2012 Fiscal Year Research-status Report
細菌分子によるマトリックス・アンカーリングの機構解明と実用化を目指した前臨床研究
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23590516
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
松下 治 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (00209537)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
安達 栄治郎 北里大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30110430)
井上 浄 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (00433714)
森 望 香川大学, 医学部, 教授 (90124883)
内田 健太郎 北里大学, 医学部, 助教 (50547578)
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Keywords | 細菌毒素 / コラーゲン結合ドメイン / 細胞外マトリックス / 膠原線維 / アンカーリング / 骨新生 / 再生医療 / 技術移転 |
Research Abstract |
コラーゲンはヒトの細胞外マトリックスの主要な構成成分である。病原細菌にはコラゲナーゼを産生し組織を破壊して急速に病巣を拡大するものがある。Clostridium属細菌のコラゲナーゼから基質結合ドメインを単離し、これをアンカーとして用いる新しい薬物送達システム(DDS)を開発し、鼓膜再生や血管新生誘導に応用できることを示した。本年度は以下のことを明らかにした。 1)結合部位の解析 C. histolyticum class Iコラゲナーゼ(ColG)のコラーゲン結合ドメイン(CBD)は、コラーゲン様ペプチドのC末端に結合した。C末端では三重螺旋構造が緩んでいることから、CBDはこの構造を好んで結合する可能性がある。そこで、Gly→Ala置換により特定部位の螺旋を緩めたコラーゲン様ペプチドを作製してCBDの結合部位を決定したところ、CBDはその部位に選択的に結合することが明らかとなった。(Protein Sci., 2012) 2)構造活性相関の解析 マトリックス・アンカーとして利用してきたC. histolyticum class IIコラゲナーゼ(ColH)のCBDの三次構造を決定し、Ca2+結合部位の構造とコンフォメーション変換、基質との結合様式を明らかにした。ColGとColH由来の各CBDのアミノ酸配列同一性は約30%に過ぎないが、上述の構造と機能は両者でよく保存されており、ともに薬物アンカーに利用可能と考えられる。(J Bacteriol., 2013) 3)薬物シーズとモデル実験 ヒト型塩基性線維芽細胞成長因子(hbFGF)とCBDの融合タンパク質を高密度コラーゲン膜に結合させ、この複合材をモデル動物に投与し骨新生能を比較したところ、PBS処理したコラーゲン膜を用いたコントロールより有意に高い骨形成を認めた。(論文準備中)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に記載したように、それぞれのサブテーマにおいて初年度に目処をつけた各研究が、二年度目にはpublication qualityにまでpolishされ、特筆すべき結果につながった。 我々は細菌性コラゲナーゼ由来のCBDが薬物アンカーとして利用できることを示してきた。平成24年度はその基礎研究として、まずCBDの結合部位について作業仮説の検証を行なった。変異コラーゲン様ペプチドに対するCBDの結合部位をNMR perturbationと小角X線散乱により解析し、ColG CBDは三重螺旋が緩んだ領域に選択的に結合する事を証明した。この業績は高く評価され、Protein Science誌に論文掲載されるとともに、その表紙を飾ることができた。次に薬物アンカーの構造活性相関の解析では、ColH CBDの構造がX線回折により分解能2.0 Aまでrefineでき、示差走査熱量分析、小角X線散乱等による基質結合様式に関するデータも集積して、米国微生物学会誌に論文を発表できた。さらに、骨新生に係る前臨床研究では、初年度に部分脱灰骨を基剤として用いた骨新生誘導法を確立したが、平成24年度は供給が無尽蔵で入手が容易な高密度コラーゲン膜を基剤とした骨新生誘導法の検討を行なった。地道な条件検討を繰り返し、新たな骨再生用複合材とそれを用いた治療法を開発できた。初年度に達成した骨バンク活用による骨新生誘導法とともに現在論文作成中である。 平成24年度は、研究代表者、研究分担者、連携研究者の異動により、年度当初の研究速度は必ずしも十分では無かったが、各研究者の環境が安定するにつれ研究が加速し、上述の結果につなぐことができた。専門性の異なる第一線の研究者がそれぞれの特性を生かし有機的に連携できたことが目標達成の理由と考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで成長因子を組織に固相化するためのマトリックス・アンカーとしてC. histolyticum class IIコラゲナーゼ(ColH)のPKDドメインとCBDを利用してきた。平成24年度からPKDドメイン単体および本領域全体のX線回折による解析に着手し、これらのタンパク質の結晶が得られた。今後はこれらの構造生物学的解析を完了するため、別途に外部資金を獲得して海外研究協力者の研究室から我が国に学生を招き、PKDドメインの構造活性相関についての実験を行う予定である。さらに、CBDは実際のコラーゲン分子でも三重螺旋が緩んだ領域を嗜好して結合するか否かについて検討を行っている。このような研究により「マトリックス・アンカーリング」の臨床応用の基礎的基盤を形成したいと考えている。 前臨床研究では、骨新生誘導について正常動物モデル実験について論文発表を行うとともに、現在実施中の骨欠損モデル動物を用いた新規医療材料の使用法に関する研究では、動物の個体数を増やしてより精度の高い結果を得る予定である。さらに、コラーゲン結合型血管内皮細胞増殖因子(VEGF)-Aを用いた血管形成に関する論文を発表するとともに、コラーゲン結合型VEGF-Cを用いたリンパ管形成に関する研究に着手する予定である。 他方で、高密度コラーゲン・シートとコラーゲン結合型上皮成長因子を用いた鼓膜再生用複合素材の開発においては、民間企業への特許ライセンス契約を締結できた。今後は産学協同で実用化研究と商品開発を進める計画である。本研究を含む一連の研究の成果を実用化するためには、各医療材料についてGMPグレードの生産法の確立が必用であり、合わせて前臨床研究のため、10億円程度の資金が必要である。別途に外部資金を獲得して、この開発型研究を推進したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、研究代表者が岡山大学に異動したことで予定していた基本試薬等の購入を行うことなく研究を円滑に遂行できたため、若干の次年度使用額が生じた。平成25年度は、基本的に当初の計画どおり研究費を使用する予定である。マトリックス・アンカーの構造活性相関の解明をさらに進めるため、PKDドメイン単体およびPKD-CBD領域およびCBD変異体の生産ならびに抗体の作製を行って構造生物学的解析を行う予定である。この目的で遺伝子組換え用試薬、細菌用培地、グルタチオン-セファロース等のタンパク質精製用担体、一般試薬等、プラスチック器具等の消耗品を物品費として計上する。またPKDドメインの機能解析を行うため、各種リガンドを固相化した担体を購入または作製するための物品費を計上する。また海外研究協力者にタンパク質試料を送付するため、低温航空輸送に係る経費を計上する。コラーゲン結合型VEGF-AおよびVEGF-Cの産生系の確立、培養細胞による組換えタンパク質生産のための細胞培養用シャーレ、細胞培養用培地、タンパク質精製用担体等の消耗品も物品費として計上する。また、最終年度に相応しい学会発表を行うべく、これらの発表に係る旅費等も計上する。設備備品を購入する計画はない。
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Research Products
(9 results)