2011 Fiscal Year Research-status Report
体腔傷害における反応性中皮細胞の機能解析と病態診断および再生治療への応用
Project/Area Number |
23590436
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Research Institution | Tokyo Women's Medical University |
Principal Investigator |
本田 一穂 東京女子医科大学, 医学部, 准教授 (10256505)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 007 細胞組織 / 008 生体分子 / 029 癌 |
Research Abstract |
平成23年度は、(1)癌性胸腹水の反応性中皮の表現形態変化、(2)培養中皮細胞・癌細胞の相互作用について検討した。(1)癌性胸腹水の反応性中皮の表現形態変化 癌患者の胸腹水や術中体腔洗浄液のうち癌陰性検体(Class I or II)と癌陽性検体(Class V)の細胞塗抹標本に各種免疫染色を実施し、癌細胞の有無による反応性中皮の形態と免疫組織学的特性を明らかにした。結果: 中皮細胞のマーカーはcytokeratin(AE1/AE3), HBME-1の発現が強く、podoplaninの発現は、シート状の分化した細胞や単離状態の一部の細胞で陽性であった。 vimentinは一部のシート状中皮細胞で陽性であった。一方、悪性細胞の指標となるIMP-3やactive integrin beta3(AP5)は、癌(+)/癌(-)に関わらず、反応性中皮では発現はほとんど見られなかった。以上の結果から、中皮細胞は癌細胞の影響下で、vimentinやdesminなどの中間径フィラメントやアクチンフィラメントなど細胞骨格に関わる分子が変化している可能性が示唆された。(2)培養中皮細胞・癌細胞の相互作用 ヒト中皮腫細胞由来の細胞株であるMet5Aとヒト大腸癌細胞由来のHCT116を用いてin vitroで検討した。HCT116の培養上清をMet5Aの培地に加え、その濃度ならびに刺激時間による影響を検討した結果、癌細胞の培養上清の添加により中皮細胞の増殖が抑制され、細胞形態が類円形から紡錘形に変化する傾向が認められた。この変化は上皮間葉形質転換(EMT)に類似していた。これらの現象から、癌細胞が分泌する何らかの液性因子が中皮細胞の形態と機能に影響を及ぼしていることが明らかとなり、反応性中皮細胞の細胞生物学的検討を行うための有効なin vitroの実験系を確立できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度は、「各種疾患・病態時における体腔液検体を用いて、中皮細胞を単離しその形態や機能を解析し、Gene Chip法を用いた中皮細胞の発現遺伝子の網羅的解析を行う」ことを目標としていた。このうち、癌性胸腹膜炎を用いた中皮細胞の形態や機能の解析については検体を集めながら、特異的な発現分子の探索を免疫組織学的に行っている。しかし、本研究の中心的課題である「反応性中皮細胞の発現遺伝子の網羅的解析」にあたっては、該当細胞の単離が不可欠な必要条件であるが、磁気ビーズやFACSを用いた細胞分離法の検討が十分に行えていない。 また、Gene Chip法に解析は高額でもあり安易に行えず、現在in vitroの培養系での検体採取を目標とし、その示適実験条件を検討中であるが、未だ完全には確立には至っていない。このため、当初の計画よりやや遅れが生じている。しかし、Gene Chip法で得られる発現遺伝子の知見が、今後の本研究の目的達成に重要な意味を持つので、この段階の検討を慎重に時間をかけて行ない、必要かつ十分な反応系を確立すべきと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、本研究の主たる目的である反応性中皮細胞の発現遺伝子の網羅的解析を中心に研究を進める。その為にまず、in vitroでの中皮細胞の反応様式について詳細に検討する必要がある。これまでの実験では癌細胞の培養上清を添加する刺激を加えたが、癌細胞との共培養(トランスウェル法)、癌細胞との混合培養などでも検討する予定である。共培養下では短時間で失活する生体分子や癌細胞からの持続的な影響を見ることが出来き、混合培養では癌細胞と中皮細胞の直接的な接触の影響を見ることが出来る。一方、中皮細胞としては中皮腫由来の細胞株のみならず、より生体の反応系に近いラットからの初期培養中皮を使用する必要もあろう。中皮細胞の形態変化や細胞骨格分子の変容が必要かつ十分に得られる条件が確立した上で、Gene Chip法の為の検体を採取し解析する予定である。さらにGene Chip法の結果をもとにして、癌細胞に対する中皮細胞の反応に関与する特異的な生体分子や生体反応機構を解明し、それらが実際の臨床検体や生体実験モデルで作用していることを検証する予定である。 以上の検討で得られる「癌細胞と中皮細胞の反応」は、癌性胸腹膜炎における癌の播種、難治性腹水(滲出)、癒着などの臨床現象(病態)に深く関与している。また、診断医学の観点からも反応性中皮細胞と癌細胞の鑑別に役立つ知見が期待できる。中皮細胞が胸・腹腔の生理的環境を癌からどのようにして守っているかを検討することで、新たな癌の治療方法や癌との共存方法の確立するためのヒントを得ることが期待できる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の研究費は、中皮細胞に発現する生体分子を検出するための各種抗体や免疫染色試薬、培養細胞を用いたin vitroの実験のための器具、培地、血清、増殖因子などの購入に使用した。次年度は、細胞培養やフローサイトメトリー関連試薬、初期中皮細胞採取やin vivoモデルに使用する動物(ラット)購入と飼育費用等に加えて、Gene Chip解析のための費用が主な研究費の使途となる予定である。Gene Chip解析はBioinformaticsの専門知識を必要とすることから、これまで解析実績のあるバイオマトリックス研究所(株)に依頼する予定である(解析費用およそ100-120万円の見積もり)。
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