2012 Fiscal Year Research-status Report
大脳皮質ニューロンでみられるネトリンー1作用の軸索伸長から分枝新生への転換の解析
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23590225
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Research Institution | Saitama Medical University |
Principal Investigator |
松本 英子 埼玉医科大学, 医学部, 助教 (00312257)
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Keywords | 神経回路形成 / 大脳皮質ニューロン / 軸索ガイダンス / 軸索分岐形成 / 軸索分枝新生 / 軸索伸長 / ネトリン-1 |
Research Abstract |
軸索ガイダンス因子ネトリン-1には軸索伸長/誘引、反発、軸索シャフトからの分枝新生など多様な機能が知られている。このうち軸索伸長に関する研究は過去に多数あり、齧歯類では胎生13日マウス由来の大脳皮質ニューロンで報告されている。一方、分枝新生については多くの部分が未解明であるが、我々を含むいくつかのグループは、ハムスター (胎生期は16日間) の新生仔に由来する大脳皮質ニューロンでネトリン-1依存的な分枝新生を認め追究してきた。これらの知見を考え合わせると、ネトリン-1が大脳皮質ニューロンにおいて示す生理作用は、発生初期においては軸索伸長促進であるが、後に分枝新生促進に転ずるという仮説に行き当たる。本研究はこのネトリン-1作用の転換に関し、ネトリン-1シグナルの受容や伝達、ニューロンの示す応答がどう変化するか調べ、その全体像を明らかにすることを目指す。 計画2年目に当たる24年度は特にニューロンの示す応答の解析に取り組んだ。光学顕微鏡画像の解析から、胎生16日マウス由来の大脳皮質ニューロンをネトリン-1で4時間にわたり刺激すると、ハムスター新生仔ニューロンと同様、軸索分岐数が増加することを見出した。一方、胎生14日マウスに由来するニューロンの軸索分岐数にはネトリン-1の影響がみられず、大脳皮質ニューロンのネトリン-1に対する応答は発生が進むにつれ変化することが確かめられた。 また最近開発された新型の走査電子顕微鏡による溶液中試料の観察で、胎生16日ニューロンのシャフト上にネトリン-1刺激直後より多数の糸状仮足が認められた。ハムスター新生仔大脳皮質ニューロンを用いた過去の研究では、ネトリン-1刺激直後より分枝新生に先立ちシャフトで糸状仮足の形成・退縮が盛んにおこることが報告されており、胎生16日マウス大脳皮質ニューロンもネトリン-1に対し同様の応答を示すものと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の進展に伴い、本研究における目的の達成のためには、当初予定していた光学顕微鏡画像の解析のみでは十分とはいえず、より高倍での観察も必要であることがわかってきた。そこで平成23年度途中より電子顕微鏡観察を研究に取り入れ、現在は溶液中での試料観察が可能な新型の走査電子顕微鏡を主に用いて、ニューロン微細構造の形態学的解析に取り組んでいる。このように最初の計画には無かった新手法の導入があったものの、当初より掲げる研究目的の達成に向けての経過は、全体として順調であるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
25年度は前年に得たニューロンの応答に関する結果を踏まえ、以前から取り組んできたネトリン-1シグナル受容の研究に今一度立ち戻り、大脳皮質ニューロンにおけるネトリン-1作用の軸索伸長から分枝新生への転換についての統合的な理解を目指す。 ネトリン-1受容体には軸索伸長/誘引に関わるDCC (deleted in colorectal cancer)、反発に関わるUNC5などが知られるが、分枝新生を担うネトリン-1受容体については未だ確たる報告がない。過去に我々は、ネトリン-1依存的な分枝新生を示すハムスター新生仔ニューロンの軸索シャフトでDCCの発現が認められること、このDCCはリガンド依存的かつエキソサイトーシス依存的に細胞内分布を変化させ、軸索表面に微細なクラスターを形成することを見出した。 本研究では分枝新生と軸索伸長におけるDCCの寄与の程度を調べる目的で、マウス大脳皮質ニューロンの培地にDCCに対する機能阻害抗体を添加することを試みる。胎生16日ニューロンでこれが、4時間にわたるネトリン-1刺激の際の軸索分岐数や、刺激直後の糸状仮足形成に及ぼす影響を調べ、分枝新生におけるDCCの寄与について検討する。次いで胎生14日以前のニューロンにおいてもDCC機能阻害の効果を調べる。これにより発生段階の異なる大脳皮質ニューロンでともにネトリン-1依存的にみられる、軸索伸長と分枝新生の違いをもたらすものは何であるか解明することを目指す。 またこれまで蛍光顕微鏡により捉えてきた、ネトリン-1依存的にシャフト表面に生ずるDCCクラスターに関し、電子顕微鏡観察により更なる性状解析を行う。新型の走査電子顕微鏡において免疫染色像を得る方法や、同一試料で走査電子顕微鏡画像と蛍光画像を取得する方法を確立し、高倍での観察と各種マーカーとの共局在の検討によりDCCクラスターの実体について追究する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の実験計画に変更を加えて、走査電子顕微鏡による解析に多くのエフォートを振り向けたことが影響し、研究費に次年度使用分が発生した。この次年度使用分と平成25年度新規請求分とを合わせた研究費の使途として、初代培養ニューロンの調製に始まり、種々の条件下における処理を経て、ニューロン試料の走査電子顕微鏡・光学顕微鏡画像の取得と解析に至る一連の実験を行うための費用と、得られた研究成果を公表するための費用を予定している。
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Research Products
(3 results)