2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23590340
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
矢野 正人 熊本大学, 大学院生命科学研究部, 助教 (60315299)
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Keywords | 脂肪萎縮 / スフィンゴミエリン合成酵素 / ミトコンドリア / 呼吸鎖複合体 / リポタンパク質リパーゼ / ブルーネイティブゲル電気泳動 / 酸化ストレス / ミトコンドリアストレス応答 |
Research Abstract |
我々は、これまでに、ゴルジ体のスフィンゴ脂質代謝酵素であるフィンゴミエリン合成酵素1(SMS1)のノックアウト(SMS1-KO)マウスが、インスリン分泌不全や脂肪萎縮などの表現型を示すことを明らかにしてきた。本年度は、1つめの課題として、脂肪萎縮の原因解析を行った。まず、脂肪酸の各組織への取り込みをin vivoで評価したところ、肝臓への取り込みに関しては野生型マウスとSMS1-KOマウスとの間で差はなかったが、脂肪組織への取り込みはSMS1-KOマウスで顕著に低下していた。また、肝臓および脂肪組織中のリポタンパク質リパーゼ(LPL)の活性を測定した結果、SMS1-KOマウスでは、両臓器において、活性が有意に低下していることがわかった。なお、LPL活性の低下は、肝臓よりも脂肪組織において、より顕著であった。さらに、SMS1-KOマウスでは、脂肪組織中のATP量が低下していた。また、ブルーネイティブゲル電気泳動法を用いた解析から、SMS1-KOマウスの脂肪組織のミトコンドリアでは、呼吸鎖複合体IとVの量が減少していることがわかった。特に、複合体Vに関しては、酵素活性も低下していることがわかった。以上の結果から、SMS1-KOマウスの脂肪組織においては、ミトコンドリア機能に異常が生じており、それが脂肪萎縮の原因になっている可能性が示された。また、2つめの課題として、SMS1-KOマウスで活性化されていたミトコンドリアストレス応答経路などに関わると予想されるABCB10やTMEM65について、実験準備および解析の一部を実行した。具体的には、ノックアウトマウス由来のマウス胎児線維芽細胞(MEF)の回収や過剰発現細胞株の樹立を行い、ミトコンドリア機能の測定や複合体形成の解析を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度より継続していた「MEFを用いた解析」に関しては、脂肪酸の取り込みをin vitroで評価するアッセイ系を構築し、SMS1-KOマウス由来のMEFでは脂肪酸の取り込み能力が低下していることを示すことができた。平成24年度に予定していた「脂肪組織における脂肪酸の取り込み能力等を調べる実験」に関しては、個体レベルでのin vivo実験系を構築し、SMS1-KOマウスの脂肪組織では脂肪酸の取り込み能力が低下していることを示すことができた。追加的に行った「LPL活性測定」では、SMS1-KOマウスの脂肪組織と肝臓の両方でLPL活性が低下していることを示すことができた。「ATP合成量の測定」や「ブルーネイティブゲル電気泳動法を用いたミトコンドリア呼吸酵素複合体の解析」に関しても、当初の予定どおりに解析が進み、SMS1-KOマウスの脂肪組織ではATP合成量が低下することや、ミトコンドリア呼吸酵素複合体の量および活性が低下することを示すことができた。また、SMS1-KOマウスにおいて、酸化ストレスの増加に伴い促進されていた「ミトコンドリアストレス応答などに関与すると推定された因子(ABCB10やTMEM65)の解析」に関しては、平成24年度中にABCB10のノックアウトマウスを共同研究先から分与して頂き、MEFの回収を行うことができた。また、ABCB10とTMEM65のそれぞれについて、過剰発現細胞株を樹立することができ、複合体形成やミトコンドリア機能の解析を部分的ではあるが進めることができた。以上の実験項目に関する自己評価は全て「当初の予定どおりに進んでいる」とした。この自己評価を総合的に判断し、研究目的達成度の区分は「おおむね順調に進展している。」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの解析結果から、SMS1-KOマウスの脂肪組織においては、酸化ストレスの亢進を伴うミトコンドリア機能異常が生じており、それが脂肪萎縮の原因となっている可能性が示された。しかし、一方で、新たな疑問も生じてきた。例えば、SMS1-KOマウスでは、脂肪組織だけでなく、肝臓においても、LPL活性が低下していることがわかった。これまでの我々の解析から、SMS1-KOマウスは高脂肪食を摂食させても太りにくいことがわかっていたが、もしかすると、肝臓におけるLPLの活性低下が、太りにくい原因の1つになっているのかもしれない。なお、フィンゴミエリン合成酵素の一種であるSMS2(ゴルジ体に局在するSMS1とは異なり、SMS2は細胞膜に局在する)のノックアウトマウスに関しては、高脂肪食を摂食させても太りにくく、脂肪肝にもなりにくいことが既に報告されている。そのメカニズムとしては、SMS2が細胞膜におけるマイクロドメイン形成を制御することで脂肪酸のトランスポーターであるCD36の活性を制御するという説が提唱されている。一方で、最近になって、我々もSMS1-KOマウスが脂肪肝になりにくいことを見出しつつあるが、そのメカニズムに関しては未だによくわかっていない。今後は、SMS1-KOマウスが脂肪肝になりにくいメカニズムの解明を主な目的とし、酸化ストレスとの関連性を中心に解析を展開してゆく予定である。また、SMS1-KOマウスの解析結果から派生した研究対象であるABCB10やTMEM65については、その機能がほとんどわかっていない状態であるため、今後も引き続き、これらの欠損や過剰発現がミトコンドリアの機能に及ぼす影響を解析するとともに、複合体形成の状態など、基本的な性状解析を実施してゆく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費用として、機材購入費用(年間約30万円)、一般試薬類購入費用(年間約20万円)、培養用試薬類購入費用(年間約20万円)、抗体類購入費用(年間約10万円)、プラスチック器具類購入費用(年間約10万円)、ガラス器具類(年間約10万円)が必要になると予想される(合計100万円)。国内旅費および外国旅費として年間約20万円が必要になると予想される。印刷費などのその他の費用として年間約20万円が必要になると予想される。 機材としては、遠心機、シェーカー、冷蔵・冷凍庫など(いずれも50万円を超えないもの)を購入する予定である。一般試薬類としては、リアルタイムPCRキットやプライマー類など、マウス臓器での遺伝子発現強度を調べるためのものや、ATP定量キット、酸化ストレス検出試薬、架橋試薬など、培養細胞および臓器から単離したミトコンドリアを用いたin vitro実験に必要なものを購入する予定である。また、培養用試薬として、培地、ウシ胎児血清、抗生物質などを購入する予定である。抗体類としては、一次抗体、二次抗体、ELISAキット、タンパク質検出試薬などを購入する予定である。プラスチック器具類としては、細胞培養用のシャーレやフラスコなどを購入する予定である。ガラス器具類としては、一般実験用のガラス器具、組織破砕用のホモジナイザー、顕微鏡観察用のガラスプレートなどを購入する予定である。国内旅費および外国旅費は、研究成果の発表や、研究打ち合わせのために使用する予定である。印刷費は、得られた成果を論文発表するための掲載料・別刷代金や、文献資料のコピーのために使用する予定である。
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Research Products
(2 results)