Research Abstract |
本研究では以下の3点, 1) 大腸癌肝転移の際に, 肝細胞がHeregulin(HRG)を産生するメカニズム, 2) 大腸癌肝転移細胞が発現するErbB3 (HRGのレセプター)やErbB2に対する分子標的療法の検討, また,3) 大腸癌における肝転移および肺転移特異的遺伝子・分子の同定とそのメカニズムの解明を目的とする. 目的1)では,ヒトでのHRG産生を確認するため,当院で肝転移切除された手術検体を免疫組織的に検討し,47/53症例に,転移巣周囲の直接傷害された肝細胞ではなく,その周囲の肝細胞に発現を確認した. そのうちの20症例で,肝転移腫瘍から2 cm以内(近位)と以上(遠位)の肝細胞のHRG産生を比較し,14例に近位の肝細胞での増加を認めた.さらに,ラットにジメチルニトロソアミン(DMN)を投与して肝傷害を誘導すると, DMNにより傷害を受けた中心静脈周囲の肝細胞ではなく,その周囲の門脈域の肝細胞にHRG産生を確認し,肝転移した癌細胞が周囲の肝細胞に傷害を与え,傷害を受けた肝細胞の周囲の肝細胞からHRGが産生される, HRG産生のメカニズムの一端を明らかにした.目的2)では,共同研究者が作製した,新規ErbB3抗体が, ヒト組織中の大腸癌細胞を認識すること,さらに大腸癌細胞のErbB3のHRGによるリン酸化を阻害することを確認し, 新規抗体が分子標的薬となりうる可能性を示した.目的3)では, 既に樹立した高肝転移ヒト大腸癌細胞の新たな性質として,GRP78を高発現すること,Isthiminが癌細胞表面のGRP78に結合してミトコンドリアの機能不全を引き起こしてアポトーシスを導くことを確認した. GRP78は癌細胞,特に転移性癌細胞などの高悪性度の細胞に高発現する傾向があることから, IsthiminによるGRP78を介した分子標的療法の可能性を示した.
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