2011 Fiscal Year Research-status Report
白癬の病態形成に対する起因菌分泌型セリンプロテアーゼ多重遺伝子族の機能解析
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23590520
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
山田 剛 帝京大学, 医真菌研究センター, 准教授 (80424331)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 白癬菌 / 分泌型セリンプロテアーゼ / 多重遺伝子族 / マーカーリサイクルシステム / 病原因子 |
Research Abstract |
白癬は世界中に患者が多数存在する地球規模の感染症である。本疾患に対する有効な手立てを講じるためには起因菌(白癬菌)の感染メカニズムの理解が不可欠となる。本研究課題において、申請者らは重要な病原因子とされてきた分泌型ケラチン分解性プロテアーゼの一つである「ズブチリシン型セリンプロテアーゼ遺伝子ファミリー(Subs)」に着目し、本菌の表皮侵入過程における各sub遺伝子の役割・遺伝子間の相互作用の体系的な理解を目指している。 多くの白癬菌種において、Subsは相同性の高い7個の遺伝子(Sub1~7)で構成されている。こうした多重遺伝子族の解析を進める際、遺伝子を何重にも破壊した多重破壊株は有用な解析手段となる。そこで平成23年度は、Sub遺伝子の多重破壊株を作出する上で必須要件となるコンディショナルプロモーターを利用した遺伝子発現制御システムならびに部位特異的組換え酵素(FLP)による形質転換体の選択マーカー(薬剤耐性遺伝子)リサイクルシステムの構築を中心に研究を行った。コンディショナルプロモーターとして当初検討したステロイドホルモン受容体応答性プロモーターについては十分な成果が得られなかったが、予備的に検討していた(銅イオンの添加によって遺伝子発現が抑制される)銅イオン応答性プロモーター(Pctr4)が白癬菌細胞内で効率良く機能することを確認した。そこで、Pctr4/FLPを基に構築した選択マーカーリサイクル用コンストラクトを導入した形質転換体を作出し、それらのゲノムDNAを解析した結果、部位特異的組換えに基づくマーカーのリサイクルが可能であることを確認した。本結果を踏まえ、先のマーカーリサイクルシステムに基づくSub遺伝子ファミリー破壊用コンストラクトを構築し、Sub遺伝子多重破壊株で構成される破壊株ライブラリーの構築をすでに始めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」でも述べたが、平成23年度は解析ターゲットであるSub遺伝子の多重破壊株を作出する上で必須となるコンディショナルプロモーターを利用した遺伝子発現制御システムならびに部位特異的組換え酵素(FLP)による形質転換体の選択マーカー(薬剤耐性遺伝子)リサイクルシステムの構築を中心に研究を進めてきた。予備的に検討していた(銅イオンの添加によって遺伝子発現が抑制される)銅イオン応答性プロモーター(Pctr4)がコンディショナルプロモーターとして白癬菌細胞内で効率良く機能することを確認した。そこでPctr4/FLPをベースに構築した選択マーカーリサイクル用コンストラクトを導入した形質転換体の染色体(ゲノムDNA)を解析したところ、FLPのもつ部位特異的組換え活性によって選択マーカーをゲノムDNAから除去できることを確認した。その結果、同一の選択マーカーを形質転換体のスクリーニングに再利用できることが判明し、本研究課題申請時に作成した平成23年度の研究計画をほぼクリアしている。 現在申請者は平成23、24年度の研究計画に従い、ケラチンによって顕著に活性化するとされるSub遺伝子座について、先の選択マーカーリサイクルシステムを利用してSub遺伝子ファミリー破壊用コンストラクトを構築し、白癬菌への導入・形質転換体のスクリーニングを進めている。複数種のSub遺伝子多重破壊株で構成される破壊株ライブラリーを今年中に構築することができれば、平成24、25年度の研究計画に従って、これら多重破壊株のin vitroならびに「モルモット白癬モデル」を利用したin vivo解析へと移行していく予定である。そのような意味においても本研究課題は概ね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの達成度」で述べた通り、平成23年度の研究到達目標であるコンディショナルプロモーターを利用した遺伝子発現制御システムならびに部位特異的組換え酵素(FLP)による形質転換体の選択マーカーリサイクルシステムの構築については、本研究課題に係る実験が概ね順調に進み、予想通りの結果を得ることができたと考えている。平成24年度は、前年度に構築した「形質転換体の選択マーカーリサイクルシステム」をベースに、ケラチンによって顕著に活性化するとされるSub遺伝子座の多重破壊株の作出を中心に研究を展開していく予定である。現在、異なるSub遺伝子座の多重破壊株で構成される破壊株ライブラリーの本年中の構築を目指して、遺伝子破壊(形質転換)実験をすでに開始している。平成24年度終盤、そして最終年度となる平成25年度を通じて、破壊株ライブラリーのin vitro条件下における表現型解析、さらには申請者の所属する研究施設で独自に確立した「モルモット体部白癬モデル」を利用したin vivo条件下の解析を展開し、感染病巣の経時的変化とSub遺伝子の関係を明らかにしていく。その結果として、Sub遺伝子ファミリーが白癬菌の組織侵入過程のどの時期に、どのような組み合わせで産生され、そこでどのような役割を果たしているのか?これらの疑問点に関する体系的な理解を進め、本菌における分泌型プロテアーゼの病原因子としての意義(重要性)に関する解答の一端を得る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度は解析ターゲットであるSub遺伝子ファミリーの多重破壊株を作出する上で必須となるコンディショナルプロモーターを利用した遺伝子発現制御システムならびに部位特異的組換え酵素(FLP)による形質転換体の選択マーカーリサイクルシステムの構築を進めてきた。本研究課題に取り組む以前からコンディショナルプロモーターの候補として検討を進めていたステロイドホルモン受容体応答性プロモーターについて、平成23年度中の実験を通じて、白癬菌細胞内で十分な機能を得ることがむずかしいと判断した。しかし、予備的に検討していた銅イオン応答性プロモーター(Pctr4)が十分な機能を有することを確認した。Pctr4によって白癬菌細胞内における遺伝子発現を制御することが可能となったことから、FLPによる形質転換体の選択マーカーリサイクルシステムを概ね当初の計画通りに構築することができ、結果的に平成23年度の研究課題にかかる費用を抑制することができた。次のステップとして平成24年度は「異なるSub遺伝子座の多重破壊株で構成される破壊株ライブラリーの構築」、さらには「破壊株ライブラリーのin vitroならびにin vivo条件下における表現型解析の実施」を予定している。本年中の構築を目指している「Sub遺伝子座の破壊株ライブラリー」については、遺伝子工学的手法を最大限に利用し、できる限りバラエティ豊かにしていきたいと考えている。また、バラエティ豊かなライブラリーが得られれば、それに伴ってライブラリーの表現型解析、特に動物モデルを利用したin vivo条件下の解析スケールを拡大する予定である。このような研究課題を遂行するために、平成23年度に生じた余剰分の費用を平成24年度に申請する費用と併せて使用する予定である。
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