2013 Fiscal Year Research-status Report
遺伝子改変マウスを用いた糸球体濾過システムと上皮バリアの統合的解析
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23590242
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Research Institution | Dokkyo Medical University |
Principal Investigator |
伊藤 雅彦 獨協医科大学, 医学部, 准教授 (70270486)
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Keywords | 腎臓 / 血液濾過 / 糸球体上皮細胞 / 足突起 / スリット膜 |
Research Abstract |
体内恒常性の維持に重要な血液濾過を行う腎糸球体において、濾過を実質的に担うのは有窓性血管内皮細胞・糸球体基底膜・糸球体上皮細胞である。この中、糸球体上皮細胞間に形成されるslit diaphragmが最終的な濾過バリアとして機能する。slit diaphragmは分化前の糸球体上皮細胞に存在する密着結合もしくはアドヘレンス結合が特殊に変化した構造であると考えられてきたが、その形成および維持おいて密着結合・アドヘレンス結合の構成分子が果たす機能的な役割についてはこれまで十分に明らかにされていない。本研究は、密着結合の構成分子ZO分子を糸球体上皮細胞特異的に欠損させることにより、この問題の解明を進めるものである。 floxed ZO-1マウスとNephrin-Creトランスジェニックマウス(Creリコンビナーゼを腎糸球体上皮細胞特異的に発現)を交配し、目的マウスの作製を行った。変異マウスは出生直後よりタンパク尿を発症し、成長障害と衰弱を伴って6週齢前後に死亡した。腎臓組織の病理標本を作製して検討した結果、ヒト巣状分節性糸球体硬化症に類似した病理像を示すことが判明した。また、透過型電子顕微鏡および走査型電子顕微鏡を用いた解析から、変異マウスではslit diaphragmが正常に形成されず、foot processと呼ばれるslit diaphragm形成に重要な構造が糸球体基底膜から剥離するという異常が観察された。 また、分子レベルの変化について検討したところ、slit diaphragmを構成する膜タンパク質nephrin, podocinの発現が低下し、また局在様式に大きな乱れが生じていることが明らかになった。この変化は前駆細胞から糸球体上皮細胞へと分化する最終段階で起きることを、詳細な解析から見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
糸球体上皮細胞特異的に密着結合ZO分子を欠損する変異マウスを作製して糸球体濾過機能と構造に及ぶ影響を解析する本研究計画のうち、ZO-1欠損マウスについては計画通りに進行し、研究実績の概要で述べた解析結果等をまとめた論文を作成して原著雑誌に投稿済みである。 一方、ZO-2欠損マウスおよびZO-1・ZO-2両分子を同時欠損する変異マウスについては、作製は完了しているものの詳しい解析は現在取り組み始めたところである。理由の一つとして、利用可能な動物飼育スペースに限りがあり、解析のために必要な変異マウスを全て同時に増やすことが困難であったことがあげられる。 こうした状況から、現在までの達成度を「やや遅れている」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
ZO-1変異マウスの解析から、糸球体濾過に対する密着結合分子の関与についてどのような点に着目することが重要か、焦点を絞ることができている。今後、ZO-2変異マウスおよびZO-1,ZO-2両遺伝子の変異マウスについて、そうした点を中心に解析を推し進める予定である。 また、糸球体上皮細胞におけるこれら分子の欠損が、具体的にどのような分子・経路の変化を直接的または間接的に惹起し、糸球体濾過の機能と構造の変化に結びつくのか、メカニズムの解明に取り組む予定である。そのために、変異マウスの糸球体をレーザーマイクロダイセクションによって回収し、網羅的に遺伝子発現・タンパク質発現の変化を解析する。顕著な変化を示す分子が同定できた場合、培養細胞を用いて変化を生じるメカニズムについて解析を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究では複数種類の遺伝子改変マウスを作製して解析を行うことを計画しているが、作製した遺伝子改変マウスの幾つかは6週齢以内に致死となり、マウスを維持しながら解析を進めるためには多数のマウスを交配して増やすことが必要となった。しかしながら本大学動物施設において一人当たりが利用可能な飼育スペースは多くなく、複数種類のマウスを同時並行で増やして解析を行うことは困難であった。したがって、作製したマウスを1種類ずつ増やして解析を進める形をとることになり、1年あたりの使用額を調整して次年度に備えることとした。 最初に解析に取り組んだ遺伝子改変マウスに関する論文を投稿しているが、追加実験を要求されることが予想され、そのために用いるマウスを増やして解析を行う上で必要となる経費や論文掲載のための経費を使用する計画である。また、作製そのものは完了している別種類の遺伝子改変マウスについて、交配して数を増やし解析を進めていくための経費が必要であり、その目的に沿って使用する予定である。
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