変異動物の胎仔脳室内に投与することにより、疑核ニューロンの腹方移動の正常化を試み、疑核ニューロンがリーリンシグナル系およびBDNF等神経栄養因子によって協働的に制御されることを明らかとする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
23年度は主として各種染色用試薬、および変異動物の系統維持に必要な飼料等の購入にとどまったため当初の予算を繰り越したが、24年度においては、設備備品として遺伝子型決定専用のサーマルサイクラー等の増設、および動物手術に必要な各種器材の購入を計画している。また、学会発表・論文作成に用いるパソコン、および顕微鏡写真等各種実験データ保存用に適した大容量記憶装置等の購入を予定している。23年度同様、各種抗体等の試薬類については全体の予算に占める割合が大きくなると見積もっている。旅費に関しては、年2回程度の学会参加・成果発表旅費を計上している。その他、各ミュータント動物の系統維持のため、学内動物実験施設にて受益者負担が生じるため、相応の飼育管理費を計上している。次年度以降については、上記に加え、前述の脳室内投与に必要なマイクロインジェクション実験に必要な器材は既存のものがないため新規の購入を予定している。
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