2012 Fiscal Year Research-status Report
新規p63-MYC経路の異常を介した上皮がん悪性転換機構の解明
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23590375
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Research Institution | National Center of Neurology and Psychiatry |
Principal Investigator |
温川 恭至 独立行政法人国立がん研究センター, 研究所, 研究員 (80311372)
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Keywords | 癌 / 悪性化 / 幹細胞性 / 発現制御 / p63 / MYC |
Research Abstract |
p53ファミリーの一員であるp63 は重層扁平上皮組織のマスター遺伝子である。p53 とは対照的にp63の変異はがんにおいてほとんど見つかっていないが、p63の高発現は異なる多くの扁平上皮がんで高頻度に認められている。一方で、p63 の発現低下とがんの進展・予後不良との相関が示唆されているが、その背景となる分子機構および発がんにおける意義は未解明である。本研究では“上皮細胞の増殖能・幹細胞性の維持に必須なp63の役割”と“上皮がん細胞の悪性転換におけるp63の機能消失”とのギャップを埋める分子基盤を明らかにし、広く上皮がん悪性化の鍵となる機構の解明を目的とした。 これまでにp63によってc-MYC発現が正に制御されることを見出した。正常角化細胞や複数の子宮頸がん細胞株においてp63発現をノックダウンした際に誘導される壊滅的な細胞増殖抑制は、c-MYCの過剰発現によってほぼ完全に回避され、p63の発現消失は継代後も維持された。また、テトラサイクリン発現誘導系を用いてc-MYCを発現誘導した場合速やかにp63の発現低下が観察され、c-MYCとp63が相互に発現制御する関係にあることが示唆された。子宮頸がんのin vitro多段階発がんモデルにおいて変異型H-RASとc-MYCを段階的に導入することにより、三次元培養時の浸潤像とマウス皮下における腫瘍原性の亢進がc-MYCの発現量に依存し、且つp63の発現量と逆相関することを明らかにした。 以上の結果から、c-MYCの高発現はp63の発現消失を引き起こし、変異型H-RAS存在下で悪性度を亢進することが明らかとなった。本研究により、上皮がん細胞の悪性化にp63-MYC 経路の異常が関与する可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上皮幹細胞性の維持におけるp63-MYC経路の重要性を、正常角化細胞並びにp63を高発現する複数の上皮がん細胞株の単層培養系を用いて明らかにした。 当該年度においてp63によるc-MYC 遺伝子発現制御に加え、c-MYCによってp63発現が負に制御されることを突き止め、p63とc-MYCの間に発現制御ループが存在する新たな可能性を見出した。当初の計画には無かったが次年度に、この相互制御機構の詳細を明らかにする予定である。発がん過程におけるp63の発現低下を説明する機構は不明であり、本研究は初めてその分子基盤の解明に着手するものとなる。 p63-MYC経路の異常と悪性転換との関連を調べるにあたり、既に樹立している子宮頸がん、肺がん、並びに口腔がんin vitro多段階発がんモデルを用いて、変異型H-RAS存在下におけるc-MYCとmTOR経路の重要性を報告した(Narisawa-Saito, Yugawa et al. Carcinogenesis 2012)。今後、これら多段階発がんモデルを用いp63-MYC経路の状態と悪性度との関連を明らかにする。特に、c-MYC安定高発現時のp63ノックダウン効果、並びにp63発現消失が見られるがん細胞株においてp63過剰発現が示す生物学的効果も併せて検討する。これらの実験に必要な細胞系列、遺伝子導入ベクター、アッセイ系は全て整っており、計画研究は遂行中である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では以下5つの具体的課題に取り組み、新規p63-MYC経路の異常と上皮がん悪性化との関わりを世界に先駆けて提示する。 ①p63によるc-MYC遺伝子の発現制御:p63による増殖能・幹細胞性の維持に重要な標的遺伝子としてc-MYCが直接の標的候補であることを示す。②c-MYCによるp63発現低下機序:これまでの報告では、上皮細胞の増殖能維持に必須なp63 の機能消失を許容する限られたがん細胞株を用いて、p63のがん抑制機能が示されてきた。本研究はp63の発現が低下する分子背景について、c-MYCがその発現抑制に直接関与する可能性を検討し、初めて明らかにする試みとなる。③上皮幹細胞性の維持におけるp63-MYC経路の重要性:これまでの単層培養系での結果に加え三次元培養系を用いて、重層扁平上皮組織の基底細胞における幹細胞性の維持にp63-MYC経路が果たす役割を明らかにする。④p63-MYC経路の異常と悪性転換との関連:研究代表者らが既に樹立した子宮頸がん並びに口腔がん多段階発がんモデルを用いて、c-MYC過剰発現とp63ノックダウンの細胞運動能・浸潤能における効果を調べる。また、p63発現消失が起きているがん細胞株においてp63過剰発現が示す生物学的効果も併せて検討する。⑤扁平上皮がんにおけるp63、c-MYCの発現と臨床予後との相関:臨床検体を用いて、がん化過程におけるp63の発現パターン変化とc-MYCレベルとの相関関係、並びに悪性度・予後との関連を調べる。 以上の結果を総合し、c-MYCの安定高発現がp63の機能消失による細胞増殖能・幹細胞性喪失を回避する分子基盤であり、上皮がん悪性化の鍵となることを示す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該年度において、研究実施計画を遂行及びこれまでの成果を発表するため研究費を使用した。研究結果に合わせて当初の計画とは異なる新たな実験を追加実施したため、当該年度交付額に加え前年度未使用額の大半を使用した。 次年度においては、①c-MYCによるp63発現低下機序を明らかにするため、p63プロモーターに対するc-MYCの相互作用についても検討する予定である。また、p63の発現低下が認められるがん細胞株においてp63プロモーターのメチル化状態を調べる。これまでの結果と合わせ、p63とc-MYCの間に存在する発現制御ループを明らかにし、新規p63-MYC経路の存在を示す。②p63-MYC経路の生理学的役割について、上皮幹細胞性の維持におけるこの経路の重要性を検討する。正常角化細胞の三次元培養系を用いて外来性c-MYCによりp63ノックダウンによる組織構築能の欠損が回復するか調べる。③p63-MYC経路の異常と悪性転換との関連について、当該年度で得られた結果を更に発展し、口腔がん多段階発がんモデルのマウス同所性移植系を用いてc-MYC安定高発現とp63ノックダウンの転移能における効果をIVISイメージングシステムにより調べる。④更に当センターで開発されたTMA(Tumor tissue microarray)を用いて、p63とc-MYCの発現レベルを免疫組織化学的に解析し、がん化過程におけるp63の発現パターン変化とc-MYCレベルとの相関関係、並びに悪性度・予後との関連を調べる。 これらの計画を実施するため、当初より使用量の増加が見込まれる試薬等消耗品を購入するための物品費並びに成果発表費用として、当該年度未使用額及び次年度の研究費を使用する予定である。
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Research Products
(3 results)