2011 Fiscal Year Research-status Report
新規p63-MYC経路の異常を介した上皮がん悪性転換機構の解明
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23590375
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Research Institution | National Cancer Center Japan |
Principal Investigator |
温川 恭至 独立行政法人国立がん研究センター, 研究所, 研究員 (80311372)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 癌 / 悪性化 / 幹細胞性 / 発現制御 / p63 |
Research Abstract |
p53ファミリーの一員であるp63 は重層扁平上皮組織のマスター遺伝子である。p53 とは対照的にp63の変異はがんにおいてほとんど見つかっていないが、p63の遺伝子増幅や高発現は異なる多くの扁平上皮がんで高頻度に認められている。一方で、p63 の発現低下とがんの進展・予後不良との相関が示唆されているが、その背景となる分子機構および発がんにおける意義は未解明である。本研究では"p63による増殖能の維持"と"p63の機能消失がもたらす上皮がん細胞の悪性転換"とのギャップを埋める分子基盤を明らかにし、広く上皮がん悪性化の鍵となる機構の解明を目的とした。特に上皮細胞の増殖能維持に重要なp63 標的遺伝子の発現が、発がん過程においてp63非依存的に制御されることがp63 消失を許容する成因となり悪性化の引き金となっている可能性を検証する。 p63の発現低下が認められる上皮がん細胞株群ではほぼ共通してc-MYCの高発現が観察されたことから、平成23年度においてc-MYCがその標的遺伝子候補となる可能性を検討した。正常角化細胞を用いてp63の過剰発現及びノックダウンを行ったところ、p63と内在性c-MYCの発現相関を見出した。正常角化細胞やp63を高発現する複数の子宮頸がん細胞株においてp63発現をノックダウンすると壊滅的な細胞増殖抑制が誘導されることを確認した。この細胞増殖能の喪失はc-MYCの過剰発現によってほぼ完全に回避され、クローン性増殖能の顕著な亢進が観察された。 以上の結果から、p63 がc-MYC 遺伝子の発現制御に関わる新規可能性を得た。また、正常上皮細胞並びにp63を過剰発現する上皮がん細胞において、c-MYCの高発現はp63の発現消失を許容することが明らかとなった。従って、本研究により新規p63-MYC 経路の異常と上皮がん細胞の悪性化との関連が初めて示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上皮幹細胞性の維持におけるp63-MYC経路の重要性の検討に関しては次年度の研究実施計画に盛り込んでいるが、一部平成23年度において先行して行った。具体的には、単層培養系において正常角化細胞並びにp63を高発現する複数の上皮がん細胞株を用いて、p63ノックダウンによる細胞増殖能の喪失が、外来性に発現導入したc-MYCによって回避・軽減されるか検討し、明らかにした。 p63によるc-MYC 遺伝子の発現制御の詳細に関しては、平成23年度に未検討な課題も含め次年度に遂行し、p63とc-MYCのリンクが直接的か間接的かを明らかにする予定である。 当初の計画には無かったが、平成23年度に正常角化細胞を用いてテトラサイクリン誘導系(HCK1T/tetON ADV)を樹立しc-MYCの発現誘導を行ったところ、DOX濃度依存性に制御されるc-MYCの発現レベルに対して内在性p63の発現レベルが逆相関することを見出した。このことはp63とc-MYCの制御ループの存在を示唆しており、発がん過程におけるp63の発現低下を説明する機構となる可能性がある。次年度は当初の計画に加え、p63とMYCのリンクを明らかにするため、p63プロモーターに対するc-MYCの相互作用についても検討を行う予定である。 また、p63-MYC経路の異常と悪性転換との関連を調べるため、最終年度において計画している研究に必要となる口腔がん多段階発がんモデルを共同で樹立し、報告した(Zushi, Yugawa et al. Am J Cancer Res. 2011)。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、以下5つの具体的課題に対し取り組むことで、新規p63-MYC経路の異常と上皮がん悪性化との関わりを世界に先駆けて提示する。 (1)p63によるc-MYC遺伝子の発現制御:p63は転写因子としてインテグリン等の細胞接着因子を含む多数の遺伝子の発現制御に関わるが、特に増殖能の維持に重要な標的遺伝子としてc-MYCが直接の標的候補となる可能性を検討する。(2)c-MYCによるp63発現低下機序:いくつかの上皮がん細胞株においてp63 の発現をノックダウンすると上皮-間葉転換が惹起され、細胞運動能の亢進をもたらすことが報告されている。また、p63の標的遺伝子として今までにSharp-1等の転移抑制遺伝子が同定されている。しかしながら、いずれの報告においてもp63 の機能消失を許容可能な限られたがん細胞株での結果を示すに留まっている。本研究は、がん抑制因子としてのp63の発現が低下する分子背景についても、c-MYCがその発現抑制に関わる可能性を検討することで初めて明らかにする試みとなる。(3)上皮幹細胞性の維持におけるp63-MYC経路の重要性:三次元培養系を用いて、重層扁平上皮組織の基底細胞における幹細胞性の維持にp63-MYC経路が果たす役割を明らかにする。(4)p63-MYC経路の異常と悪性転換との関連:研究代表者らが既に樹立した口腔がん多段階発がんモデルを用いて、c-MYC過剰発現とp63ノックダウンの細胞運動能・浸潤能における生物学的効果を調べる。(5)上皮がんにおけるp63、c-MYCの発現と予後との相関:臨床検体を用いて、がん化過程におけるp63の発現パターン変化とc-MYCレベルとの相関関係、並びに悪性度・予後との関連を調べる。 以上の結果を総合し、c-MYCの高発現がp63の機能消失による増殖能喪失を回避する分子基盤であり、上皮がん悪性化の鍵になっていることを示す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該年度において、研究実施計画を遂行及び学会にて成果発表するため研究費を使用した。研究結果に合わせて当初の計画とは異なる新たな実験を行い、平成23年度の研究計画の一部を次年度にて実施するため、交付決定額から残額が発生した。 次年度においては、(1)p63によるc-MYC遺伝子の発現制御機構を解明するため、c-MYCプロモーターのルシフェラーゼリポーターアッセイ及びクロマチン免疫沈降法によりc-MYCのプロモーター解析を行うとともに、(2)c-MYCによるp63発現低下機序を明らかにするため、p63プロモーターに対するc-MYCの相互作用についてもc-MYCプロモーターリポーターアッセイ及びクロマチン免疫沈降法を用いて検討する予定である。(1)、(2)より、p63-MYC経路の実態を明らかにした上で、更に次年度には当初の計画で掲げたように、(3)上皮幹細胞性の維持におけるp63-MYC経路の重要性を検討するため、正常角化細胞の三次元培養系を用いて外来性c-MYCによりp63ノックダウンによる組織構築能の欠損が回復するか調べる。これらの計画を実施するため、当初より使用量の増加が見込まれる試薬等消耗品を購入するための物品費として当該年度の残額及び次年度の研究費を使用する予定である。
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Research Products
(3 results)