2012 Fiscal Year Research-status Report
カチオンークロライド共輸送体のイオン輸送機能を支える分子基盤の解析
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23590301
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
稲野辺 厚 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00270851)
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Keywords | イオン輸送体 |
Research Abstract |
カチオン―クロライド共輸送体(CCC)は細胞膜を介するイオン輸送に寄与し、細胞内のイオン濃度を調節することによって、細胞応答、恒常性、増殖などの様々な生理現象を調節する。CCCには疾患を発症する多くの遺伝性変異が同定されている。しかしながら、CCCのイオン選択、イオン輸送、利尿薬の作用機序、遺伝性疾患の発症機構等の詳細は不明である。本研究では、精製CCCを用いた再構成実験系によって、CCCの生理学的、薬理学的な分子機能解析を行うことを目的としている。昨年度までの検討で、古細菌メタノサルキナ属由来のCCCホモログは分子として安定に調製できたが、不安定な精製収量が課題として残っていた。そのため、新たに4種類の古細菌由来のCCCホモログを調製し、CCC機能解析に優れた分子を探求した。すると、当初より検討していた分子が安定性に優れていることが判った。しかし、再構築実験系での機能解析において、材料調整の不確実性は極めて問題である。そこで、本年度は代替発現システムとして、2種類のカリウム輸送体分子を欠損した酵母を入手した。本酵母株は培地中に高カリウムが存在すると生育可能だが、低カリウム存在下では増殖できない。本株にカリウム輸送体である内向き整流性カリウム(Kir)チャネルを導入すると、低カリウム条件下で酵母が増殖することを確認した。 一方、本年度はKirチャネルKir3.2の細胞質ドメインにおける構造変化と分子機能の連関を検討した。その結果、細胞質ドメイン中央に位置するイオン透過系路は膜貫通ドメインと共に拡張すること、その拡張は一様ではないことが判った。この知見は、細胞質ドメインには活性化因子G蛋白質の結合に依存して動く構造成分と膜貫通ドメインと共に動く構造成分が存在することを示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
CCCの再構成系実験を用いた機能解析において、CCCの安定供給は基盤である。これまで大腸菌を宿主としてCCCの発現条件を検討してきたが、熱力学的に安定な分子の不安定な収量は克服できず、本研究のボトルネックとなった。この精製蛋白質を用いた再構成実験系の困難を回避するため、発現宿主をカリウム輸送体欠損酵母へ置換することによって研究の打開を試みた。本酵母株を用いたCCC機能解析系は、1)蛋白質を精製せずに機能評価ができること、2)酵母の増殖を指標に輸送体分子の機能を推定できること、3)吸光度という簡便なリードアウトで、酵母の増殖を測定できることが利点として挙げられる。本手法は我々にとって新規であるが、他のカリウム輸送体蛋白質にも応用可能である。さらに、本研究手法を用いることによって、分子の構造情報を機能の側面から特徴づけることが可能となる。そのため、現時点までに集積した知見は有用であり、今後の研究の土台となってゆくことが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度入手したカリウム輸送体欠損株は、カリウム輸送体の機能状態と酵母の増殖が対応することが期待される。実際既報どおり、恒常活性型内向き整流性カリウムチャネルの発現によって、低カリウム培地中での酵母の増殖が観察されることが確認できた。これは変異導入によるCCCの機能評価や、CCCとその機能修飾薬との相互作用様式を、酵母の増殖を指標に解析できる可能性を示唆する。酵母の取り扱いは我々の研究室では実績がない。そのため、現在までの取り組みは今後の膜カリウム輸送体機能解析の土台となることが期待される。さらに、我々はカリウム輸送体に加えて、複数のナトリウム輸送体を欠損した酵母株も入手した。本酵母株と前述のカリウム輸送体欠損株の生育を比較することによって、細胞内のイオン濃度と細胞増殖の関係から、CCCのイオン輸送特性まで明らかになる可能性がある。今後、CCCを始めとするカリウム輸送体の機能解析を本酵母株を用いて検討してゆく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費は、細胞培養、遺伝子工学、生化学実験用の消耗品の購入、成果報告のための論文別刷、そして成果報告のための出張に使用する予定である。機器の購入は予定していない。
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Research Products
(7 results)