2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23590517
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Research Institution | Kyorin University |
Principal Investigator |
花輪 智子 杏林大学, 医学部, 講師 (80255405)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
神谷 茂 杏林大学, 医学部, 教授 (10177587)
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Keywords | 百日咳菌 / 病原性 / 細胞表層応答 / σE |
Research Abstract |
百日咳菌の必須病原因子である Adenylate cyclase toxin(CyaA)は細胞外に分泌された後、約90%は菌体表層に局在するがσEのanti-sigma factorであるRseAの欠損により培養液中のCyaA量は増加する。cyaAおよび分泌装置遺伝子の発現亢進はみられなかった一方で野生株培養上清のみにCyaA分解物が検出されたことから表層からの遊離様式の変化によりCyaAが安定化したものと予想した。そこで平成24年度にはrseA変異株におけるCyaAの遊離機構について検討を行った。 野生株およびrseA変異株を走査型電子顕微鏡で観察したところ変異株にのみ多数のvesicleが存在していた。対数増殖期の培養上清中outer membrane vesicle (OMV)画分を用いてBradford法により蛋白質量を測定したところ、変異株の培養液中の濃度は0.2 μg/mLに相当したのに対して野生株では検出限界以下であった。また、Immunoblotにより変異株のOMV画分中にCyaAが検出されたことからOMVによるCyaAの遊離経路が考えられた。一方、OMVを除いた培養上清画分にもCyaAが検出されたため、他の遊離経路の存在も考えられた。 FHAとCyaAはしばしば共存して分離精製される。抗体を用いてimmunoblotを行なったところrseA変異株の培養上清中FHAは野生株に比べて顕著に増加した。また、mRNA量に違いがなかったことからrseA変異株でFHAがCyaAと共同して遊離し、CyaAの安定性に寄与している可能性が考えられた。 今回、表層にあるCyaAがOMVおよびその他の経路を介して遊離される可能性が示されたことからσE活性化による病原因子の遊離形式の違いが百日咳菌の病原性発現に関っている可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度はE活性化によるCyaAの遊離様式についてOMVを中心に検討した。また、FHAの発現や遊離量に対する影響を調べ、CyaA遊離との類似性を見いだした。それらに加えてσEに制御される別の因子の検索を行なった。 (1)各菌株培養液よりOMVを精製し、CyaAがvesicleとして分泌される可能性を検討した。その結果、rseA変異株では顕著にOMVの産生量が上昇し、さらにその量も野生株と比較して顕著に増加した。(2)FHA抗体を用いてImmunoblotにより遊離量を野生株と比較した。また、発現量をqRT-PCRにより測定した。その結果、CyaAと同様にrseA変異株で培地中FHA量が増加した一方でmRNA量に変化はなかった。(3)その他のσE 依存因子の検索;外膜蛋白質の1つであるSmpA(small outer membrane lipoprotein A):はcell envelope integrity とSalmonella Typhimuriumおよび緑膿菌の病原性に関与する。σE活性化による転写活性を検討した。その結果野生株および変異株との間に違いは見られず、smpAの転写はσEには依存しないことが明らかとなった。(4)野生株と変異株のバイオフィルム形成を比較したところ、変異株で野生株より有意に厚いバイオフィルムを形成した。バイオフィルム形成には数多くの因子が関与しているが、σE活性化による弱いバイオフィルム形成能の増加がみられた。 以上より、研究を施行するにあたり、申請書に記載した実験をほぼ全て遂行し、十分な結果が得られたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に得られたrseA変異によるCyaAおよびFHAの遊離に対する影響が類似していたことから、これらの関連について検討を行なう。CyaAおよびFHAはともに免疫修飾作用があり、これまでにも共同して働くという報告がある。また、FHA欠損株ではCyaAは細胞表層に局在することなく、放出されること (Weiss & Falkow, 1983)、 CyaAの細胞表層への局在はFHAとの共同作用による(Zaretzky et al., 2002)ことが報告されている。その一方で、CyaAの局在はFHAの付着能に寄与しており(Perez et al., 2006)、これらのことからFHAはCyaAの標的細胞への輸送を担うとともに局所の濃度を上昇させることで効率よく作用させている(Zaretzky et al.,2002)と考えられる。従って今年度は表層ストレスによるCyaA放出とFHAの役割について検討を行なう。 (1) 細胞表層ストレス処理後の野生株および変異株の培養上清に存在する蛋白質をnative gel electrophoresisおよび抗体を用いて解析し、CyaAおよびFHAの存在様式について生化学的に解析する。 (2) 野生株上清にみられる分解物を質量分析により解析し、主な分解物と切断部位を明らかにする。 (3) 細胞表層ストレス処理した野生株およびrseA変異株の細胞への接着率および遊離したFHAおよびCyaAの生物活性を測定する。 これらの研究成果により細胞表層ストレスによる百日咳菌の病原性制御の機構を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記の平成25年度の研究計画から研究費は主にqRT-PCRおよびimmunoblottingに係る試薬および、培養細胞を用いた病原因子の活性測定のためのELISA kit等の試薬および消耗品等に用いる他、国際学会での発表および学術雑誌への投稿のための英文校正等に使用する予定である。
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