2011 Fiscal Year Research-status Report
遺伝子発現誘導型の癌モデル動物における癌性カヘキシア発症の分子メカニズム
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23590358
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
鈴木 昇 三重大学, 生命科学研究支援センター, 准教授 (00202135)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
及川 伸二 三重大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (10277006)
齋藤 浩充 三重大学, 生命科学研究支援センター, 助教 (50303722)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 癌性カヘキシア / 遺伝子改変動物 / 癌モデル動物 / BNP / IL-6 / カヘキシア誘導能 |
Research Abstract |
癌性カヘキシアはがん患者の食欲減退・栄養失調を伴う全身衰弱、骨格筋と体脂肪の著明な減少を伴う「るいそう」、浮腫、貧血などの症状を引き起こし、患者の治療の障害となるばかりか、Quality of Lifeを低下させ、さらに予後を不良とする。我々は、自ら開発したモデル動物を用いて、が癌性カヘキシアについてがん細胞と宿主の両面から解析してきた。 23年度は、まず、炎症性サイトカインIL-6と脳性ナトリウム利尿ポリペプチド(BNP)がカヘキシアを誘発する能力の極めて低いがん細胞をカヘキシア高誘発細胞に悪性転換する(未発表)知見を発展させるためin situハイブリダイゼーションによって、発現細胞を検索した。腫瘍塊においてIL-6は非局在的に発現を認めたのに対してBNPは一部の細胞に強く限局して発現することを明らかにした。IL-6またはBNPの遺伝子の強制発現によってカヘキシア誘導能を獲得した細胞株を作成し、由来する腫瘍塊の遺伝子発現プロファイルをカヘキシアを誘導しない元株由来の腫瘍塊のそれと比較した結果、IL-6強制発現株由来の腫瘍塊のプロファイルと腫瘍塊とBNP強制発現株由来のそれはほぼ一致し、また、双方とも本来カヘキシアを誘発能を有する株由来の腫瘍塊のプロファイルともほぼ一致していた。これは、カヘキシー誘導能の獲得にIL-6とBNPがそれぞれのシグナル伝達系でクロストークが関与する可能性を示唆する。24年度に実施予定であったカヘキシアに関連するたんぱくを検索すべく血清タンパク質の二次元電気泳動と質量分析によるプロテオミクス解析を前倒しで行った結果、カヘキシア血清特異的なたんぱくが複数同定された。以上の成果を国内の主要な学会等で発表、またはその準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していたin situハイブリダイゼーションによる腫瘍形成とIL-6とBNPの発現を組織学的に解析した。時間的変化についての解析は次年度に引き継ぐ課題として進行中である。がん性悪液質の発症におけるIL-6と脳性ナトリウム利尿ポリペプチド(BNP)シグナルの発現調節機構とシグナルの意義の解明については強制発現細胞に由来する発現プロファイルの比較によってクロストークの意義をクローズアップすることができた点は、がん性カヘキシー病態形成メカニズムを解析するうえで大きな成果と考えられる。プロテオミクス解析の予備的実験として得られた結果は、カヘキシー動物由来血清特異的なたんぱくの存在を強く示唆しておりがん性カヘキシー病態形成における因果関係を解析するうえでの開始ポイントを提示するものと評価される。
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Strategy for Future Research Activity |
23年度の研究成果の深化と申請当初の計画にそって研究を推進する。とくに、前年度に提示したカヘキシー誘導能の獲得にIL-6とBNPがそれぞれのシグナル伝達系でクロストークが関与する可能性についての研究に重点をおき進める。遺伝子操作動物に由来する細胞株を樹立し、in vitro においては3次元培養での細胞生物学的かつ分子生物学的観点で、in vivoにおいては腫瘍形成能やカヘキシー誘導能の観点からの解析を推進する。IL-6が炎症性サイトカインであるという事実やBNPが血管新生に関連するという報告から、カヘキシー病態形成と炎症・血管新生の関連性の解析をあらたな攻略ポイントとして加えたい。また、腫瘍形成能を有するがカヘキシー誘導能のない細胞株はIL-6の発現も喪失している事実を見出しているが、がん細胞のIL-6産生能の有無、さらに、宿主のIL-6産生能が腫瘍形成・カヘキシー病態に与える影響とそのメカニズムについても調べる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
全般、23年度計画の延長部分の実施のために必要な動物、試薬等消耗品を購入する。特にIL-6とBNPがそれぞれのシグナル伝達系でクロストークが関与する可能性についてin vitro系で調べるため、血清、関連プラスチック器具をはじめ発現遺伝子プロファイリングに必要なマイクロアレイ、関連試薬を購入する。IL-6シグナル伝達系、BNPシグナル伝達系のアゴニスト、アンタゴニスト等の生化学的研究試薬を購入する。プロテオミクス解析の成果をふまえて、さらに移植に必要な動物、タンパク電気泳動・分離、質量分析に必要な関連試薬を購入する。
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