2012 Fiscal Year Research-status Report
造血幹細胞移植により腫瘍部の免疫寛容を根本的に打破する免疫療法の開発
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23590384
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Research Institution | National Center of Neurology and Psychiatry |
Principal Investigator |
青木 一教 独立行政法人国立がん研究センター, 研究所, 分野長 (60270675)
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Keywords | 腫瘍免疫 / 造血幹細胞移植 / 制御性T細胞 |
Research Abstract |
本研究では、造血幹細胞を遺伝子工学的に改変することにより、腫瘍部の免疫抑制性環境を根本的に解除し、強力な腫瘍免疫を誘導する新規免疫治療戦略の開発を行う。具体的には、次の3つのステップで研究を進めている。1)造血幹細胞移植後の腫瘍部での制御性T細胞(Treg)の動態を理解する。2)腫瘍に限局してTreg特異的に自殺遺伝子を発現する新規プロモーターを開発する。3)このコンストラクトを造血幹細胞に導入し、造血幹細胞から分化するTregを腫瘍局所で排除することにより、造血幹細胞移植による腫瘍免疫を持続的に強化する。 平成24年度は、第2ステップとして、低酸素状態などの腫瘍に特異的な環境下で、Tregにおいて作動する新規遺伝子発現系を開発した。Foxp3はTregに特異的に発現している転写因子であり、Foxp3遺伝子のプロモーターとエンハンサーを用いることにより、Treg特異的に遺伝子を発現することが可能である。さらに、低酸素状態は、生体では腫瘍や動脈硬化などの病的な部位でしか起こらないことを利用し、低酸素下で遺伝子発現を誘導するHypoxia responsive elementと、正常酸素下で遺伝子発現を抑制するHypoxia-regulated silencer elementを組み合わせたhypoxia誘導配列を作成し、それをFoxp3プロモーター上流に配置した低酸素誘導型のTreg特異的プロモーターを構築した。この新規プロモーターの性能を評価するために、プロモーターの下流にルシフェラーゼ遺伝子を結合したコンストラクトを作成し、Foxp3陽性リンパ球及びFoxp3陰性細胞にレトロウイルスベクターを用いて導入した。正常酸素状態および低酸素状態で培養し、本コンストラクトが低酸素下で制御性T細胞特異的に外来遺伝子を発現することを明らかとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、腫瘍部のみで免疫抑制性環境を根本的に解除し、強力な腫瘍免疫を誘導する新規免疫治療戦略の開発を行うことを目的としている。具体的には、研究実績の概要に示す3つのステップを各年度ごとに行う予定である。 本年度は、その第2ステップとして、低酸素状態などの腫瘍に特異的な環境下で制御性T細胞において作動する新規遺伝子発現系を開発する計画である。予定通り、①Foxp3プロモーターとエンハンサーを組み合わせることにより、制御性T細胞特異的な遺伝子発現が可能である、②このFoxp3プロモーター・エンハンサーに、低酸素下で遺伝子発現を誘導するHypoxia responsive elementを組み合わせて、低酸素状態においてTreg特異的な遺伝子発現を可能とする、③さらに、正常酸素下で遺伝子発現を抑制するHypoxia-regulated silencer elementを組み合みあわせて、正常酸素分圧下ではTregでの外来遺伝子発現が抑制される、といった特徴を有する新規プロモーターを開発することに成功し、今年度の研究目標を達成した。このように、研究開始から2年間、研究は計画通りに順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に開発に成功した新規遺伝子発現系を用いて、造血幹細胞移植後に腫瘍部においてのみ制御性T細胞(Treg)を除去し抗腫瘍免疫を強化できるか検討する。 まず、構築したFoxp3プロモーターが本当にマウスの生体内で制御性T細胞特異的に機能するか確かめるために、Foxp3プロモーター下流に自殺遺伝子である単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV-tk)遺伝子を組み込む(低酸素誘導型Treg特異的自殺遺伝子発現システム)。このコンストラクトを、レトロウイルスベクターを用いて制御性T細胞に遺伝子導入し、担がんマウスに移入する。2週後にプロドラックであるガンシクロビールを腫瘍内投与して、腫瘍内に浸潤している制御性T細胞の頻度を解析し、抗腫瘍効果との関連を検討する。 次いで、造血幹細胞移植後に腫瘍局所で制御性T細胞を本当に除去できるか検討するために、上記開発した低酸素誘導型Treg特異的自殺遺伝子発現システムを、レトロウイルスベクターを用いて造血幹細胞に導入する。担がんマウスにおいて、この造血幹細胞を用いて移植を行い、免疫系の再構築を確認し、造血幹細胞移植による腫瘍免疫の誘導を解析する。特に、自殺遺伝子導入マウスでは、ガンシクロビールの全身投与により腫瘍内での制御性T細胞数が減少するか、抗腫瘍免疫を増強できるか、脾臓などの正常臓器においては制御性T細胞数が減少しないか、自己免疫様症状や血液生化学的異常は認められないか、に着目して解析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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