2012 Fiscal Year Research-status Report
動脈硬化モデルマウスにおける脂質合成転写因子SREBP-1遺伝子抑制効果の検討
Project/Area Number |
23590453
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
高橋 昭光 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (70344893)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
島野 仁 筑波大学, 医学医療系, 教授 (20251241)
鈴木 浩明 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (40344890)
矢藤 繁 筑波大学, 医学医療系, 講師 (50451703)
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Keywords | 肥満 / メタボリックシンドローム / リポ蛋白代謝 / 動物モデル / 転写因子 |
Research Abstract |
1. SREBP-1・LDL受容体の二重欠損マウス(BP1KO/LDLRKO)については,交配ペアから安定的に実験個体が得られる状況が確立し,実験検討を開始することが出来た. 2. BP1KO/LDLRKOマウスとLDLRKOマウスとの比較において,高脂肪食負荷での血清コレステロールの減少,血清TGの著明な減少を認めた:通常食での検討においては,BP1KO/LDLRKOマウスとLDLRKOマウスの血清脂質において血清コレステロール,血清TGの減少傾向は見られたものの有意差は得られなかった.SREBP-1cが主に脂肪酸合成を支配する転写因子であること,LDL受容体は主にリポタンパクのクリアランスに関与することから,より差位を明確化するためには合成系の賦活すなわち高脂肪食負荷が有用であり,さらに本負荷食は肥満が問題化している現代日本の食生活の特徴と一致することから本実験で血清脂質へのSREBP-1の関与が明確化出来たことは有用と考えられる. 3. リポタンパクプロファイルは,主にVLDLの減少を認めた:前項2に照らして予想通りの結果であったが,本研究モデルで差位が生じている血清リポタンパクとしてVLDLが同定されたことで,動脈硬化におけるTGの役割が明確化できる可能性が高まった. 4. 通常食飼育したBP1KO/LDLRKOマウスでは,LDLR欠損マウスに対して,動脈硬化巣面積の有意な減少がみられた:食事性に変動するSREBP-1の欠損により,リポタンパクプロファイルが変動した結果,脂質介入のエンドポイントである動脈硬化が抑止されることが示せたのは臨床的な意義も大きい. 5. BP1KO/LDLRKOマウスでは,LDLR欠損マウスに対して,電子顕微鏡による観察では,VLDL粒子の粒子径の縮小が認められた:small dense LDLなどの関与を考える上でも意義深い所見である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
東日本大震災により,試薬類を損なうなどでgenotypingが遅れ,実験に用いるマウスの個体数確保に遅れを生じた.実験再開後は当初目的である脂質プロファイルや動脈硬化抑制の検討は順調に進捗し,電子顕微鏡による検討に着手することもできるなど,昨年度までの遅れはほぼ回復するにいたった.肝臓からのTG放出や肝臓における脂質合成,リポタンパク合成に関連する遺伝子の発現解析にも着手している. モデル構成は,脂肪摂取率が増加し肥満者が増加している昨今の本邦の動脈硬化性疾患増加の背景となる食生活を模倣したものであり,SREBP-1欠損が動脈硬化抑止に繋がりうることを直接的に示せたことから,当初の研究目的達成について大きく前進したものと考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
1.BP1KO/LDLRKOマウスの肝臓における遺伝子発現の検討を現在の予備検討段階からさらに発展させる:肝臓からのVLDL放出メカニズムやsmall dense LDLの形成に関与する大粒径のVLDLが産生される際にSREBP-1がどの様に関与しているかを明かにすることで,動脈硬化予防のための新たな制御ターゲットを見いだしていく. 2.動脈硬化巣の分布について,大動脈起始部以外での状況を観察する:SREBP-1欠損による動脈硬化抑止が大動脈起始部のみならず,大動脈全長においてどのように変化するかを観察することで,より実際的な動脈硬化抑止効果が期待できるかどうかを検討する. 3.実際の臨床的介入へのアプローチとして,SREBP-1の下流である脂肪酸伸長酵素,Elovl6などの影響も側面的に検討してみる:転写因子を直接薬物で制御できればその下流遺伝子を一括制御できることから極めて有効である可能性もあるが,予期せぬ有害反応が生じる可能性も高い.SREBP-1は脂肪酸合成や脂肪酸修飾など多岐に亘る脂肪合成系を幅広く制御することから,その下流の酵素を直接制御することで,今回SREBP-1欠損によりもたらされると考えられる動脈硬化抑止効果をより実際的な臨床応用へ結びつける端緒としたい.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
直接経費の大半は,消耗品,試薬類の物品費に充当する予定である.これら物品には,リポタンパク分離用のアガロースゲルやバッファー,超遠心によるリポタンパク分離に必要な超遠心チューブやチューブスライサーの刃やシリコンパッキングなどが含まれる.さらに今年度mRNA発現解析用Probeの開発・購入が必要となってくる.また,動物実験での再現性確認や食事負荷条件の検討のため,昨年度に引き続き,マウス用負荷食が必要である.論文作成・データ解析にあたり,ソフトウェアの購入ならびに作業のための専用PCの購入も必要である.
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