2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23590336
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
島 扶美 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (60335445)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | インシリコ / 創薬 / Ras癌遺伝子 / シグナル伝達 / がん / 低分子量G蛋白質 |
Research Abstract |
背景となる研究で申請者らが保有する、がん遺伝子産物RasとそのエフェクターRafキナーゼとの結合を阻害する低分子化合物(2種類の母核構造A群、B群に分類)について、作用の特異性を以下の方法で解析した。Rasファミリーに属するH-Ras, Rap1A, Rap2A, M-Ras, RalAならびにRhoファミリーに属するRhoA, Rac1, Cdc42を精製し、水溶性の良好なA群の3種類の化合物を用いたRelaxation-edited 1次元水素核核磁気共鳴法を用いて、化合物とRasとの結合特異性を調べた。その結果、2種類の化合物については良好なデータが得られ、Rap1A以外のRasファミリーの分子群に化合物が特異的に結合することが確認された。一方、Rhoファミリーの分子群にはA群の化合物は結合しなかった。種々のヒトがん細胞株を用いた化合物の活性評価試験では、A群、B群の化合物ともに、活性型Rasを有するヒト大腸がん細胞株SW480, DLD1, 膵臓がん細胞株Panc-1, 前立がん細胞株PC-3など複数の細胞株に対して、がん化形質を顕著に抑制することが確認されたが、活性型Rasを有さない細胞群(悪性黒色腫細胞株A375, 膵臓がん細胞株BxPC-3など)に対しては全く活性を示さず、細胞試験においてもRasに対する化合物の特異的抑制作用が証明された。またSW480を用いた担がんモデル動物システムでは、腫瘍増殖抑制が確認された組織内において、Ras-Rafシグナル伝達系の下流に位置するセリン/スレオニンリン酸化酵素MEKの活性が顕著に低下していたことから、保有化合物は腫瘍組織内においてもRas-Rafシグナル伝達系を特異的に阻害することにより抗がん作用を示すことが明らかになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた1)化合物のH-, N, K-Ras以外の低分子量G蛋白質への作用評価、2)種々のがん細胞株を用いたがん化形質抑制試験による化合物のRas特異性の評価については概ね完了しているが、3)種々のがん細胞株を用いた担がんモデル動物システムでの化合物の薬効評価については、大腸がん細胞株SW480を用いた実験結果のみがH23年度の実績であり、当初の予定のDLD-1, Panc-1, PC-3については、がん細胞の皮下組織への生着が不良で年度内に安定したモデルシステム構築には至らなかった。これらの結果により、上記の達成度区分とした。
|
Strategy for Future Research Activity |
将来的に化合物の適応がん腫の拡大を図るために、H23年度に引き続き1)複数のヒトがん細胞株を用いた担がんモデル動物システムを構築し、化合物の薬効評価を行う。また、最近確認された2)化合物の新規活性であるがん転移抑制作用のメカニズムを培養細胞ならびに転移がんモデル動物システムにて解析する。また、化合物の活性・毒性改善のための構造展開を効率的に進めるために、3)X線結晶解析ならびに核磁気共鳴法(NMR)を利用して化合物のRas認識メカニズムの解明も同時並行で行う。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1)前年度達成できなかった種々のがん細胞株を用いた担がんモデル動物による薬効評価システムの構築と化合物の薬効評価:活性型Rasを有する大腸がん細胞株DLD-1, 膵臓がん細胞株Panc-1, 前立がん細胞株PC-3を改良した培養条件下で培養し、ヌードマウスの側腹部に移植して腫瘍の成長を待つ。腫瘍サイズが50 mm3以上になったところで80-160 mg/kgの用量で化合物を3週間投与し、非投与群との比較で腫瘍増殖抑制効果を評価する。2)化合物のがん転移抑制の評価:化合物存在下で創傷治癒アッセイ(スクラッチ法、ボイデンチャンバー法)を行うとともに、細胞運動・接着に関与する分子の免疫組織染色を行う。化合物を1週間前投与したヌードマウスに、活性型Rasを有しなおかつ転移活性が高いことが知られている大腸がん細胞株SW620を尾静注し、3週間後、肺への腫瘍塊の出現の有無ならびに出現した腫瘍塊の個数を計測し、その結果を非投与群ならびに市販薬(sorafenib)投与群と比較することで、化合物のがん転移抑制作用を評価する。また、化合物を前投与した後、引き続き3週間連続投与した場合の腫瘍の転移抑制効果も同様に評価する。3)X線結晶解析ならびにNMRを利用した化合物とRasとの結合メカニズムの解析:大腸菌で大量発現・精製したH-Rasに、加水分解されないGTPアナログGppNHpを付加しH-Ras-GppNHpを作製する。高濃度に濃縮したH-Ras-GppNHpに化合物を混合して複合体を作製した後、蒸気拡散法を用いて結晶化を行う。得られた複合体の結晶を用いて放射光(SPring-8)を用いたX線回折実験を行い、複合体の立体構造を決定する。複合体の結晶化が困難、あるいは結晶が得られるものの構造決定が困難な場合には、多次元多核NMRを利用して立体構造情報を得る。
|
Research Products
(3 results)