2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23590340
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
矢野 正人 熊本大学, 大学院生命科学研究部, 助教 (60315299)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | スフィンゴ脂質 / ミトコンドリア / 電子伝達系 / 酸化ストレス / ストレス応答 / 脂肪萎縮 / スフィンゴミエリン / セラミド |
Research Abstract |
フィンゴミエリン合成酵素1(SMS1)は、細胞内のスフィンゴ脂質局在バランスを調節する役割を担っている。我々は、これまでに、SMS1ノックアウト(SMS1-KO)マウスの解析を行い、このマウスが、短寿命、インスリン分泌不全、脂肪萎縮などの病態表現型を示すことを明らかにしてきた。また、酸化ストレスの上昇が、SMS1-KOマウスの病態表現型の原因である可能性を示す結果を得ていた。そこで、本研究においては、SMS1-KOマウスに関して、以下の(1)~(3)の解析を実施した。(1)MEF細胞を用いて、ミトコンドリア電子伝達系の機能評価を試みた。しかし、細胞培養液中に含まれる脂質成分の除去が不十分であるなど、実験系に幾つかの問題点が見つかった。このため、現在も実験系を改良中である。(2)In vivoで脂肪酸トランスポーターの活性を評価する系の構築を試みた。今後、このアッセイ系を用いて、SMS1-KOマウスにおける酸化ストレスが脂肪細胞の機能に及ぼす影響を解析する予定である。(3)脂肪組織における各種mRNAの発現量を測定することで、SMS1-KOマウスにおける酸化ストレスに対する生体応答を調べた。その結果、SMS1-KOマウスでは、酸化ストレス応答因子、ミトコンドリア機能促進因子、ミトコンドリアストレス応答因子などの発現量が上昇していた。また、既知の因子だけでなく、ミトコンドリアストレス応答経路に関わると予想される候補因子ABCB10(ABCトランスポーターの一種)や、ミトコンドリア機能を促進すると予想される候補因子TMEM65などの発現量も増加していることがわかった。今後、SMS1-KOマウスにおける酸化ストレス状態とこれら候補因子の機能との関連性についても解析を展開してゆく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
MEF細胞を用いたミトコンドリア電子伝達系の機能評価に関しては、細胞培養液中に含まれる脂質成分の除去が不十分であるなど、実験系にいくつかの問題点が見つかった。このため、現在も実験系を改良中であり、未だ本実験を実施するに至っていない。よって、MEF細胞を用いた解析の多くは次年度に持ち越されることになったので、この実験に関する自己評価は「当初の予定から遅れている」とした。 酸化ストレスが脂肪細胞の機能に及ぼす影響の評価に関しては、in vivoでの脂肪酸トランスポーターの活性評価系を構築することができた。この実験は、本来、次年度以降に行う予定であったが、MEF細胞を用いた解析が順調に進まなかったため、予定を繰り上げて実施した。よって、この実験に関する自己評価は「当初の計画以上に進展している」とした。 一方で、脂肪組織におけるmRNAの発現量を調べた結果、SMS1-KOマウスでは、酸化ストレス応答、ミトコンドリア機能促進、ミトコンドリアストレス応答などが起きていることがわかった。また、新規のミトコンドリアストレス応答候補因子ABCB10や、ミトコンドリア機能促進候補因子TMEM65などの発現量も増加していることがわかった。現在までに、これら候補因子をノックダウンした培養細胞の構築を開始し、共同研究によるノックアウトマウス解析の準備も進めている。このように、SMS1-KOマウスに関連する新たな研究方向性を見出すことができた。よって、この実験に関する自己評価は「当初の計画以上に進展している」とした。 以上の自己評価を総合的に判断し、研究目的達成度の区分は「おおむね順調に進展している。」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
MEF細胞を用いたミトコンドリア電子伝達系の機能評価に関しては、まずは、血清中に含まれる脂質成分の除去方法などの問題点を解決し、適切な実験条件を選定した後に詳細な解析を行う。具体的には、SMS1-KO-MEF細胞について、各種オルガネラ(ミトコンドリア・小胞体・ゴルジ体など)におけるスフィンゴ脂質成分に異常が生じているか調べる。また、スフィンゴ脂質組成異常により、ミトコンドリアの電子伝達系およびATP合成酵素複合体の機能に異常が生じている可能性を検討する。 酸化ストレスが脂肪細胞の機能に及ぼす影響の評価に関しては、まず、これまでに構築したin vivoでの脂肪酸トランスポーターの活性評価系を用いて解析を進める。その後、必要に応じて、トランスポーターと脂質とのアフィニティー計測などを行う。また、免疫沈降実験などにより、実際にトランスポータータンパク質がROSによる修飾を受けているか調べる。さらに、脂肪組織中のATP含量や脂肪組織から単離したミトコンドリアのATP合成活性を測定することで、SMS1-KOマウスの脂肪細胞でミトコンドリア機能障害が生じている可能性も調べる。 一方で、SMS1-KOマウスの脂肪組織では、酸化ストレス応答、ミトコンドリア機能促進、ミトコンドリアストレス応答などが起きていることがわかった。また、同時に、ABCB10やTMEM65など、新規のミトコンドリアストレス応答候補因子やミトコンドリア機能促進候補因子の発現量も増加していることがわかった。今後、SMS1-KOマウスにおける酸化ストレス状態とこれら候補因子の機能との関連性についても解析を展開してゆく予定である。実際、これら候補因子をノックダウンした培養細胞の構築を既に開始しており、ノックアウトマウス解析の準備も進めている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ノックアウトマウス飼育料として年間約80万円が必要になると予想される。消耗品費用として、一般試薬類購入費用(年間約20万円)、培養用試薬類購入費用(年間約20万円)、抗体類購入費用(年間約10万円)、プラスチック器具類購入費用(年間約10万円)、ガラス器具類(年間約10万円)が必要になると予想される。国内旅費および外国旅費として年間約10万円が必要になると予想される。印刷費などのその他の費用として年間約10万円が必要になると予想される。 一般試薬類としては、主に以下の(1)~(4)のものが必要である。(1)マウスの遺伝子型を調べるためのもの(DNAポリメラーゼ、プライマー、ゲル電気泳動試薬など)。(2)マウス個体の表現型を解析するためのもの(抗酸化ストレス剤、アイソトープ試薬など)。(3)マウスでの遺伝子発現を調べるためのもの(リアルタイムPCRキット、プライマー類など)。(4)培養細胞および単離したミトコンドリアを用いたin vitro実験に必要なもの(ATP定量キット、ROS定量試薬、Blue Nativeゲル電気泳動用試薬、架橋試薬など)。また、培養用試薬として、培地、ウシ胎児血清、抗生物質などが必要である。抗体類として、一次抗体、二次抗体、ELISAキット、タンパク質検出試薬などが必要である。プラスチック器具類としては、マウス輸送箱やチューブ・チップ、細胞培養用のシャーレやフラスコなどが必要である。ガラス器具類としては、一般実験用のガラス器具、組織破砕用のホモジナイザー、顕微鏡観察用のガラスプレートなどが必要である。国内旅費および外国旅費は、研究成果の発表や、研究打ち合わせのために必要である。印刷費は、得られた成果を論文発表するための論文別刷や、文献資料のコピーのために必要である。
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Research Products
(1 results)