2012 Fiscal Year Research-status Report
体節に由来する軸骨格の部域特異的形成と四肢形成の関連:その個体発生と系統発生
Project/Area Number |
23590219
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
青山 裕彦 広島大学, 医歯薬保健学研究院(医), 教授 (70143948)
|
Keywords | 体節 / 側板中胚葉 / 表皮外胚葉 / 形態形成 / 軸骨格 / 部域特異性 / Wnt / 細胞移動 |
Research Abstract |
1.遠位肋骨形成における表皮外胚葉の役割とその分子機構(ニワトリ胚) (1)卵殻内で発生中のニワトリ胚に対し,肋骨原基である体節と,表皮外胚葉との間に非透過性のフィルムを挿入すると遠位肋骨が形成されず小さな基部のみとなる.このときの組織構築を,頸部と胸部とで比較したところ,肋骨形成能を持たない頸部体節も,胸部のものと同様に皮筋板の外側部が欠損していた.一方,肋骨に相同と考えられる頸椎横突起の形態には変化が認められなかった.頸部体節は遠位肋骨の形成能を持たないため,肋骨基部のみ形成され,それが頸椎横突起となったと考えられる.(2)表皮外胚葉が体節に働きかける候補分子としてWnt6を,その受容体としてFrizzled7(Frz7)を取り上げた.Frz7の変異遺伝子をクローニングしQT6細胞に導入したものを表皮と体節の間に移植したが,期待された阻害効果が見られなかった.引き続き阻害実験を試行する.(3)In situ ハイブリダイゼーションにより,Wnt6とFrz7の発現パターンが,全載標本では重なって見えた.Wnt6が表皮に,Frz7が体節に発現することを確認する必要があるが,表皮から体節へのシグナルがWnt6であることが示唆された. 2.遠位肋骨形成における側板中胚葉の役割(ニワトリ胚) (1)胸部体節を腰仙部に移植すると肋骨が形成されるものの本来の長さより短い.移植体節をGFP遺伝子導入により,宿主側板中胚葉をDiIにより標識し追跡した.その結果,体節細胞の移動が側板中胚葉により阻止されていることが示唆された.(2)in vitroでこの現象を再現する実験系の確立を試みた.胸部体節細胞を腰部側板中胚葉と共に培養すると,胸部側板中胚葉と共培養した場合に較べ,体節細胞の移動距離が短かかった.この系の活用は,体節-側板間に働く分子機構の解明が期待される.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.表皮外胚葉と体節中胚葉との相互作用により部域特異的に肋骨遠位部が形成されるが,その際の組織構築過程の記載と,組織間相互作用及びその分子機構の解明が本研究の大きな目的の一つである.今年度,頸部体節と胸部体節との組織間相互作用を比較した結果,遠位肋骨形成の部域特異性を明らかにしたこと,また,Wnt分子が表皮外胚葉から体節へのシグナル分子として働いていることを示唆する結果が得られたことは大きな進展であった. 2.四肢形成領域には肋骨形成を抑制する機構があるのではないかというのが,明らかにしたい仮説であり,本研究のもう一つの目的である.今年度,in vivo,in vitroの両実験系において発見した,腰部側板中胚葉の示す胸部体節細胞の移動を阻止する効果は,この仮説を支持するものであり,またこの実験系は,さらにこの抑制機構の分子的基盤を追究するための実験系ともなる重要な発見である. 3.一方,マウスを用いた研究は,それを担当する予定であった大学院生の留学,またそれを引き継ぐはずであった大学院生の他大学への進学,さらにその後継を予定していた院生の休学と,担当者が相次いで不在となったため全く進んでいない.この4月に休学していた学生が復学してくるので,再開する予定である.
|
Strategy for Future Research Activity |
1.表皮外胚葉-体節中胚葉間の相互作用がWnt6によるものであることの確証がまだ得られていない.そのため以下の研究を行う.(1)Frizzled7の突然変異分子を用いたWntシグナル伝達の阻害実験にはまだ改善が必要である.あるいは,他のFrizzledやFrzbの利用が必要になるかもしれない.(2)体節発生,肋骨形成に伴うWnt6およびFrizzled7の遺伝子発現パターンの変化をin situ ハイブリダイゼーションにより,さらに詳細に解析する.とくに,部域特異性,発生段階特異性に注意して記載することが必要である.現在,表皮外胚葉が肋骨形成に必要であることはわかっているが,表皮由来因子が作用する細胞がどの組織に属するのか,すなわち肋骨原基に直接作用するのか,あるいは皮筋板を介して作用するのかが全く不明である.この点についても示唆的な結果が得られることを期待する. 2.四肢形成領域の側板中胚葉による肋骨形成阻止機能は現生のニワトリにおける腰部体節に働いているとは考えにくい.腰部体節は胸部に移植したところで肋骨形成能を発揮しないためである.従って,現生のニワトリでは胸部と腰部を明確に分離するための補助的な役割と考えられる.しかし,この機構は進化における名残とも考えられその意味でも非常に興味深く,今回得られたin vitro系を用いたさらなる解析を続け,分子機構にまで迫りたい. 3.マウスの体節発生,肋骨形成をニワトリ胚のものと比較し,ニワトリ胚との異同を明らかにする.軟骨形成や骨化中心の形態に加え,WntやFrizzledの遺伝子発現パターンの解析は,ほ乳類と鳥類との収斂進化に関する重要な知見をもたらすでことが期待される.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
主としてニワトリ受精卵の購入に用いる.¥60/個×1600個/月×10月=¥960,000 他に研究発表のための交通費,宿泊費の一部に残金を充てることを予定している.出張予定者は研究代表者以外に大学院生3名である(桂由香理,松谷薫,志村菜穂子)(日本解剖学会地方会(鳥取),および全国学術集会(栃木))
|
Research Products
(8 results)