2011 Fiscal Year Research-status Report
スパイン成熟および可塑性を担う新たなリン脂質関連因子の制御機構の解明
Project/Area Number |
23590232
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
謝 敏カク 福井大学, 医学部, 助教 (40444210)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 真 福井大学, 医学部, 教授 (10222019)
黒田 一樹 福井大学, 医学部, 助教 (60557966)
猪口 徳一 福井大学, 医学部, 特命助教 (60509305)
駒田 致和 福井大学, 医学部, 特命助教 (90523994)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | シナプス形成 / LTP / LTD / LL5β / PSD |
Research Abstract |
シナプス形成に関与する蛋白質の異常により学習障害、痴呆や自閉症の精神症状発現が引き起こされることが近年知られるようになってきた。しかしながら、シナプス形成の分子機構の解明自体はいまだ十分ではない。本研究はLL5βのシナプス後肥厚部(PSD)分子複合体への働きを解析し、シナプス形成から成熟に至る分子過程を解き明かし、さらには学習・記憶などの脳高次機能と密接に関わる長期増強(LTP)および長期抑圧(LTD)に対するLL5βの役割を解明することを目的とする。今年度、我々は最初に、LL5βのexon2をCreリコンビナーゼ標的配列loxPで挟むターゲティングベクターの構築し、このような遺伝子座を持つfloxマウスを作製した。その後、このfloxマウスをtnapCre発現マウスとかけ合せる事で、LL5βのEXON2の欠損したLL5βのノックアウトマウスを作製した。Golgi染色法により、生後マウスの脳切片を用いて、CA1錐体細胞のスパイン形態変化を検討した。LL5βノックアウトマウスではフィロポディア型の未成熟型スパインを多数認めた。この結果はin vitro系にて報告されているLL5βをノックダウンした海馬神経細胞のスパインでは、フィロポディアもしくはthin型の未成熟型スパインを増加した結果と一致したことから、LL5βはスパイン成熟に重要な役割を果たすことが証明された。さらに、海馬培養細胞にLL5β発現ベクターを導入し、その後NMDA処理によりLTDをおこすと、LL5βがスパイン内部から樹状突起シャフトへの局在変化することを見出したが、LTPをおこすとLL5βの局在変化がみられなかった。このことからLL5βがシナプス可塑性(特にLTD)に重要な役割を果たしていると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23 年度は、以下の目的を達成した。(1)初代培養海馬神経細胞を用いて、神経細胞の樹状突起スパインの成熟過程、すなわちフィロポディアからmushroom 型スパインへの形態変化過程におけるLL5βの役割を果たすことを証明した。(2)LTPおよびLTDにおけるLL5βの役割について検討した。その結果、LL5βがシナプス可塑性(特にLTD)に重要な役割を果たしていると考えられた。(3)フィロポディアからスパイン成熟まで各段階でLL5βダイナミックの変化および役割について検討するためにPAGFP(photoactivatable GFP)とLL5βを融合したベクターを神経細胞に導入し、単一スパインに存在するLL5βの動態を二光子顕微鏡で観察を試みた。(4)LL5βノックアウトマウスを作製し、このLL5βノックアウトマウスではフィロポディア型の未成熟型スパインを多数認めたことから、LL5βはスパイン成熟に重要な役割を果たすと証明された。さらに、このスパインの可塑性について検討を行ったところ、LL5βノックアウトマウスで異常がみられたことから、in vivoにおいてもLL5βがシナプス可塑性に重要な役割を果たすことを証明した。
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Strategy for Future Research Activity |
(平成24年度)(1)フィロポディアからスパイン成熟まで各段階でLL5βダイナミックの変化および役割について検討する。PAGFP(photoactivatable GFP)とLL5βを融合したベクターを神経細胞に導入し、単一スパインに存在するLL5βの動態を二光子顕微鏡で観察する。(2) LL5βを介した、LL5β結合タンパク質(PSD-95、CaMKIIなど)の局在変化を検討する。初代培養海馬神経細胞を用いて、スパイン成熟各段階で、光活性化法を用いて、PAGFPと融合させたPSD-95、CaMKII、ドレブリンとLL5βを共発現し、各タンパク質の局在変化を観察する。さらに念のため、各タンパクを今度はGFPと融合させ、消光後蛍光回復法(FRAP法)を用いて、LL5βを共発現させた際各タンパク質の局在の変化を観察する。同様に、LL5βノックアウトマウスを用いて検討を行う。(3)スパインのPSD領域におけるLL5βの分解機構とその意義について検討する。(4)シナプス可塑性について検討する。LL5βノックアウトマウスの海馬スライス標本を用いて、CA1領域にて興奮性シナプス後電位を計測するなど電気生理学的な解析を行う。(平成25年度)前年度の実験に加え、(1) スパイン形成の各段階で、LL5βの機能をin vivoにて解析する。In vivo系においてTet-Onを利用するRNAi誘導システムを用いて、子宮内電気穿孔法でスパイン形成の各段階でのLL5βの発現を特異的に抑制し、LL5βの機能を解析する。(2) LL5βノックアウトマウスを用いて、行動テストバッテリーを行うことにより、精神疾患様行動異常や記憶学習障害について解析する。(3)LTD およびLTPによる LL5βの役割を、スパイン膜上の AMPAR の局在変化、シナプス活動変化を指標に解明する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1)フィロポディアからスパイン成熟まで各段階でLL5βダイナミックの変化および役割について検討する。(2) LL5βを介した、LL5β結合タンパク質(PSD-95、CaMKIIなど)の局在変化を検討する。(3)スパインのPSD領域におけるLL5βの分解機構とその意義について検討する。(4)シナプス可塑性について検討する。マウスの海馬神経細胞を培養し、神経細胞スパイン形成、成熟を観察するが、妊娠マウスが高額であり、実験用動物の費用として、平成24年度70万円を計上した。かつ神経細胞培養用添加物、などの高額の試薬が必要である。なお、平成23年度においては、当初ノックアウトマウスの作製に1年を想定し実験を計画していたが、想定より早期にノックアウトマウスが作製でき、その表現型の解析(特にスパイン形成)にとりかかった。この解析には多くの時間が必要であるため、平成23年度に計画していたフィロポディアからスパイン成熟までの各段階でのLL5β局在変化の検討などについては、平成24年度の計画とし取り組むこととした。それゆえ、計画の一部変更(特に実施順序の変更)を行ったが、研究費用の使用にも当初案との変化が生じた。なお、当初平成23年度に予定していた実験は、フィロポディアからスパイン成熟まで各段階でのLL5β結合タンパク質(PSD-95、CaMKIIなど)の局在変化の検討などの当初から平成24年度以降に実施を予定していた実験と合わせて、平成24年度以降に実施する予定である。
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