2012 Fiscal Year Research-status Report
哺乳類海馬機能の左右差をin vivo生理学で検証する。
Project/Area Number |
23590273
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
篠原 良章 独立行政法人理化学研究所, 神経グリア回路研究チーム, 研究員 (10425423)
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Keywords | 生理学 / 解剖学 / 左右差 / in vivo / 電子顕微鏡 / 海馬 / 脳波 |
Research Abstract |
我々は以前の報告で齧歯類のCA3-CA1回路にシナプスの形態的・分子的な左右差があることを示してきたが、その生理的な意義はin vivo生理学を用いないと明らかにできないと考えた。動物の行動に伴い脳機能に左右差が生じれば、動物の行動と生理学を直接関連づけることができる。 そこで、我々はは生後3週~6週目のラットを1匹だけでケージで飼育する「隔離飼育群」と、遊具を入れたケージで集団飼育する「豊かな環境飼育群」とに分け、左右の海馬CA1領域の脳波活動を麻酔下のラットで計測した。その結果、豊かな環境飼育群では、脳波の1つであるガンマ(γ)波の振幅が大きくなり、なかでも右側のγ波の振幅が左側に比べてより大きくなっていることを発見した。さらに、豊かな環境下のラットは左右のγ波のリズムが同期することも明らかになった。また、豊かな環境飼育群で、シナプス入力の一端を担うNMDA受容体の働きを抑制すると、このようなγ波の変化は起こらなかった。NMDA受容体は記憶や学習に関わり、特に脳が学習するときの本質であるシナプスの可塑性に重要な働きをすることが知られている。したがって、豊かな環境飼育群ではシナプスの可塑性が起きて顕著なγ波の変化が出現することが示唆された。そこで、実際に海馬CA1領域のシナプス形態を調べてみた結果、豊かな環境飼育群の右側のシナプス密度が左側に比べ明らかに高くなっていた。これにより、飼育環境の違いでシナプスが増えることで神経回路の再編が左右非対称に起きることが確認できた。 この研究結果の報告は平成24年度に学術誌(Nature communications)に受理され、25年度に公開される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね3年間の研究計画書に掲げた目標どおりに研究は遂行され、学術誌(Nature communications)に結果を発表できることになった。
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Strategy for Future Research Activity |
「実績」で述べたように、ラットを「隔離飼育群」と「豊かな環境飼育群」に分けて飼育すると、「豊かな環境飼育群」ではγ波が増強し、特に右側でその増強が大きいことが分かった。γ波はvivoの状態でのシナプス入力を反映すると考えられているので、脳の生理的な非対称性が動物の行動(経験)依存的に生じている。 なお、このγ波は海馬に特徴的な脳波であるシータ波に伴って生じ、海馬が盛んに活動しているときに現れる。つまり、海馬が非シータ状態である(熟睡時などの棘波)時でも脳波の左右差が生じているかどうかはまだ解析していない。 1.そこで、棘波の状態の脳波についても解析を行うとともに、 2.ラットの行動状態と脳波変化をもっと直接的に関連づけて解析できるように、慢性電極をラットに埋め込み、動物の行動をモニタしながら左右脳波の同時測定を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
多数のラットから電気記録を行っているので、消耗品としてラットとシリコンプローブ(電極)を使用する。さらに、覚醒下の実験系を立ち上げるためにも細々とした装置が必要である。 なお、申請した研究費に昨年度余剰が生じた理由であるが、この覚醒下での研究に移行する時期が遅れたためである。にも関わらず、前述したように研究計画が順調に進展しているのは、麻酔下の動物実験でも予想外に多くの知見を得られたためである。 さらに、学会発表の参加をできる限り少なくしたことも理由として挙げられる。
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Research Products
(8 results)