2011 Fiscal Year Research-status Report
肺胞上皮細胞の発生、分化における血小板受容体CLEC-2の役割の解明
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23590330
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
井上 修 山梨大学, 医学工学総合研究部, 助教 (00432154)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | CLEC-2 / 血小板 / 肺 |
Research Abstract |
我々が血小板膜上に初めて同定した新規血小板活性化受容体CLEC-2がマウス肺発生に関わる可能性について、平成23年度は以下の検討を行った。1.E19.5で帝王切開により摘出した胎仔(仔)の体重は、WT仔4匹、KO3匹で有意差は見られなかった。2.呼吸運動を観察した。出生直後では、WT仔4匹中3匹で呼吸運動が見られ、20分まで観察可能であった。摘出した肺はいずれもパラホルムアルデヒド溶液(固定液)に浮かんだ。KO仔では3匹中2匹で認められず、1匹には呼吸様運動が見られたが摘出肺は3匹とも固定液に沈降した。このことからWT仔では有効な換気が行われたが、KO仔では行われなかったと思われた。3.固定肺の組織学的検討では、HE染色ではWT仔肺に拡張した気腔構造が認められるが、KO仔肺では進展が不十分な厚い胞隔が目立った。免疫染色ではKO仔の肺内リンパ管(lyve1染色)内には血球が存在し、CLEC-2欠損マウスの特徴である血管リンパ管分離異常による影響が肺内にも認められた。I型肺胞上皮細胞マーカーのAqp-5を免疫染色したが、陽性細胞は、WTと比べKOで若干少ない傾向が認められた(未定量)。今年度の検討から、CLEC-2欠損マウスでは呼吸運動があるにもかかわらず出生仔の肺の拡張が起きていない可能性が示唆された。CLEC-2欠損マウスは出生後直ちに死亡するが、胎盤を介した呼吸から出生後の肺呼吸への切り替えに問題が生じている可能性がある。CLEC-2のリガンドであるpodoplianinの欠損マウスではI型肺胞上皮の低形成が報告されており、血小板CLEC-2欠損マウスでも同様の異常が生じている可能性があり、さらに検討を重ねたい。これまで血小板が肺の発生に関わるという報告は無く、血小板の新たな役割の発見に繋がる可能性が高い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
CLEC-2欠損胎仔は胎内での死亡により吸収胚となっている場合が多く、当初の計画より得られた胎仔数が少なかった。そこで、これまで経験の無い肺組織からのRNA抽出と、これを用いたGeneTipによるmRNAの解析はH24年度に先送りとした。一方で、経験のある組織標本を用いた免疫組織染色による組織学的検討は、計画通りに進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
CLEC-2リガンドのpodoplanin欠損マウスではI型肺胞上皮が低形成であるという報告がある。CLEC-2欠損マウスでも同様である可能性が示唆されたので、今後は以下の検討を進める。1. 胎仔肺から抽出したRNAとGeneChipを用いて種々のmRNA発現量の差異を網羅的に調べる。この検討には Mouse Gene 1.0 ST Arrayを用い、解析は当大学設置のGeneChip Scannerを用いる予定である。これによりマウス肺に発現する既知のmRNAがCLEC-2欠損により量的にどのように変化しているかが解析できる。またreal-time PCR法で解析する。I型肺胞上皮細胞マーカーであるAqp-5プローブを用いてmRNA量の差を比較し、CLEC-2欠損マウス肺でのI型肺胞上皮細胞への分化が健常マウス胎仔とどのように異なるかmRNAレベルで比較する。また、Aqp-5の発現量を肺組織を用いてEP/WBし、蛋白レベルで発現量を検討する。2. (再現実験)抗ポドプラニン抗体を母マウスへ静脈投与し、胎盤より移行した抗体によりポドプラニンと血小板CLEC-2結合を阻害することで、出生直後の呼吸不全が誘発されることを確認する。3. (再現実験)マウスでは血小板の他に好中球にもCLEC-2が発現する。そこで血小板CLEC-2のみ欠損させたCLEC-2fl/fl-PF4Creマウスを用い、血小板CLEC-2が重要であるのか検討する。4. (レスキュー実験)CLEC-2欠損ヘテロ妊娠雌マウスにリコンビナントCLEC-2蛋白を種々の濃度で経静脈投与し、胎仔の出生数、出生後の生存期間が延長するか確認する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の計画より得られたCLEC-2欠損胎仔数が少なく、RNAの抽出及びこれを用いた実験を中止した為繰越金が発生した。これまで経験の無い肺組織からのRNA抽出と、これを用いたGeneTipによるmRNAの解析はH24年度に先送りとした。今後の計画は以下の通り。静脈投与に用いる抗ポドプラニン抗体8f11、1 mg 5万円,10mg分計50万円として計画。RNA抽出キットは1キット10万円、4キット分を想定する。GeneChipは、Mouse Gene 1.0 ST. Array 1本 17万円、健常マウス肺とCLEC-2欠損マウス肺の2系統の検体を各2回、計4検体分の解析を行うと想定し、その他の試薬も含め計80万円と予想。第34回日本血栓止血学会学術集会(1名、旅費宿泊費含む)を10万円で算定。残りの予算は消耗品費、マウス飼育費等に充当する予定。
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