2012 Fiscal Year Research-status Report
新たな視点(細胞内局在制御)からアプローチした細胞機能発現機構の探究
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23590332
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
林 謙一郎 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (90238105)
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Keywords | myocardin / MRTF-A/B / Crm1 / SRF / 核外移行 / 平滑筋細胞 |
Research Abstract |
前年度に引き続き、平滑筋細胞分化のマスター遺伝子であるmyocardin (Mycd) とそのファミリーであるMRTF-A/Bの核外移行に焦点を当て解析し、下記の成果を得た。Mycd 及びMRTF-A/BにはCrm1結合部位であるleucine (L)-rich配列が2箇所 (L1: N末端L-rich 配列; L2: Q-rich domainに位置するL-rich 配列) 存在する。MRTF-A/BではL1 とL2が核外移行シグナル (NES)として働くが、MycdではL2のみがCrm1と結合する。しかしながら、MycdとCrm1の親和性は極めて弱くCrm1を介した核外移行機構は殆ど機能していない。これは以下の二つの理由によることを明らかにした。1)MycdのN末端の128アミノ酸残基からなる領域 (Mycd N128)が中央部ややN末側に位置するcentral basic domain (CB)と分子内結合し、L2がマスクされる。2)SRFとの結合によりL2がマスクされるためMycd-Crm1相互作用が拮抗的に阻害を受ける。このSRFによる阻害効果はMycdで著明であるが、MRTF-A/Bでは弱い。この理由としてMycdファミリー間でのSRFに対する親和性の相違が考えられる(SRFに対する親和性の序列:Mycd > MRTF-B > MRTF-A)。これらの結果をまとめた論文を発表した (J. Biol. Chem. 2013, 288:5743-5755)。さらに、MRTF-A、Mycd各々の二量体形成がMRTF-AのCrm1を介した核外移行及び上記のMycdの分子内結合に必須であることを見いだした。この結果をまとめた論文をCell Struct. Funct.に投稿し、受理された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新たに研究を開始して2年以内に専門誌に2報論文投稿(2報とも受理)できたこと及び関連した研究を1報論文発表したことは評価できる。 CCG-1423という低分子化合物がMRTF-A機能を抑制することが明らかになり、MRTF-Aの核移行が引き金となって惹起される上皮間葉転換を阻害する薬剤として良く使用されている。しかしながら、この薬剤の作用機序は已然不明であった。現時点では研究途上のため具体的な内容については記載できないが、この薬剤のMRTF-Aの機能抑制機構を偶然見いだすことができた。さらに、CCG-1423と類似した構造を持つ低分子化合物のスクリーニングを行い、数種類のMRTF-A機能抑制活性をもつ化合物を得た。昨年度の後半はこの想定外の解析を中心に研究を進めたため、昨年度の推進方策に挙げた骨格筋細胞分化に伴う細胞内局在制御因子の発現・機能変化の解析、特に筋分化における細胞内局在制御因子の発現とMRTF-A/Foxo1の発現・局在との相関については充分な解析が行えなかった。しかしながら、新たなMRTF-A機能阻害剤の発見は上皮間葉転換を起因とする組織の繊維化やガン化抑制をターゲットとした創薬につながる可能性が高く、インパクトも大きい。これらの理由により「(2)おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
先ず、前述したCCG-1423によるMRTF-A機能抑制効果の作用機序の全貌を明らかにすること及び新たに同定されたMRTF-A機能抑制効果をもつ化合物の作用機序と上皮または内皮間葉転換及びガン細胞の増殖・運動能に対する生物学的効果を検討する。これらの結果を踏まえて、ハイスループットスクリーニングを用いてさらなる抑制活性の強い化合物の検索を行い、新たな創薬開発を目指したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前述したように想定外の研究成果が得られたことから、今後の研究に必要な低分子化合物の合成やハイスループットスクリーニングに必要な試薬・機材にかかる予算をプールするため、節約して研究を進めた結果、「収支状況報告書」の「次年度使用額」の合計欄が0円にならなかった。最終年度である次年度では今後の研究の推進方策にのっとり前年度から繰り越した研究費と次年度の研究費を合わせて投入して研究成果を挙げて行きたい。
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